ストックオプションは上場企業のうち600社程度が導入している制度です。
この制度は役員退職慰労金の廃止と引き換えに導入された企業も多く存在します。
今回は株式報酬型ストックオプション(いわゆる1円ストックオプション)において、なぜ退職後の短期間に権利行使を行うルールとなっているのか、なぜ権利行使をしても1年は売却できない契約となっている(ことが多い)のかについて考察します。
- 1円ストックオプションとは
- なぜストックオプションが広まったか
- 1円ストックオプションの優位性
- 1円ストックオプションはなぜ退職後すぐに権利行使をしなければならないのか
- なぜ1円ストックオプションでは権利行使後すぐに株式を売却できないのか
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1円ストックオプションとは
1円ストックオプションとは、役員等の報酬について、現金ではなく1円で自社株式を購入する権利を付与しておく仕組みです。役員等は自社株式を1円で手に入れることができるのですから、購入価格1円と自社株の時価(たとえば500円)との差額が利益となります。
ストックオプションとは、単純化すれば株式をあらかじめ決められた価格で買う権利といえるでしょう。
なぜストックオプションが広まったか
ストックオプションは役員退職慰労金の代替手段として広まってきた経緯があります。
過去に日本企業が導入していた役員退職慰労金は、在職期間に応じて退職慰労金が増加する仕組みが一般的であり、役員がなんら結果・成果を出さなくとも長く在職すれば多額の退職慰労金がもらえるものでした。
これには株主の反対も強く、役員退職慰労金の廃止を行った企業も多数ありました。
もちろん、単なる役員退職慰労金の廃止ではなく、異なる手段も様々に模索されました。
その中で拡大したのが1円ストックオプションです。
1円ストックオプションの優位性
批判の強かった役員退職慰労金の代替手段としては以下が考案されました。
- 退職慰労金部分の役員報酬への上乗せ(前払い)
- 役員持株会の導入
- 株式報酬型ストックオプションの導入
なぜ、前2者があまり普及しなかったかといえば、役員にとっての税金面での問題がありました。
役員退職慰労金は退職時に給付を受けるわけですから、税の控除が多い退職所得となります。
ところが役員の基本報酬に役員退職慰労金見合い部分を追加されてしまうと、この見合い部分は給与所得として課税されます。給与所得には税の控除はほとんどないため役員等にとって手取額で比較した場合には大きな差がついてしまいます。
これは役員持株会でも同様です。役員が持株会で自社株を購入する際に奨励金等を上乗せするとしても(もしくは役員退職慰労金見合い部分の大半を役員報酬に上乗せし、その同額を持株会を通じた自社株買いをする制度としても)、この制度でも上記のように退職所得にはならないため役員等にとっては手取額が著しく異なることになります。
ところがストックオプションは制度をうまく組み立てると退職所得とすることができるのです。
これならば自社の株価が上昇するインセンティブも役員等に持たせることができますし、退職所得になりますから役員退職慰労金と比べても役員等にとって実際の収受額があまり変わらないようにできます。これは株主からみても役員退職慰労金よりは望ましい制度だったといえるでしょう。
1円ストックオプションはなぜ退職後すぐに権利行使をしなければならないのか
おそらく1円ストックオプションを導入されている企業の大半は退職後10日以内にストックオプションの権利行使をしなければならないとルール化されていると思われます。
なぜ10日という短期間なのでしょうか。
1円ストックオプションは退職所得とするために設計されています。すなわち退職所得に該当するかどうかが役員退職慰労金の代替手段として重要だったわけです。
そのため、(株)伊藤園が税務上の取り扱いに関する事前照会に対する文書回答制度を用いて問い合わせを行いました。
この伊藤園のストックオプション制度は役員退職後10日以内というものであり、これに国税はお墨付きを与えたわけです。
権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について|東京国税局|国税庁
ただし、退職所得に該当するかどうかは、法律上も○日以内などとは定められていません。あくまで国がお墨付きを与えた確実に安全なタイミングが10日以内だったということです。
これが現在の1円ストックオプション制度で権利行使日を役員退任後10日以内に定めている企業が多い理由です。
なぜ1円ストックオプションでは権利行使後すぐに株式を売却できないのか
また各社の1円ストックオプション制度では権利行使後(すなわち株式取得後)1年は株式を売却できない旨を定めている企業が多いでしょう。
これはインサイダーの問題が関係しています。
金融商品取引法では166条1項において退任後1年以内の役員もインサイダー取引における会社関係者としています。役員は退任後1年までは会社関係者として重要な情報を知り得る立場にいるか、もしくはこれから公表されるかもしれない重要な事実を知っている人物ということになるのです。
また東証Rコンプライアンス研修センター(COMLEC)が公表している内部者取引(=インサイダー)防止規程事例集では、事例113、115等で役員退任後1年内の自社株式の取引を報告させる等の規程を整備している企業の事例を示しています。
1円ストックオプションで取得した株式をすぐに現金化できない規程が整備されている企業が多いのは上記の理由によるものなのです。
以上、いわゆる1円ストックオプションについてみてきました。今後は特定譲渡制限付株式や株式給付信託に代替されていくかもしれませんが、このストックオプションが役員報酬において果たした役割は大きいものがあります。制度を一度概括しておくのは有用でしょう。
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