銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

みずほFGの採用半減というニュース自体は「価値無し」

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みずほFGが採用を半減することが報道されています。

この動向を報道各社は「銀行の収益が苦境に置かれていることが背景にあり、今後、銀行は構造改革が必要となり人員・店舗等が大幅に削減される」との論調で報道しています。

今回の記事では、みずほFGの新卒採用人員数について、もう少し深堀してみていくことにしましょう。

銀行の採用人数は、そんなに簡単に割り切れるような理由のみで変動するわけではありません。

みずほFGの採用動向

みずほFGの新卒採用は2019年の採用数が前年に比べて半減するようです。

以下、時事通信の記事を引用します。

みずほFG、来春の採用半減=収益悪化、他行も抑制

3/24(土) 11:00配信 時事通信

3メガバンクが2019年4月の新卒採用人数をそろって削減することが24日、明らかになった。みずほフィナンシャルグループ(FG)は約700人と今春の半分程度にする方向。三菱東京UFJ銀行や三井住友銀行も減らす。超低金利の長期化などで収益環境が悪化しているため、採用を抑える。
景気回復と人手不足を背景に大手企業の多くは採用を積極化。学生の就職活動は「売り手市場」とも言われるが、就職先として人気が高い銀行は狭き門となりそうだ。
みずほFGは、ITを活用した業務効率化により26年度までに従業員を1万9000人削減する計画で、採用抑制もその一環となる。今春の採用数は、傘下のみずほ銀行とみずほ信託銀行を含め1365人。新たな基幹システムの開発にめどがついたこともあり、大幅に減らす。 

また、三菱東京UFJ銀行は2018年4月入行の1,030人から翌年度は1割減、三井住友銀行は2018年4月入行800人程度から翌年度は2~2.5割減とする模様です。

これがメガバンクの採用人数について報道されている内容です。

みずほFGの人員推移 

みずほFGは新卒採用を半減しなければならないほど苦境に立たされているのでしょうか。

まずはみずほFGの中核であるみずほ銀行(合併前はみずほ銀行とみずほコーポレート銀行の合算)の単体人員数がどのように推移してきたかをみてみましょう。

まずは2003年から2010年までの間をみていきます。

<正社員数>

2003年3月末:27,209名

2004年3月末:24,998名

2005年3月末:22,733名

2006年3月末:22,970名

2007年3月末:24,412名

2008年3月末:24,890名

2009年3月末:26,045名

2010年3月末:27,090名

わずか数年の間に急激に正社員数が減少し、その後増加したことがわかるでしょう。

近時の人員数推移は以下の通りとなります(2011年3月末以降は、臨時従業員数についても記載します)。

2011年3月末:正社員27,276名+臨時従業員11,291名

2012年3月末:正社員27,609名+臨時従業員11,180名

2013年3月末:正社員26,564名+臨時従業員10,559名

2014年3月末:正社員26,250名+臨時従業員8,173名

2015年3月末:正社員26,561名+臨時従業員10,739名

2016年3月末:正社員27,355名+臨時従業員10,909名

2017年3月末:正社員29,848名+臨時従業員数11,372名

2017年9月末:正社員30,901名+臨時従業員数11,716名

みずほ銀行の直近15年程度の人員数についての傾向は、正社員の大幅削減→人員数の逼迫→正社員採用大幅増→みずほ銀行とみずほコーポレート銀行の合併による人員余剰→臨時従業員(非正規雇用者)での調整→業務量の増加による正社員及び臨時従業員の増加という流れです。

どの銀行も法令対応、海外業務拡大等で人員の逼迫感が強いのですが、特にみずほ銀行の人員数の増減は傾向が読みにくいといえます。一見すると全く脈絡なくその場しのぎで採用しているようにみえます。おそらく、近時はみずほ銀行とみずほコーポレート銀行との合併、ずっと不調に終わっていたシステム統合が影響しているものと思われます

(本項目は以下の記事を加筆修正したもの)

 メガバンクの3.2万人リストラ報道について考える②~みずほ銀行の事例~ - 銀行員のための教科書 

以上がみずほFGの中核会社であるみずほ銀行の人員数推移です。 

みずほFGの今後の計画

みずほFGの構造改革(人員数削減含む)計画は以下の通りです。 

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(出典 みずほFG 2017年9月中間決算説明会資料)

上記の資料の内容から明らかなように、みずほFGは10年かけて1.9万人(約1/4)を削減する計画です。

しかも、50歳前後の大量採用世代の削減を通じてスリム化・高コスト構造を是正するとしています。

上図(右下20Pとの記載があるページの右下)では20~30歳にかけては「平らな」人員構成を想定しています。

すくなくとも新卒採用を抑制して人員数を減少させるといったものではないことは明らかです。

そもそも人員削減を10年もかけて実施するのは、発表するほどの計画といえるかも疑問かもしれません。

これがみずほFGの人員計画の基本です。

みずほFGの採用減についての所見 

まず、みずほFGの2017年9月中間決算における実質業務純益(一般の会社の営業利益)は前期比▲41%と大幅減益となりました。

これは報道されているように低金利の影響があることは間違いありません。みずほFGとしては債券の含み益がなくなってきており利益を出しづらくなっていると筆者は想定しています。

しかし、この中間決算はそのような単純なものばかりではありません。

まず、貸倒引当金の戻り入れが多額に発生することが想定されており、株主にとって重要な最終利益はある程度の数字が確保できる見通しが立っていたであろうことは重要な前提となります。

その上で、筆者はみずほFGの経営陣が2017年9月では「あえて実質業務純益を大幅減益で着地させた」と想定しています。

この理由は簡単です。本業の収益が悪いのであれば従業員に対してリストラを求めやすくなるからです。

2018年は労働契約法の改正により、一定の条件を充たせば有期雇用の臨時従業員が無期雇用への転換を企業に求めることができるようになります。

上記の図表でも触れたように、みずほFGは約1.9万人の従業員を削減すると中間決算で発表しました。

みずほFGには連結ベースで約2万人の嘱託・臨時従業員が在籍しています。この非正規雇用をある程度削減することも、業績が悪いとなればやりやすいでしょう。以上の背景、理由があったために、みずほFGは今回の中間決算としたと筆者は想定しています。

www.financepensionrealestate.work

みずほFGが2019年春から採用人数を絞ることは、銀行業の構造不況化を受けてのことかもしれません。

しかし、本当に収益が苦しく、業態維持が困難であるならば10年もかけてリストラをする余裕はありません。

今すぐに人員削減を行い、店舗削減を加速し、徹底的に無駄を省くとともに、必要な分野に資金を投下していかなければなりません。もちろん、構造改革の計画で、毎年一定数の新卒採用を行うような図表を発表することもできません。

銀行は上記で見てきたように、採用人数を人員計画のみならず、雰囲気や他行との競合(と筆者は長年感じてきましたが、万が一にも間違っていたら申し訳ありません)、システム統合のイベント等で増減させます。

そこに、長期的な観点からみた一貫した人事戦略はありません。むしろ思い付きに近いものといっても良いかもしれません。

今回の採用人員数の削減は、単純に銀行の収益が厳しいということではなく、非正規雇用者の削減を円滑に行うこと、収益改善を行うという経営陣の株主へのメッセージ、みずほFG内へのメッセージ等、様々な要因が絡み合い決定されているモノなのです。

よって、筆者からすると今回のみずほFGの新卒採用数の半減はニュースとなるようなものではないのです。銀行が構造不況業種といわれるより以前から新卒採用数は大幅な増減を繰り返したのです。

ニュースとなるのであれば、むしろ情報を流した側(=みずほFG)に何らかの思惑があって流したと思った方が良いでしょう。

もしみずほFGの採用でニュースにするのであれば「新卒一括採用は半減させるが、AI技術者等の中途採用を増やす」ということなら理解はできます。フィンテックへの対応等、異なる分野へ踏み出すことが明確だからです。

よって繰り返しになりますが、今回の新卒採用数減は、ニュースといえるレベルではありません。額面通りに受け取るのであれば、価値のない情報といえます。

物事には裏と表があるということではないでしょうか。