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みずほFGと三井住友トラストとの資産管理銀行統合はメガバンク再編の序章か

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2017年3月に基本合意が発表されていたみずほFGと三井住友トラストHDとの資産管理銀行統合の具体像が日本経済新聞で報道されました。

今回の記事は、この両銀行グループの資産管理銀行統合の意義と今後の動向について考察します。

報道内容

まずは報道内容を確認しておきましょう。
以下、日経新聞の記事を引用します。

みずほFGなど資産管理銀の持ち株会社名「JTCホールディングス」に 2018/03/27 日経新聞

みずほフィナンシャルグループ(FG)や三井住友トラスト・ホールディングスは資産管理銀行を束ねる持ち株会社の名称を「JTCホールディングス」とする方針を固めた。2021年をめどに傘下の2行を吸収合併する。経営規模の拡大で事務の効率化を進め、営業力も強化する。
新会社は10月に設立する。みずほFGが筆頭株主の資産管理サービス信託銀行(TCSB)と三井住友トラストの子会社である日本トラスティ・サービス信託銀行(JTSB)の持ち株会社となる。出資比率は三井住友トラストが約33%、みずほFGが27%で、役員人事は今後詰める。
統合は2段階で、まず持ち株会社をつくるため統合契約を近く交わす。そのうえで21年をめどに持ち株会社が傘下の2行を吸収合併する予定だ。
資産管理銀行は年金基金や生命保険会社などの機関投資家から資産を預かり、利子や配当の支払いといった事務を請け負う。両行合計の預かり資産は昨年12月末時点で700兆円に迫る。国内では三菱UFJ信託銀行などが出資する日本マスタートラスト信託銀行を含めた3行体制が続いてきたが、今回の統合で2陣営に集約される。
投資家の要望に応えるには定期的なシステム投資が求められる。経営規模の拡大で効率性が高まれば投資の余力も捻出しやすくなるとみている。

以上が報道内容です。

前回の統合基本合意

ここで、本件統合の前提となる2017年3月に発表された統合の基本合意の内容についても参考までに確認しておきましょう。

以下、みずほFGのプレスリリース内容を引用します。

資産管理専門信託銀行の統合に関する基本合意について(2017年3月29日)

三井住友トラスト・ホールディングス株式会社(取締役社長:北村 邦太郎)、株式会社みずほフィナンシャルグループ(執行役社長:佐藤 康博)、株式会社りそなホールディングス(取締役兼代表執行役社長:東 和浩)の子会社である株式会社りそな銀行及び第一生命ホールディングス株式会社(代表取締役社長:渡邉 光一郎)の子会社である第一生命保険株式会社は、日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(代表取締役社長:桑名 康夫、以下「JTSB」)と資産管理サービス信託銀行株式会社(代表取締役社長:森脇 朗、以下「TCSB」)の経営統合(以下「本件統合」)に向けた、詳細な検討及び協議を開始するべく、基本合意書を締結いたしましたのでお知らせいたします。
なお、本件統合につきましては、国内外の関係当局への届出ならびに許認可の取得を前提としております。

1. 本件統合の目的
JTSB は、2000 年の設立以降、信託業務(原受託者である信託銀行からの再信託業務)を中心に預り資産残高を拡大し、信託財産残高は 244 兆円(2016 年 9 月末時点)を有しております。
TCSB は、2001 年の設立以降、信託業務に加えて生命保険会社からの包括的有価証券管理アウトソーシングサービス等の幅広い業務領域に特徴を有し、信託財産に常任代理人業務等を加えた預り資産残高は 375 兆円(2016 年 9 月末時点)を有しております。
今般、資産管理業務に係る両社の経営資源・ノウハウを結集させることにより、規模のメリットを追求するとともに、安定的かつ高品質なオペレーションを実現し、国内証券決済市場の更なる発展並びに本邦のインベストメント・チェーンの高度化に貢献することを目的としております。
2. 統合会社の目指す姿
統合会社は、国内最大規模の資産管理を行うことによる規模のメリットの追求に加え、新たなテクノロジーの活用等によるオペレーション・システムの強化や資産管理業務の専門人材育成等により、運営を高度化し、資産管理分野において、年金信託や投資信託等の有価証券を管理する信託業務や包括的有価証券管理アウトソーシングサービス等を含む、お客様のあらゆるニーズに幅広くお応えする国内トップの資産管理専門信託銀行を目指してまいります。
(中略)
4. 本件統合の日程
本件統合に関して、詳細な検討及び協議を行い、2017 年度下期を目途に最終契約を締結することを目指してまいります。最終契約締結後、本件統合に必要な各社の取締役会決議及び株主総会決議、国内外の関係当局への届出、許認可の取得等を前提として、システム構築のスケジュールを勘案しながら、早期の統合効果実現を図る予定であります。
なお、経営統合ストラクチャー、統合会社の商号、本店所在地、代表者予定者等については、今後検討を進めてまいりますので、決定次第お知らせいたします。

今回の日経新聞の記事は、この統合の資本構成等が固まったということです。

資産管理銀行の概要

ここで統合される資産管理銀行の概要について把握しておきましょう。

今回統合となる資産管理サービス信託銀行と日本トラスティ・サービス信託銀行、それに統合には参加しないMUFG系の日本マスタートラスト信託銀行の各々についての概要です。

以下、いずれも2017年3月末時点の情報です。

 

<資産管理サービス信託銀行>(みずほ)
経常収益(=売上高) 23,462百万円
経常利益 990百万円
信託受託財産 385兆円
従業員数 652名
株主構成 みずほ54%、第一生命16%、朝日生命10%、明治安田生命9%、かんぽ生命7%、富国生命4%

 

<日本トラスティ・サービス信託銀行>(三井住友トラスト)
経常収益 26,559百万円
経常利益 576百万円
信託受託財産 259兆円
従業員数 1,016名
株主構成 三井住友トラスト・ホールディングス66.7%、りそな銀行33.3%

 

<日本マスタートラスト信託銀行>(MUFG)
経常収益 23,328百万円
経常利益 1,274百万円
信託受託財産 382兆円
従業員数757名
株主構成 三菱UFJ信託銀行46.5%、日本生命33.5%、明治安田生命10%、農中信託10%

 

この三行を比較すると、収益レベルはいずれも変わりません。みずほFGの資産管理銀行とMUFGの資産管理銀行の信託受託資産額にはあまり差がありませんが、三井住友トラストについては受託資産額が少ないようです。

しかしながら、この受託資産から得られる収入は他2行とあまり変わりませんので、他2行は「儲からない」受託案件が比較的多いということがいえるかもしれません。

みずほと三井住友トラストの資産管理銀行はいずれも単体の利益レベル(利益率も)ではMUFGに劣後しており、効率化の観点からMUFGの方が優位といえます。

いわば利益の低い2行が統合し、コスト削減を行い投資余力を確保するということになるのです。

これが今回の資産管理銀行の統合の狙いです。

今後の動き

以上が両銀行グループの資産管理銀行統合の表面的な理由です。

この理由自体は何ら問題がありません。

資産管理銀行とは、端的に言えば事務会社です。

資産管理銀行は年金基金や生命保険会社などの機関投資家から資産を預かり、利子・配当の支払いや会計、税務といった事務を請け負っています。

他社の有価証券等の管理事務を代行しているといって良いでしょう。

有価証券投資は国内ならまだしも、外国への投資は税務面や法律面等で日本とは異なります。

機関投資家が様々な国に投資をする場合、税務面・会計面等で慣れていないため苦労をします。

その投資管理の代行を資産管理銀行は担うのです。

事務会社ですから規模が大きいほど効率は高まります。

そして、資産管理は巨大なコンピューターシステムが必要で、システム投資が欠かせません。

今回の統合はこのコスト削減・システム投資の余力確保が狙いであることはありません。

しかし、それだけでしょうか。

筆者はこの資産管理銀行の統合は様々な思惑が働いているものだと考えています。

まず、みずほFGは間違いなく三井住友トラスト(三井住友信託銀行を中核とするグループ)との「全面」統合を望んでいるでしょう。

資産規模はともかく収益力ではみずほFGは三井住友FG(三井住友銀行を中核としたフィナンシャルグループです)に劣後しています。

メガバンクで万年3位となっているのです。

この状況を打開するには、三井住友トラストとの統合は好都合なのです。

みずほFGからみると、三井住友トラストとの統合は、国内で若干でも拡大が期待できる信託分野でメガバンク中トップの座を確保することが出来ます。加えて、異なる財閥グループである三井グループ、住友グループとのコネクションを強化できます。

そして、利益面でも三井住友FGに十分対抗できるようになります。

三井住友トラストとの全面統合は、他メガバンクに追い付き追い越す逆転の一手となり得るのです。

一方で、三井住友トラストからみても、みずほFGとの今回の資産管理銀行の統合はメリットがあります。

三井住友信託銀行と三井住友銀行が犬猿の仲であるとは銀行業界で長年言われてきたことです。
同じ財閥グループに属する2行は統合してもおかしくはありません。

しかし、独立心が強い三井住友信託銀行(=三井住友トラスト)は、三井住友銀行に主導権を握られることは避けたいと考えているでしょう。

みずほFGとの今回の資産管理銀行統合=提携は、この三井住友銀行(三井住友FG)への牽制ともなるのです。

最終的に三井住友FGと統合するとしても、みずほFGとの関係をも確保し、統合を有利に進めることが出来るようになるとの皮算用は働いているものと思われます。

また、逆に三井住友トラストがみずほFGと全面的な経営統合をしたとしても、信託分野では主導権を発揮できるでしょう。今回の資産管理銀行の統合でもしっかりと最大の議決権を確保しました。

今回の資産管理銀行の統合は、みずほFGにとっても、三井住友トラストにとっても、今後の選択肢を広げる良い提携なのです。

この2行の今後の動向に筆者としては注目しています。