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みずほFGの企業年金減額は、キャッシュ・バランス・プランという制度の導入を意味する

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みずほフィナンシャルグループ(FG)が、企業年金の減額を検討していると報道されています。

この企業年金減額はどのような仕組みなのでしょうか。

あまり注目されることがない企業年金制度の変更について今回は着目してみます。

 

報道内容

まずは、日経新聞の報道記事を確認しましょう。以下引用します。

みずほFG、企業年金減額へ 予定利率下げ検討
2019/11/18 日経新聞

 みずほフィナンシャルグループは確定給付年金の予定利率を、2020年10月から変動制に切り替える検討に入った。これまで終身年金の利率は年齢によって3~5.5%としてきたが、20年国債の5年平均の利回りに1.5%を加えた率に変更する。実質的な年金減額となる。従業員組合との協議を経て実施を目指す。
 企業年金には持ち株会社やみずほ銀行、みずほ信託銀行などのほか、各社からの出向者も含めた約3万5千人が加入する。予定利率の下限は1.5%、上限は5.5%とする方針。長引く低金利による運用環境の悪化や高齢化を受けて、持続可能な年金制度に改める。
(以下略)

この記事で確認できることは、みずほFGの確定給付年金(企業年金)の利率が年齢によって3〜5.5%(おそらく固定利率)となっていたこと、これを20年国債の5年平均利回りに1.5%を加えた率(=変動利率)に変更すること、変更するとしても利率は1.5〜5.5%と上下限を決めること、となります。

 

年金制度の分類

みずほFGの企業年金制度について確認していく前に、一般的な企業年金制度の分類について確認しておきます。

企業年金は主に確定給付型と確定拠出型に分類出来ます。

確定給付型は、年金の給付算定式が決められており、給付内容を企業が約束している制度です。

確定拠出型は、企業が払い込む年金掛金の額だけが決められており、掛金の供出内容を企業が約束している制度です。

確定給付型は企業が年金の運用リスクを負うのに対して、確定拠出型は従業員個人が運用リスクを負います。

以下は確定給付制度と確定拠出制度のメリット・デメリットの比較です。りそな銀行の資料を一部加筆修正しています。(出所 りそな銀行 キャッシュ・バランス・プランについて 2002年10月)

 

【確定給付制度】

①企業
<メリット>

  • 退職一時金制度からの移行がしやすい。
  • 退職事由による給付差を設けることができ、短期勤続優遇、長期勤続優遇など給付カーブの設計が比較的自由なため、雇用政策を反映させやすい。
  • 掛金拠出に柔軟性がある。(企業が払い込まなければならない金額に柔軟性がある)

<デメリット>

  • 資産運用の低迷等予定との乖離により追加負担が発生することがある。(運用リスクを企業が負う)

②従業員
<メリット>

  • 運用リスクを負わない。
  • 給付額の見込みがわかりやすく老後の生活設計がたてやすい。

<デメリット>

  • 年金制度が終了するとき規約に定める給付を受け取れないことがある。(企業が破綻した場合等で影響が出る)

 

【確定拠出制度】

①企業
<メリット>

  • 運用リスクを負わない。
  • 退職給付会計上、PBOの対象外とできる。(企業のバランスシート上の負債に計上しない)
  • 追加負担が発生しない。(掛金の払込だけを行えば良い)

<デメリット>

  • 支給額が元利合計になるため勤続年数に応じた給付カーブが一律的である。(一般的には長期の勤続を促すよりは転職=早期に退職したい従業員に有利となる)
  • 従業員に対する投資教育にコストがかかる。

②従業員
<メリット>

  • 個人口座に年金資産が管理されるため給付額の把握が簡単で、制度終了時にも口座残高が確実に受け取れる。(企業の破綻等に影響されない)
  • 転職時に口座残高を転職先の確定拠出制度に非課税で移換できる。

<デメリット>

  • 運用リスクを従業員が負い、予想した退職金額を受け取れない可能性がある。
  • 運用ロットが個人単位で少額のため、手数料が割高になるおそれがある。

 

以上が確定給付および確定拠出という両制度の比較です。

 

変更後の年金制度

では、みずほFGの変更後の企業年金制度はどのようなものになるのでしょうか。

報道記事から確認する限りでは、みずほFGの制度は確定給付と確定拠出制度のハイブリッドとなります。

すなわち、確定給付制度のデメリットである「実際の運用利回りが予定していた利回りを下回る場合等に生じる企業の追加負担」の軽減、確定拠出制度のデメリットである「運用リスクを従業員が負うことによる将来の年金給付の不安定さ」の軽減を目指す制度となっているのです。

みずほFGが導入しようとしている制度は「キャッシュ・バランス・プラン」もしくはその類似制度です。

キャッシュ・バランス・プランとは、簡単に言えば「金利水準の変動に応じて年金給付額が変動する制度」です。

<キャッシュ・バランス・プランのイメージ図>
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(出所 日立国際電気企業年金基金Webサイト)

この制度のポイントは、一般的な確定給付制度よりも企業の運用リスクが軽減されることです。すなわち、みずほFGの事例の場合は20年国債の5年平均利回りに一定の上乗せをした利率で従業員に年金を給付することになりますが、これは見方を変えれば「金利水準によって企業が給付しなければならない年金の金額が変動する」ことを意味します。年金の運用が安全を期して国債だけだったならば、まさに国債の金利水準は運用利回りに直結します。このような観点で企業の運用リスクが軽減されているのです。

また、従業員にとっては、確定拠出制度よりは最低限の利回りが保証されていることから、年金受給額が安定していると言えます。もちろん、運用リスクを自身では負いません。

すなわち、ハイブリッド型であるキャッシュ・バランス・プランは、良く言えば「確定給付と確定拠出制度の良いところ取り」の制度であり、悪く言えば「企業と従業員がお互いに痛み分け」になっている制度なのです。

それでも、みずほFGはキャッシュ・バランス・プラン(もしくはその類似制度)を導入することになるのでしょう。これは会社としてマイナス金利環境、すなわち年金の運用が厳しい時期が続くと判断したということです。会社へのマイナスの影響を避けるためにキャッシュ・バランス・プランを導入するのです。

尚、筆者の知る限り、キャッシュ・バランス・プランを導入している企業は相当数存在します。確定拠出制度までに一足飛びに制度移行するのは従業員にとって厳しいため、中間を取ってキャッシュ・バランス・プランを導入し、運用リスクを軽減している企業は相応に存在するのです。

一方で、みずほFGは今まで従業員に対して、高い水準での固定利回りを約束してきました。従業員にとっては素晴らしい制度だとは思いますが、銀行経営が厳しい中でみずほFGとしても年金制度にも手を付けざるを得なかったのでしょう。(筆者の感覚からすると少し変更が遅いような気は致しますが)

以上がみずほFGが導入をしようと見当している年金制度であるキャッシュ・バランス・プランの簡単な説明です。