銀行業界にもAIを活用する動きが広がっています。
今回の記事では、銀行のAI活用の事例を確認するとともに、銀行単独でのAI活用の限界についても考察します。
銀行業界のAI活用状況
まずは銀行がどのようにAIを活用しようとしているか事例をみていきましょう。
以下は新聞記事からの引用です。
業績悪化、AIで予兆察知 三井住友銀行 2018/03/17 日経新聞
三井住友銀行は今夏にも、人工知能(AI)を使って貸出先の財務が改善したり、悪化したりする兆しを検知するシステムを稼働させる。口座を出入りする資金の流れなどから業況を把握し、事業改善に向けた提案や融資の判断材料にする。
みずほ銀行も来年度から中小企業向け融資の審査にAIを生かす。定型事務の効率化に使われることの多かったAIを、業況の監視といった基幹の業務にも応用する動きが広がってきた。
銀行は取引先によって入出金のデータが1日だけで数百件にも上り、リアルタイムの業況や財務の情報を生かし切れていない。取引先の決算が締まってから2~3カ月後にまとまる決算書類を見るまでは、詳しい企業分析が難しかった。
三井住友はこのほど解析のモデルをつくり、AIにデータを読み込ませれば変化を予測できるシステムを作った。これにより取引先数の変化や振込金額、預金残高の推移といったデータを集め、融資先企業や業界の動向をできるだけ早くつかめるようになる。
企業の変調にいち早く気づくことができれば運転資金の貸し出しを提案したり、先を見越して具体的な改善のためのアドバイスをしたりしやすくなる。
みずほ銀は昨年9月にソフトバンクと共同出資するJスコアを通じ、個人向けの無担保融資で信用力を点数化して貸し出す「スコア・レンディング」を開始。これまでスコアを計算したのは約10万人に上り、20~30歳代が全体の6割程度を占めた。
みずほは個人向けで培った手法を応用し、来年度からは法人向けでもこの仕組みを始める予定だ。企業の財務諸表や担保でなく、商品の販売動向など資金の流れから融資できるか判断する。
(以下略)
今後の動き
この記事にあるようにAIを使った融資は今後一般的になっていきます。
今までは、融資先の決算書、定性情報、ヒアリング情報や融資・審査担当者の経験、勘に頼っていたところがありました。
銀行口座の異動情報も基本的には体系的に活用されていたわけではありません。気になる点があれば、融資担当者が融資先にヒアリングした上で、融資先の業績・信用力変動の予兆を判断していました。
しかし、三井住友銀行が導入しようとしているシステムのように担当者の見落としがなく、24時間常に融資先の口座異動を確認するシステムは、融資先の様々な兆候を掴むには、人間の担当者よりは有用でしょう。
銀行が持つ取引先の口座異動情報は様々な情報を含んでいます。
融資先にとっての大口取引先からの入金額・頻度が減少していれば、販売する商品の競争力が低下しているかもしれません。
多数の個人からの振込があれば、商品がヒットしているので、運転資金が必要になるかもしれません。
銀行の口座異動の情報は、そのような示唆を与えてくれるのです。
これは、銀行以外の企業ではなかなか持ち得ない、銀行の強みといえます。
口座異動情報の問題点
以上のように銀行の口座異動情報は有用なデータであることは間違いありません。
しかし、この情報には基本的に欠陥があります。
それは、取引先は一つの銀行だけに口座を持つことはないということです。
銀行の口座異動情報は有用ではあっても、その企業や個人全体の資金異動を全て把握出来ることは(ほとんど)ないのです。
現金での資金のやり取りもありますし、他行の口座で決済が行われていることもあります。
他行の方が振込手数料が安かったりすれば、取引口座を他行に移されていくかもしれません。
そもそも、取引先は、銀行の破綻リスクを怖れて、預金は様々な銀行に分散しているかもしれません。
加えて、融資を受けている側は銀行に全ての情報を握られるのを好まないものです。
銀行は融資先に自行の口座のみを利用するように強制することは出来ません(不動産の仕組ファイナンス等の例外はあります)。
これが、銀行の口座異動情報の限界なのです。
銀行には調査能力があるように思われがちですが、企業の受発注・資金決済等の情報については銀行口座の資金異動を通じて間接的かつ部分的にしか把握できないのです。
よって、三井住友銀行のアプローチは銀行のスタンダードになっていきますが、更なる仕組の改善も模索されていくでしょう。
企業への融資取引における一つの到達点
以上、融資取引にAIでの口座異動情報を分析・活用する仕組みの有効性と限界についてみてきました。
この仕組みを銀行が更に有効活用出来るとすれば、それはどのような場合でしょうか。
一つの解は、サプライチェーンファイナンスに代表される仕組みです。
サプライチェーンファイナンス(みずほと日立製作所の事例)
みずほと日立製作所はブロックチェーンを活用したサプライチェーンファイナンスの実証実験に乗り出しました。
日立製作所とみずほFGが取り組む実証実験は非常に大規模なものです。
日立グループ間のアジア域内での部品調達を巡り、発注や納品に関する情報をブロックチェーン技術を使って効率的に管理するのです。そしてこの部品供給網における資金決済や資金繰り効率化をみずほFGは狙っていくことなります。
(詳細は以下の記事をご参照ください)
前述のように、銀行単独では口座異動情報の活用に限界があります。
しかし、このようにサプライチェーンに銀行が組み込まれるのであれば全体像を把握することが可能になります。
これは企業の信用力を見直す貴重なデータとなり、かつ企業(全体ではなくサプライチェーン部分のみとなるかもしれませんが)の資金繰りを事前かつ大半を把握することが可能にもなります。当然、他行との差別化になるというよりは、むしろ取引の独占につながるといえます。
銀行の強みは低コストでの資金調達力です。これはシステムを構築する一般の企業には持ちにくい銀行の優位性です。
一方で、銀行の弱味は取引先の情報が事後・確定情報(決算書、口座異動明細等)のような過去の情報しかなく、情報入手までにタイムラグがあることです。
低コストでの資金調達力という強みを最大限に活かし、取引先と一緒にサプライチェーンを構築していくことができれば銀行にとっては更なる強みの獲得となるでしょう。
銀行の口座異動情報を有効に活用するというのはこのような事例です。
したがって、銀行はこれから個別の企業とサプライチェーンマネジメントにかかるシステム構築を共同で行っていく方が望ましいといえます。
当初は大企業が中心とはなりますが、中堅企業・中小企業にも拡大していくことを目指していかなければならないでしょう。
クラウド会計を活用したファイナンス
もう一つのAIを活用した企業向けファイナンスの流れは、クラウド会計業者との提携による融資です。
一つの事例としてはクラウド会計ソフトのfreeeとジャパンネット銀行との提携があります。
これはfreeeの会計ソフトを利用する企業に対して、ジャパンネット銀行が融資を行うものです。
以下、freeeの当時のプレスリリースの一部を引用します。
《資金調達を行う中小企業のメリット》
・「クラウド会計ソフト freee」はオンラインバンキングとの自動同期機能や、仕訳等の会計処理を意識せずとも効率的に経理を行い財務諸表を作成する機能を備えています。事業者はインターネットブラウザ上の簡単な操作で審査に必要なデータをジャパンネット銀行に提供し、申し込みにかかる工数を削減することができます。
・従来のローンでは2~3週間を要していた審査結果の受取が、最短で当日となります。《融資を行う金融機関のメリット》
・融資判断に必要なデータがクラウド上で共有されるため、稟議のために紙の資料をデータ化したり、メールで送付されてきた財務諸表を社内展開する手間を減らして審査プロセスをスムーズに進めることができます。
・クラウド型ソフトウェアの特性を活かし、その事業所の最新の財務状況を把握することができます。リアルタイムデータに基づいて審査を行うことで、より的確に融資判断を行うことができます。
https://corp.freee.co.jp/news/jnbbusinessloan-1015-5544.html
(出展 freeeホームページ)
このようにクラウド会計システムを利用している企業であれば、銀行がタイムリーに取引先の情報を把握できます。
これにAIを組み合わせれば、取引先の予兆を的確に把握することもできるでしょう。
この流れは、特に中小企業で広がっていくことになるものと想定します。
銀行はクラウド会計サービスを提供する企業との提携を目指していくことが必要となるでしょう。
ECサイトでのファイナンス事例
ECの世界ではAmazonや楽天が銀行では取引できなかったような顧客へ金融サービスを提供し始めています。
これは ECサイトを運営し顧客の販売動向を把握できるシステム運営者の強みです。
例えば、Amazonは日本では2014年から法人の販売事業者向けの融資サービスを展開しています。
<サービス概要>
Amazonマーケットプレイスに参加している法人事業者が対象
融資額は最大5,000万円
利率は8.9%~13.9%(年率)
期間は最大6ヶ月
ローン入金は初回が最短5営業日、2回目以降は最短3営業日
このローンの特長は販売事業者の売上が決済されるAmazonのアカウントから元利金が毎月自動引き落しされることです。これによりAmazonは返済を受けられないリスクをかなり排除できます。
銀行等既存金融機関の融資サービスとAmazonレンディングのようなバランスシート・レンディングを比較した場合の違いは、ITを活用し受付、審査、貸出実行までのプロセスを自動化することにより低コスト・短期間で融資を行う点です。
米国におけるバランスシート・レンディングの大手には OnDeckやKabbageがありますが、ビッグデータを活用し審査を行っています。今まで借りることが難しかった中小企業も借入ができる場合があります。
審査方法のイメージとしては、例えば、借り手がAmazonなどのECサイトで販売しているなら、そのサイトの取引状況をチェックしています。これは完全に取引を把握されるようなものです。銀行口座での資金異動をチェックするよりも借り手の実態把握が可能でしょう。
データを活用すれば起業間もないような銀行が通常貸出をしない企業でも、ノンバンクからの借入条件よりも有利な融資を受けられる可能性があります。
日本においても、このような融資サービスを銀行は目指していくことになるでしょう。
ただし、この分野ではEC事業者との連携が不可欠です。
先に仕組みを構築した銀行がかなりの先行者利益を獲得すると思われます。
AIを活用した個人向け融資
冒頭の新聞記事にもある通り、AIを活用した個人向けの融資も今後増加することは間違いありません。
AIスコア・レンディングとは利用する顧客自身のさまざまなデータをAI技術を活用してスコア化し、そのAIスコアをもとに、それぞれの顧客に適正な条件を提示して貸出を行うサービスです。
(みずほとソフトバンクのサービスについては以下の記事をご参照ください)
年収や趣味等でスコアリングをつけるだけであれば今までの統計データ等を利用したスコアリングモデルを使えばよく、AIスコア・レンディングとまで名乗る必要はないでしょう。
AIによってどの程度まで情報を収集し、学習していくのかがポイントとなると思いますが、基本的にはAIスコア・レンディングが個人ローンのスタンダードになっていくのは間違いありません。
各銀行等とも将来的には導入し、個々のAIによって重視する項目が変わってくる可能性があるというだけです。
上の記事のみずほ銀行とソフトバンクのAIスコア・レンディングの有利な点は、みずほ銀行での取引情報とソフトバンク(通信会社)の取引情報をマッチングさせて個人のスコアを出せるところです。
また、「100種類以上の情報提供を想定して」いますから、様々なステータスの個人に関する貸し倒れ実績等の情報を今後収集し、AIで分析していくということになります。この情報収集、分析は早くスタートした方が有利です。
個人で一般的に利用されるカードローンもしくは消費者金融は年収等の簡単な情報のみに基づいています。これでは個人の信用力を深く分析することはできません。よって、借入人のほとんどが自身の信用力よりも厳しく評価されている(=高い金利で借入を行っている)可能性が高くなっています。
みずほとソフトバンクのAIスコア・レンディングは個人の属性を深く確認できる訳ですから、個人の信用力をより精緻に評価できる可能性があり、金利面や金額面で競争力を発揮できるでしょう。
このAIスコア・レンディングも銀行単独では限界があります。
AI分析のノウハウだけではなく、携帯電話会社のような外部企業と連携することにより、個人の属性把握・信用力が更に精緻になるからです。
所見
AIを活用した融資は間違いなく拡大していきます。
一部の領域では審査担当者のみならず、融資担当者も不要となるかもしれません。
しかし、このAIを活用した融資は精緻に行おうとすれば融資先のデータを更に必要とします。
この融資先のデータを有効に把握するためには、外部の企業との連携が欠かせません。
この仕組みを構築した銀行が先行者として利益を享受できるようになるでしょう。
これからの銀行は単独で出来ることには限界があるのです。
様々な外部との連携をどのように構築するのかが、融資サービスにおいても銀行の競争力を左右することになる可能性が高いといえるでしょう。