銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

企業経営で「パーパス」が広がる背景は?

f:id:naoto0211:20211212190209j:plain

企業経営において「パーパス」という用語がこの数年で急に使われるようになってきたことをお感じになっている方は多いのではないでしょうか。

このパーパスというのは企業の存在目的というような意味合いで使われています。

但し、存在目的としては、既に「ミッション」を制定していた企業は多数存在します。

今回は、なぜ「パーパス」という用語が使われるようになってきたのか、その背景について探っていきたいと思います。

 

パーパスとは

英単語の「パーパス(purpose)」は、目的、意図という意味です。

但し、企業経営においてパーパスが使われる場合には「社会における企業の存在意義」という意味で使われていることが多いでしょう。

パーパスは、社会にどんな価値を提供したいのかを、顧客、投資家、従業員等に分かりやすい言葉で表した「会社の志」ともされています。

では、なぜパーパスという横文字が流行しているのでしょうか。元々、企業の存在意義というのは既に定められていることが多いはずです。

パーパスが流行している背景には、企業は「利潤を最大化することが目的」であるという考え方の修正があります。

利潤追求を最優先する企業活動をこれまで社会が当然のものとして認めてきた結果、環境破壊、資源枯渇、貧富の格差拡大に加え、児童労働(チャイルドレイバー)という人権侵害等の問題が発生したとの問題意識が一般的になりつつあるのが現在です。

サステナブル、すなわち人間・社会・地球環境の持続可能な発展のためには、企業の目的を「利潤最大化ではなく、社会的価値の実現」にしなければならないという考え方が広まってきているのです。

利益至上主義、株主至上主義が日本を席捲していましたが、近時は、利益至上主義が地球・社会の破綻原因になりサステナブルではないことを、経営者も従業員も、そして顧客も気づいてきているのです。そのため、変化する時代における企業としての軸、すなわち志のようなものを企業が必要としているということなのでしょう。

 

ミッションとの違い

今まで企業の存在意義は「ミッション」とされていることが多かったのではないでしょうか。企業理念を語る上では、P・F・ドラッガーが提唱した「ミッション・ビジョン・バリュー」を使われることが一般的だったのです。

  • ミッション(Mission)=会社の目的や使命
  • ビジョン(Vision)=将来の理想の状態
  • バリュー(Value)=ミッションを実現していくために社員に求める思考や行動指針

なぜ、ミッションをパーパスに置き換えるのかという点では、筆者の理解になりますが、ミッションが「使命という意味合いが強く、外から与えられたものだが、自社にフォーカスする傾向」であるのに対して、パーパスは「自らの内側から湧き上がる志だが、自社のみならず社会全体を視野に入れている傾向が強い」というニュアンスがあることが理由です。(あくまで筆者の認識です)

単に、会社の目的、存在意義を定めなおすだけであれば、ミッションを改訂すれば良いのです(ドラッカーはミッションを不変としていましたが)。

しかし、人材こそが企業の競争力を左右する時代においては、「内発的に」従業員が行動するための指標となるパーパスに「『社会における』企業の存在意義」を置き換えることこそが、企業経営において必要という認識が高まってきたのです。

人材の価値が高まれば(転職価値が高まれば)、その企業に共感出来ない場合、従業員は他の企業に移ってしまうでしょう。

そして、地球環境や社会にとって良いビジネスを行っていかなければ、顧客(消費者等)からも見放される時代になってきています。「顧客にも共感される企業の存在意義」をパーパスとして定めることが、企業の存続に必要となってきたのです。

 

パーパスの事例

では、企業はどのようなパーパスを制定しているのでしょうか。以下事例を確認してみましょう。

  • SONY「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」
  • 任天堂「任天堂にかかわるすべての人を笑顔にする」
  • ライオン「よりよい習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」
  • TOYOTA「わたしたちは、幸せを量産する。」(Webサイトではミッションとなっていますが)
  • ADK「すべての人に「歓びの体験」を。」(社会的存在意義)
  • NEC「NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。」
  • 三井住友トラスト「信託の力で、新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」
  • MUFG「世界が進むチカラになる。」

この事例に見るように、堅苦しい言葉が多かったミッションに比べて、パーパスは、従業員も顧客等も共感できる表現になっているのではないでしょうか。

 

所見

以上、企業経営の分野においてパーパスが広がってきた背景について確認してきました。

今までの資本主義は、地球の資源が有限であること、今のままだと地球環境は持続できないことを基本的に視野に入れていませんでした。

しかし、今やESG、SDGs、脱炭素は企業経営そのものと言っても良いほどです。企業経営は様々なステークホルダーとの関係においてサステナブルでなければならないのです。そして、企業は単独では存在できず、社会の中で価値を発揮してこそ、存在を許されるのでしょう。

パーパスの広がりは、まさに企業が株主のみならず、従業員、社会、顧客等へ向き合うために導入されています。企業単独の利潤を最大化するのではなく、社会全体の利潤を持続的に最大化していくための仕掛けがパーパスなのです。

この動きは一過性のものではないでしょう。今後も企業が導入するパーパスの動向に目が離せそうもありません。