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コロナ影響を経済的に受ける大学生の想定数は50万人強

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新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、経済的に困窮している大学生らに対し、現金を給付する方向で政府が検討を始めたと報道されています。

ここで素朴な疑問が出てきます。

大学生の家計事情はどのようになっているのかというものです。

コロナの影響で、大学生の13人に1人が退学を検討しているとの報道もありました。

今回は、大学生の家計事情について見ていきましょう。

 

報道内容

まずは、直近の動向について二つの記事を確認しておきます。

学生の13人に1人が退学検討 コロナで生活厳しく、団体調査
4/22(水) 共同通信

 新型コロナ感染拡大に関する学生団体の調査で、大学生らの約6割がアルバイト収入が減ったり、なくなったりしたと回答したことが22日、分かった。親の収入がなくなった、または減ったと答えた学生も約4割に上り、調査に答えた学生の13人に1人が、大学を辞める検討を始めていると回答するなど、多くの学生が経済的に厳しい状況にあることが浮かんだ。
 調査は、学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」が9日から、インターネットで実施。21日夜時点で回答のあった大学生や短大生ら514人の回答をまとめた。

 学生団体の代表は、一律の授業料半額免除などを求める緊急提言を発表した。

(出所 共同通信Webサイト https://this.kiji.is/625620508927444065

次に困窮学生への給付についてです。 

困窮学生に「1人10万円」給付を検討…文科相「早急に対応したい」
2020/05/09 読売新聞

 政府・与党は8日、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、経済的に困窮している大学生らに対し、現金を給付する方向で検討を始めた。低所得世帯などを対象に、学生1人あたり現金10万円を給付する案を軸に調整する。

(以下略)

(出所 読売新聞Webサイト https://www.yomiuri.co.jp/economy/20200509-OYT1T50054/

これが直近の状況です。 

 

大学生の家計事情

コロナ禍で大学生が経済的に厳しい状況にあるのは、確かに分かりやすい、そして想像しやすいストーリーです。

しかし、そもそも大学生の家計状況はどのようになっているのでしょうか。まずは、この点を確認しましょう。

学生の家計状況を確認するには2018年4月に独立行政法人日本学生支援機構が発表した「平成28年度学生生活調査」が最新の調査でまとまっています。

以下ポイントとなる点を挙げます。

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(出所 独立行政法人日本学生支援機構「平成28年度学生生活調査」)

以上のように大学生(昼間部)の家計は、支出だと「学費119万円、生活費69万円、合計188万円」となります。収入は、「家庭(実家)からの給付118万円、奨学金39万円、アルバイト36万円、その他4万円、合計197万円」となっています。

支出については、国公立・私立等の区別における学費・生活費は以下の通りです。私立学生の生活費が少ないのは自宅通いが多いからです。
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(出所 独立行政法人日本学生支援機構「平成28年度学生生活調査」)

次は大学生の収入構成です。前述の図表とは収入額が少々異なりますが、傾向は分かるでしょう。単純に言えば、家庭からの給付や奨学金の収入が減り、アルバイトの収入が増加しています。家庭からの給付は、家計の事情によるものでしょうが、奨学金については当該記事では触れませんが奨学金回避の動きが起きているから(社会人になってからの返済負担が重い)です。少なくとも大学生にとってアルバイト収入の重要性が近年は高まってきているのは間違いありません。

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(出所 独立行政法人日本学生支援機構「平成28年度学生生活調査」)

以下は奨学金の受給率ですが、大学生の半数が受給していることになります。

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(出所 独立行政法人日本学生支援機構「平成28年度学生生活調査」)

アルバイトについては、以下の通りとなっており大学生(昼間部)は84%が何らかの形でアルバイトに従事しています。

家庭からの給付のみでは修学不自由・困難、及び家庭からの給付無しの大学生(昼間部)の比率は36%です。

一方で、アルバイト非従事者と家庭からの給付のみで修学可能なアルバイト従事者を合計すると64%となります。

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 (出所 独立行政法人日本学生支援機構「平成28年度学生生活調査」)

以上が大学生の家計状況の調査概要です。

 

所見

コロナ禍でアルバイトができなくなり、経済的に困窮しかねない大学生(昼間部)の比率は、学生生活調査からすると36%(家庭からの給付のみでは修学不自由・困難、及び家庭からの給付無しの比率)となります。

また、もう少し細かく見ていくと、大学生(昼間部)の「家庭からの給付のみでは修学不自由は16.0%」「家庭からの給付のみでは修学継続困難は15.6%」「家庭からの給付無し4.4%」となっています。

この修学継続困難および給付無しの合計20%がアルバイトを失うと学生生活が続けられず大学を退学するという選択をしかねない層と想定できます。

大学生(昼間部)の総数については、258万人(総務省統計局2017年)です。

すなわち、258万人×20%=約52万人がアルバイトができなくなると退学しかねない大学生の人数と推定できます。

冒頭の報道で13人に1人、すなわち1÷13=約8%の大学生が退学を検討しはじめているとされていましたが、おおげさな数字ではないでしょう。

また、家庭(実家)の収入状況の変化によっては、大学生の困窮度合いは上記の20%より更に高まることもあり得ます。

このアルバイトができなくなると退学しかねない50万人超という数のインパクトはすさまじいものがあります。

例えば、内閣府調査等によれば64歳未満のひきこもり当事者の推計人数は約105万人です。社会問題と言われるひきこもりは全世代で100万人程度です。

大学生がコロナの影響で退学してしまうと、新たな社会問題を生む可能性があります。

大学生(もっと言えば全ての学生でしょうが)は、将来の日本を働いて支えていく大切な国民です。事業者への支援も必要ですが、大学生への支援は長期的な影響を考えると、同じように重要性は高いのではないでしょうか。

学費の免除、猶予と併せて、大学生の支援については大学と行政が何とか考えて欲しいと切に願います。批判を受けるかもしれませんが、高齢者への年金や医療費を削減しても(これは当然に将来の我々現役世代にもマイナスの影響を与えるのでしょうが)、将来の稼ぎ手である大学生は支援すべきではないでしょうか。