「年功序列賃金」という言葉を聞くことが増えたように思います。
世の中は、経営者がジョブ型雇用・賃金を推進しようとしており、年功序列賃金は維持できないとの論調が多く出てきたからでしょう。
また、従業員(労働者)側としても、特に若い年代の方にとってみれば、終身雇用とのセットと言える年功序列賃金よりは「先に貰えるものを貰っておきたい」、すなわち終身雇用が望めないのだから若いうちから給料が欲しい、と考えることもあるでしょう。
では、年功序列賃金は日本に特殊な給料制度なのでしょうか。
今回は、年功序列賃金の国際比較について少し確認してみたいと思います。
欧州との比較
日本は年功序列賃金と言われます。
これ自体は全体的に見れば事実に近いと思われますが、年功序列賃金は日本だけの特殊な賃金体系とされます。
しかし、本当にそうでしょうか。以下のグラフをご覧ください。
(出所 平成25年版労働経済の分析)
これは、勤続年数別に見た賃金プロファイルの国際比較です。少しデータが古いのですが、日本だけではなく、大陸欧州諸国においても勤続年数に応じて賃金が上昇していることが分かります。
勤続年数が長くなれば賃金が上がっているという点では、日本は特殊とは言えません。
日本的な特徴としては、勤続年数に応じて賃金が増加していく割合が、男性の方が女性よりも高いということでしょう。これは日本だけの異常な状態と言えるかもしれません。
もう一つグラフを見てみましょう。
これは、年齢階級別にみた賃金プロファイルの国際比較です。前掲のグラフが「勤続年数」でしたが、こちらは「年齢が上がるに従って賃金がどのようになるか」を確認するためのものです。
(出所 平成25年版労働経済の分析)
左上の男性の賃金カーブを見ると、ドイツ・英国等の方が日本よりも賃金上昇の傾きが大きいと言えます。そして、日本は50歳代半ばから急激に賃金が急低下します。これは社内のポストオフ(役職定年)や出向等の日本的な雇用慣行が如実に表れています。
右上の女性の賃金カーブを見ると、欧州各国も女性の賃金は男性ほどには年齢階級別では上がりづらいことが分かります(但し前掲の勤続年数の賃金カーブを見ると勤続年数で男女に差はあまり感じられません)。しかし、その中でも日本は女性の賃金がほとんど上がらない(変動しない)ことが分かるでしょう。
下の日米比較を見ると、日本男性は、米国男性と比べると賃金の上がりが鈍く、先に下がる傾向にあります。そして日本女性は賃金が上がりづらく、ほぼ生涯横ばいに見えます。
ちなみに日米比較のグラフを見ると、日本男性・女性は40歳代後半に賃金のピークがあります。先日、サントリーの新浪社長が45歳定年に言及して炎上したと報道されましたが、データによっては日本は45歳頃に賃金のピークアウトを迎えている訳ですから、既に45歳定年に近い運用になっている可能性もあります。
所見
今回は、簡単に主に欧州と日本の賃金カーブについて確認してきました。
程度の差があるとはいえ、勤続年数や年齢に応じて賃金が上昇する傾向は、日本だけではないということが分かったのではないでしょうか。
但し、ここで注意しなければならないのは、今回挙げたデータは、「勤続年数が長くなれば、もしくは年齢が上がれば、賃金が『自動的に』上がっていく」ことを意味していないということです。
勤続年数が長くなる、年齢が高くなると従業員(労働者)の発揮能力・実績が上昇していくことは一般的に考えられるでしょう。この発揮能力や実績に応じて、賃金が上昇していっているのであれば、それは年功序列賃金とは言えません。
年功序列賃金体系というのは、年齢や勤続年数に応じて、賃金(役職)を上昇させる人事制度のことです。この考え方の背景は「勤務年数や年齢が高くなるほど経験やスキル、ノウハウが蓄積される」という考えに基づいています。
今回のデータは、賃金の上昇が「自動的」か、そうではないかを明らかにはしていません。
欧州等は、能力をきちんと発揮できるように従業員を訓練し、そして実際に実績として結果を出したから賃金が上昇しているかもしれません。一方、日本は、実績に関係なく年齢・勤続年数によって賃金を決めているかもしれません。
しかし、全般的に見れば、勤続年数や年齢に応じて賃金が上昇する傾向は、日本だけではないということだけは言えるのです。
筆者は、日本の賃金体系はあまりにも特殊とまでは言えないと考えています。