銀行員のための教科書

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日本の終身雇用と呼ばれる雇用慣行は世界から見て特殊なのか

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日本的雇用とされる終身雇用(もしくは長期雇用)が話題になっています。

サントリーホールディングスの新浪社長が、経済同友会のセミナーで45歳定年を提唱したところ、インターネット上で多数の否定的意見が寄せられたのは記憶に新しいところです。

ここで一つ素朴な疑問が浮かび上がります。

終身雇用は、日本における特殊なものであるという前提です。

でも、考えてみてください。

他国でも定年制度がある国はあります。定年制度があるということは長期雇用を前提にしているのではないでしょうか(もしくは企業が簡単に従業員を辞めさせられない)。

今回は、日本の終身雇用と呼ばれる雇用慣行が、本当に特殊なのか見ていきたいと思います。

 

勤続年数の国際比較

では、まずは少し古いデータにはなりますが、厚生労働省が発行している労働経済の分析から、各国の勤続年数について確認しましょう。

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(出所 平成25年版労働経済の分析)

このグラフを見ると、確かに日本人「男性」の勤続年数は54歳までは他国に比べて長くなっています。(日本人男性は55歳以降は、定年制度や出向制度によって勤続年数がリセットされています)

日本人「女性」については、39歳頃までは他国と勤続年数は変わりませんが、それ以降は欧州の国の方が勤続年数が長くなります。日本においては女性が出産・子育てによる退職が続いた時代がありましたので、このようなグラフの形になっているとも言えます。

このグラフから言えることは何でしょうか。

日本人男性は確かに勤続年数が長いですが、欧州各国も相応に長いということ、そして、米国だけが突出して短いということです。

すなわち、日本的雇用と言われる終身雇用はともかく、欧州は長期雇用が当たり前ということです。

但し、終身雇用が特殊だという「識者」は、米国の事例を出すことが多いように筆者は感じますが、むしろ米国の方が特殊なのではないでしょうか。

 

男性の国際比較

次に、以下のグラフをご覧ください。

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(出所 平成25年版労働経済の分析)

上記グラフは男性雇用者(25~54歳)の勤続年数別分布の国際比較です。

少なくとも「欧米」と一括りに出来ないことは明白です。

日本は雇用が長い傾向にはありますが、「欧米と比べて特殊」とは言えません。

このグラフでは長期雇用慣行グループ、二極化グループ、勤続年数短期グループに分かれています。

日本は大陸欧州各国と似たような長期雇用慣行グループに属しています。

英国・北欧は二極化グループであり、米国・カナダ・デンマーク・豪州が勤続年数短期グループに属します。

 

所見

今回は、「日本の終身雇用と呼ばれる雇用慣行は世界から見て特殊なのか」について、簡単なデータを見てきました。

確かに、世界的に見て「終身」雇用を唱えている国はあまりないかもしれません。(日本でも終身雇用を信じてない個人は多数存在しますし、現実的には終身雇用は一部の企業しか対応できていないでしょう)

但し、終身雇用ではなかったとしても、長期雇用を慣行としている国が欧州に多いことは間違いなく、長期雇用を慣行している日本は決して特殊な国ではありません。

米国だけの雇用慣行を持ち出して、「欧米」を語るのは正しくないのです。

日本は、終身雇用と言われてきましたが、終身雇用の対象は男性でした。もちろん、今後、女性も長期雇用化していく可能性はあります。

ただ、冒頭に挙げた素朴な疑問「日本の終身雇用と呼ばれる雇用慣行は世界から見て特殊なのか」にあえて現時点で答えるならば、「日本の雇用慣行は、終身雇用という幻想のキャッチフレーズを取り払い、単なる男性の長期雇用慣行だとすると、世界的に見て特殊ではない」と言えるのではないでしょうか。