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みずほの人事制度改定は一般職廃止に加え大量採用世代の処遇問題も

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みずほFGが総合職と一般職を統合(一般職の廃止)すると報道されています。

この一般職の廃止は、RPAの導入等デジタル化の進展により事務や窓口業務が減少してきたことが背景にあると指摘されています。

今回はみずほFGの一般職廃止および人事制度の変更について、背景と狙いを考察しましょう。

人事制度の変更はキレイな側面ばかりではありません。

 

報道内容

まずは日経新聞の記事を引用します。報道されている概要をつかみましょう。

みずほ、総合職・一般職を統合
2019/11/20 日経新聞

 みずほフィナンシャルグループは2021年度下期に業務の中枢を担う基幹職と、支店の事務や窓口業務を受け持つ特定職を統合する。基幹職は総合職、特定職は一般職に相当する。店舗事務の効率化で特定職を維持する意義が薄れた。スマートフォンの浸透や高齢化で顧客ニーズは多様化し、行員はより専門的で幅広い能力も求められている。このため職種統合に先立ち、年功序列的な給与体系を刷新する制度改定も進める。三井住友銀行も20年1月に同様の職種統合を予定している。
 デジタル化による来店客の減少や事務作業の自動化で、店舗は資産形成などのコンサルティングの場に変わりつつある。制度改定の対象はみずほ銀行を中心に約3万5千人で、そのうち特定職は約1万3500人いる。採用や給与体系も分かれていたが、新卒採用も含めて一本化する。すでに事務担当者の営業職務へのシフトを始め、勤務地限定の地方行員も希望すれば東京などに異動できる公募も進めている。
 給与は来年度から順次始める新たな評価制度で決める。年次やポストにひもづく「職能給」を廃止し、職務の専門性を重視する評価体系を個人や法人などの部門ごとにつくる。成果によって年次と報酬が逆転しうる制度とする。管理職は20年度から評価を改め、成果は21年6月から賞与で報いる。一般行員は20年6月の賞与から業績連動性を強めて成果の発揮を促し、同年10月から実際の評価を見直していく。
(以下略)  

みずほの人事制度改定は、窓口業務等の事務の必要性が低下したことにより一般職を廃止し、また職務の専門性を重視する評価体系とし、年功序列的な制度を廃止していくことにあるとされています。 

このみずほの人事制度改定について以下でもう少し詳しく見ていくことにしましょう。 

 

一般職廃止

一般職の流れは銀行では今後も止まらないでしょう。

一般職廃止の背景については以下の記事に記載してあります。

www.financepensionrealestate.work

大量の紙による事務が存在していた銀行は、OCR(光学読み取り)技術の向上、RPA等により事務をデジタル化・自動化していく道筋が見えてきました。銀行は事務のミスが許されない「非人間的」な職場でしたが、RPAの活用等により少なくとも非人間的な業務が削減されていくことは間違いないものと思います。

それに伴い、事務を担ってきた一般職は、今後は大半が営業にシフトしていくことになるものと思われます。 収益の厳しい銀行は、基本的には収益を上げる部署・業務に人員をシフトしていきます。特に、事務を担う役職者、すなわち事務の給料が高い従業員が、最も割を食うかもしれません。

もちろん、マネロン対策等、コンプライアンス領域(例えば、全体企画・システム・事務企画)で活躍するというルートもあるとは思いますが、事務人員全員がシフトできるほどには業務量は多くないでしょう。

 

大量採用世代問題 

みずほFGの人事制度改定には、一般職の廃止のみならず、職務の専門性を重視する評価体系とし、年功序列的な制度を廃止していく方向性と報道されています。

これは、一般職の廃止によるものだけではありません。もちろん、事務が無くなっていけば、今まで事務として活躍してきた元一般職を新たな評価目線で処遇しなければなりません。しかし、それだけだったら既存の総合職の体系に一般職を組み込めば良いだけでもあります。

では、同一労働同一賃金への流れでしょうか。それも表向きはあるでしょう。しかし、コストを抑えたいのであれば、勤務期間によって給料が上がっていく仕組み(=年功序列的運用)を続けた方が、非正規雇用者の給料は抑制できる可能性が高くなります。よって、同一労働同一賃金だけが人事制度改定の目的でもありません。

筆者は、みずほFGがこのタイミングで年功序列的な制度を廃止していくことを後押しした要因に「大量採用世代の処遇問題」があると考えています。

まずは以下のグラフを確認してください。
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(出所 3メガ銀、新卒採用2割減 来春1800人程度に 業務効率化急ぐ 2019/3/18 日経新聞)

このグラフは3メガバンクが2020年の新卒採用数を大幅に減少させるという記事のものです。しかし、注目すべき点は、そこではありません。2006年から2009年までのみずほFGの採用人数です。 

2006年から2009年まで毎年2,000名以上の採用を行ってきました。この年代の退職率が少なく、5,000名の従業員のうち2006年から2009年の4年間の年次の従業員が8,000名残っていると仮定すると、このわずか4年の入行組が全従業員の23%を占めていることになります。

銀行員は総合職だと53歳位で出向して本体に残っていませんので、銀行員寿命を30年と仮定します。毎年同じ人数を採用し、退職率も一定だと仮定すると、4年(2006年から2009年)÷30年=13%が2006年から2009年の入行組が占めているはずの割合です。

すなわち、2006年から2009年の入行組の人数が異常に多いのです。

この「大量採用世代」は現在32〜37歳程度となっています。つまり、年功序列制度が深く根付く銀行において「管理職になる年次」になってきているのです。

しかし、全従業員の2割以上を占める世代が全員管理職になれるほどに銀行にはポストはありません(その上の世代もいるのですから)。

ここに大量採用世代の処遇問題というものが出てきます。これは10年前から想定されていたことです。実力主義と言いながら年功序列に近い人事昇格運用をどのメガバンクも行ってきました。そして、おそらくこれからも簡単には変わらないでしょう。

しかし、大量採用世代に何らかの処遇を行われなければ不満は噴出することになるでしょう。何と言っても最大勢力なのです。

全員を管理職に処遇することは出来ません。そして一般職も廃止したいというのが経営の考えです。

その行き着く先は「年功序列を廃した実力本位の人事制度」です。総合職も元一般職も、年次の高い従業員も低い従業員も実力本位で登用すると宣言し、そのような制度にするのです。そうすれば、元一般職に今まで総合職が担ってきた厳しい、ノルマに満ちた業務を割り振ることが出来ます。また、旧総合職の大量採用世代には、年功序列的にポストを割り振ることや、同期の何割が昇格するという形で運用し、人件費が急激に上昇することも避けられます。 

 

所見

みずほFGの一般職廃止という人事制度変更は、一般職の役目が終わったということだけではなく、大量採用世代の処遇問題への対処も含んでいるのです。

先の見えない時代ではありますが、メガバンクは(もちろん地方銀行も)戦略的な採用をもう少し考えるべきでしょう。他行が大量に採用するからといって「右に倣え」のように採用してきたのは間違いです。

年功序列的な人事運用をしていくならば、各年次は採用人数を極力変えない方が運用としては上手く行くのです。逆に、本当に実力主義の人事制度運用を行うのであれば採用人数の意味は変わってきます。そもそも、新卒一括採用という慣習も考え直しても良いでしょう。

この少なくとも20年間程度の日本企業の人事制度改定は、どんなにキレイなお題目を掲げていても、実際のところは人件費のコントロールに主眼が置かれてきたといえます。

みずほFGの例もご多分に漏れないでしょう。もちろん、制度設計自体は、本当に「年功序列を廃した実力本位の人事制度」になっているはずです。建前はキレイなのですが、運用が伴わないだろうと筆者は考えています。これは経営陣も、現場の管理職も本当の意味で変化を受け入れないからであり、そもそもの改定目的が建前と異なるためです。

それでも、みずほFGの経営陣が本当に危機感を覚え、人事制度の「建前通り」に人事を運用していくならばみずほFGは変わっていくでしょう。その機会は、いつでも目の前に転がっているのです。ただ、年功序列的な人事制度を廃することは本当に難しいのです。現場の部長も含めた管理職はほとんどが抵抗勢力になります。年功序列的な人事制度廃止を望むのは若手と元一般職ぐらいです。その現実とどのように折り合いをつけていくのかは難問です。これは、銀行存続の危機感をどれだけ共有できるか、経営層・管理職層が自らにとってマイナスを受け入れられるかにかかっており、メガバンクの一角を占めるみずほFGでは難しいでしょう。