総務省が発表した2021年7月の住民基本台帳人口移動報告によると、東京都では転出者が転入者を上回り、3カ月連続の転出超過となりました。
この動きは、コロナ禍を受けたテレワークの普及などを背景に、人口密度の高い東京を離れる動きが続いているのではないかとマスコミでは解説されています。
総務省は、転出、転入ともに、去年の同じ時期より人数が減っているため、「新型コロナウイルスの感染拡大で、移動を見合わせる人が増えている可能性がある」としているようです。
では、テレワークの普及とともに、これからは東京一極集中ではなく、地方の逆襲が起こるのでしょうか。
今回は、人口の移動について、少し見ていくことにしましょう。
東京都の7月における人口移動
総務省の住民基本台帳人口移動報告では、2021年7月における東京都の転入者は2万6,958人で前年同月比で6.2%減、転出者は2万9,922人で4.3%減となっていますが、転出超過となっています。
東京は2020年5月に比較可能な2013年7月以降で初の転出超過となりました。そして、2020年7月~2021年2月まで8カ月連続で転出超過が続きました。
例年の傾向として、入学・就職等で3~4月は流入超過となっていますが、足元では転出超過が続いています。
この事象によって、マスコミ等は東京から人が逃げ出しているような報道をしているように筆者は感じます。
実際の動き
では、印象ではなく、実際の数字で確認していきましょう。
以下は、2021年1~7月において転入超過となっている都道府県をピックアップしたものです。転入超過となっているのは8都府県しかありません。データは上述の住民基本台帳人口移動報告の月報を筆者が集計したものです。
都道府県 | 2020/1~7 | 2021/1~7 |
---|---|---|
神 奈 川 県 | 23,554 | 26,717 |
東 京 都 | 50,673 | 22,615 |
埼 玉 県 | 16,749 | 19,718 |
千 葉 県 | 10,282 | 10,921 |
大 阪 府 | 11,476 | 5,684 |
福 岡 県 | 4,367 | 4,033 |
滋 賀 県 | -540 | 148 |
山 梨 県 | -1,649 | 27 |
(出所 総務省「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)
左側の列が2020年、右型が2021年となっています。
2021年の特徴は神奈川県が東京都の転入超過数を超えているということです。
確かに東京都への転入超過数は半減しています。
しかし、神奈川県、埼玉県、千葉県は転入超過数が増加しているのです。
これを見ても、東京からの人口流出が続いているとの印象を持ち得るでしょうか。
如何全国の都道府県別の転出入の動向です。いずれも1月~7月のデータとなります。
(出所 総務省「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)
これを見てわかることは、確かに東京への転入超過数は2021年に減少しています。しかし、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県を見ると、日本全国で東京圏が人を圧倒的に引き付けているのが分かります。他は大阪と福岡ぐらいというなのです。
東京「圏」一極集中のトレンドは全く変わっていません。
本当に移動は抑制されているのか
また、以下の図をご覧ください。
<移動者数の推移(移動者)>
<移動者数の対前年同月増減の推移(移動者)>
(出所 総務省「住民基本台帳人口移動報告2021年7月分」)
これを見ると、移動者数の数は、市区町村間であろうと、都道府県内移動だろうと、そして都道府県間移動だろうと、あまりコロナ感染症の拡大前よりは減少しているとはいえ、あまり大きな変化がないことが分かるのではないでしょうか。
コロナ禍において移動は抑制されていることはありそうですが、大きなトレンドとまでは言えないのではないかと筆者は考えています。
全都道府県のデータ
以下は前掲の全国都道府県の転出入超過数のデータです。プラスが転入超過、マイナスが転出超過となります。
都道府県 | 2020/1~7 | 2021/1~7 |
---|---|---|
北 海 道 | -2,884 | -1,876 |
青 森 県 | -4,794 | -4,413 |
岩 手 県 | -4,125 | -2,915 |
宮 城 県 | -1,327 | -1,022 |
秋 田 県 | -2,838 | -2,735 |
山 形 県 | -2,953 | -2,694 |
福 島 県 | -5,677 | -5,368 |
茨 城 県 | -4,214 | -707 |
栃 木 県 | -2,323 | -1,037 |
群 馬 県 | -1,203 | -204 |
埼 玉 県 | 16,749 | 19,718 |
千 葉 県 | 10,282 | 10,921 |
東 京 都 | 50,673 | 22,615 |
神 奈 川 県 | 23,554 | 26,717 |
新 潟 県 | -5,576 | -5,187 |
富 山 県 | -1,778 | -1,458 |
石 川 県 | -1,540 | -867 |
福 井 県 | -1,287 | -1,535 |
山 梨 県 | -1,649 | 27 |
長 野 県 | -2,607 | -1,009 |
岐 阜 県 | -5,283 | -4,176 |
静 岡 県 | -4,122 | -3,685 |
愛 知 県 | -3,899 | -2,325 |
三 重 県 | -3,869 | -2,783 |
滋 賀 県 | -540 | 148 |
京 都 府 | -2,145 | -1,587 |
大 阪 府 | 11,476 | 5,684 |
兵 庫 県 | -5,253 | -4,394 |
奈 良 県 | -2,182 | -1,482 |
和 歌 山 県 | -2,911 | -1,757 |
鳥 取 県 | -1,080 | -890 |
島 根 県 | -1,413 | -995 |
岡 山 県 | -2,222 | -2,662 |
広 島 県 | -3,825 | -4,788 |
山 口 県 | -3,419 | -2,907 |
徳 島 県 | -2,186 | -1,503 |
香 川 県 | -1,704 | -1,610 |
愛 媛 県 | -3,090 | -2,525 |
高 知 県 | -2,148 | -1,494 |
福 岡 県 | 4,367 | 4,033 |
佐 賀 県 | -1,988 | -1,286 |
長 崎 県 | -5,584 | -5,224 |
熊 本 県 | -3,309 | -1,358 |
大 分 県 | -2,204 | -1,929 |
宮 崎 県 | -2,781 | -2,000 |
鹿 児 島 県 | -3,643 | -2,760 |
沖 縄 県 | 474 | -716 |
(出所 総務省「住民基本台帳人口移動報告」を基に筆者作成)
所見
コロナ禍における人口の移動について今回は見てきました。
実際のデータを見て言えることは、東京「都」一極集中は、少し抑制されてきている可能性がありますが、東京「圏」一極集中は全くブレていないということです。
そして、東京都への人口転入超過が緩和された理由は、本当にコロナが影響しているかは分かりません。
「コロナ禍においてテレワークが拡大し、広い間取りを郊外に求めるようになった」と解説されることはあります。確かに一面では正しいでしょう。
しかし、本質的には、東京都内の不動産価格が上昇しすぎており、金銭面の問題によって、個人の住まいが東京都隣接県に移っているだけかもしれません。バブル期にもドーナツ化現象と言われる事象は発生していました。
なんでもコロナと結びつけることはやめ、冷静に数字を追ってみた方が良いのではないかと筆者は感じているところです。