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大手金融機関から運用商品を買わない方が良い理由を金融庁が解説している

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金融庁が「資産運用業高度化プログレスレポート2021」を公表しました。

金融庁は「家計の安定的な資産形成」を行政方針の柱に一つに掲げており、資産運用会社の役割を重視する一方で、資産運用会社の報酬体系や運用能力、販売方法等に課題意識を持っています。

今回は金融庁のレポートを基に、日本の金融機関が販売する運用商品について確認していきたいと思います。

 

資産運用会社別パフォーマンス

まず、以下の図表を確認ください。

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(出所 金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2021」)

この図表は、運用資産が多い資産運用会社順に、その資産運用会社が運用するアクティブ型投資信託のシャープレシオを並べたものです。

「アクティブ型の投資信託」とは、それぞれの投資信託の運用方針に沿い、市場の平均以上の利益を出そうとするものです。例えば、日経平均株価やTOPIXのようなベンチマークを実際の運用が上回れば、良好な運用結果だったと評価できます。

また、「シャープレシオ」は、投資のリスクに対して、どれくらいのリターンが得られるかを表す指標で、運用効率の高さを示します。数値が大きいほど、リスクに比べて大きなリターンを得られたことになり、効率の良い運用と評価できます。複雑な投資信託のような運用商品を、並べて評価する際の参考となるものです。

一般に募集されているアクティブ型投資信託(ファンド)のシャープレシオを見ると、ファンド数が少なく純資産総額の大きくない運用会社においては、徹底した企業調査に基づく投資判断等により良好なパフォーマンスを実現し、平均レシオが高い運用会社が見られると金融庁は指摘しています。

一方、ファンド数が多く純資産総額の大きい運用会社においては、多様なファンドを手掛ける中で、インデックス(市場と同じ動きをする)ファンドの平均レシオを下回るファンドが多い運用会社が見られるとしています。

まとめると、規模の大きい資産運用会社の商品は日経平均やTOPIXのようなマーケットのベンチマーク(指標)に勝てていない、一方で、規模の小さい資産運用会社の商品は良好なパフォーマンスが多いと金融庁が指摘しているのです。

 

独立系資産運用会社

次にこの金融庁のレポートでは、独立系資産運用会社について、コラムという形で解説をしています。

特定の大手金融グループに属さない独立系等資産運用会社においては、自社の目指す姿を明確にし、投資先企業との対話を重視する徹底した企業調査、顧客に対する企業理念やファンドの運用状況の丁寧な説明、資産運用会社自らによるファンドの販売(直販)により、投資先企業や顧客との信頼関係を構築する取組みが見られる。

  • 独立系等資産運用会社の中には、アクティブ平均を上回る安定したパフォーマンスを実現している社がある。
  • 直販を重視する社では資産運用規模の拡大や、長期運用のためのファンドマネージャーやアナリストの確保と育成、事業継続のための経営者の育成に課題があるとする社が多い。
  • 顧客に安定的なリターンを提供するため、安定的な経営と運用に向けた取組みにより、強みが明確化された特色ある内外の資産運用会社が増加することで競争環境が醸成され、資産運用業全体の高度化が図られることが期待される。
(出所 金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2021」)

かなり金融庁としては独立系の資産運用会社を持ち上げていると言って良いでしょう。

もちろん、これは独立系資産運用会社を評価しているだけではなく、大手金融グループの資産運用会社に対してパフォーマンスの向上を迫るべく、あえて独立系を持ち上げている側面もあるかとは思います。

しかし、以下を見ると独立系資産運用会社が評価される理由が分かるのではないでしょうか。

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(出所 金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2021」)

まず、アクティブ型投資信託のシャープレシオ(前述の運用効率)については、全体の平均が0.27であり、インデックス型の0.41を下回っています。

これは、あえて言えば「人件費を使って一生懸命に企業調査をしたり、企業にインタビューをしたりする」アクティブ型投資信託よりも、「何も考えずに市場と同じ運用パフォーマンスを目指す」インデックス型投資信託の方が、運用効率が良いことを示しています。

そもそもアクティブ型投資信託は、市場(インデックス)を上回る運用成績を目指すものです。ところが、現実はアクティブはインデックスに負けているのです。

それに対して、独立系資産運用会社の中には、アクティブ型投資信託の平均だけではなく、インデックス型投資信託のシャープレシオを上回っているところがあるということを金融庁は示しました。

良好なパフォーマンスもあるのでしょう。

以下の通り、同じ独立系資産運用会社5社の資産運用残高は大幅な増加となっているところもあります。

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(出所 金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2021」)

 

投資信託のコストにおける他国比較

では、日本における投資信託のコストは、他国と比較して違いはあるのでしょうか。

金融庁は投資信託の他国比較も行っています。

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(出所 金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2021」)

投資信託の国際比較においては、シャープレシオのみならず、エクスペンスレシオ(投資信託の平均資産残高に対する運用その他の経費の比率(%)=投資信託のコスト)とも米国籍ファンドが優位にあります。

日本の投資信託は、運用効率が米国に比べると低いのに、コストは高いということになります。

エクスペンスレシオを比較すると、米国では1%未満の投資信託が多くみられるのに対して、日本においては1%以上2%未満に設定されているものが多く存在するようです。

尚、ルクセンブルク籍の投資信託は、様々な地域向けに異なるフィー体系でファンドを組成・提供していることからエクスペンスレシオのばらつきが大きいことが示されています。

 

クローゼット・トラッカー問題

さらに金融庁のレポートが取り上げている問題が「クローゼット・トラッカー」の問題です。

クローゼット・トラッカーとは、アクティブ運用を行うとしながら実質的にはインデックス運用に近い投資信託の問題です。これらの投資信託は、超過収益の獲得を運用方針に掲げ、高めの信託報酬を徴収するにもかかわらず実際にはインデックス型投資信託と変わらないポートフォリオ運用に終始している可能性があると金融庁は指摘しています。

下図が示す通り、アクティブシェアが低いファンドに信託報酬が高く、また、シャープレシオの低いファンドが散見される(図表A、Bの青い楕円部分)。 (※アクティブシェア:アクティブ運用するファンドについて、指数運用との差異を定量的に示す数値。0~100%の値を取り、0%だと指数と完全に一致し、100%だと指数と全く異なる運用手法になることを示す。)

虚偽の説明や誤解を招く説明により顧客の利益を害することとならないよう、運用方針と実際のファンド運用との整合性の定期的な確認、乖離が認められた場合の速やかな対応、適切な信託報酬の設定、商品販売時におけるリスクリターン特性と信託報酬水準についての正確でわかりやすい説明が重要である。

 (出所 金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2021」)

このように記載し示した図が以下の通りです。

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(出所 金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2021」)
このクローゼット・トラッカー問題は、以下の問題を抱えているとされています。

  • 投資家は、実際よりもアクティブな投資を行っているとの誤った期待に基づいて投資判断を行っている。
  • 投資家は、想定とは異なるリスク/リターンプロファイルにさらされる。
  • 投資家は、ベンチマークとされるインデックスを追跡する旨明示するパッシブファンドよりも高い手数料を支払っている。

 

まとめ

今回は、金融庁のレポートから日本において販売されている公募投資信託についての問題点を確認してきました。

運用資産規模が大きい資産運用会社の投資信託は運用効率が劣るものが多いこと、特にアクティブ型と言いながらインデックス型に運用効率が劣ることは非常に重要なポイントなのだと思います。

同レポートからの示唆は、独立系資産運用会社の投資信託の方がパフォーマンスが良いということです。但し、この結果については、少し冷静に考える必要があります。投資信託は、資産規模が小さい間は、良好なパフォーマンスを示せたとしても、規模が大きくなるに従い、その投資信託の売買がマーケットにある程度の影響を及ぼすことになります。規模は運用の制約要因になり得るのです。従って、金融庁の後押しを受けているような独立系資産運用会社の投資信託が、これからも良好なパフォーマンスを示すかは不透明ではないかと筆者は考えています。但し、現時点で言えることは、大手金融グループに属するような資産運用会社の投資信託よりは、独立系資産運用会社の投資信託の方がパフォーマンスはマシということでしょう。

そして、日本の投資信託は、少なくとも米国の投資信託よりも運用効率が悪く、コストが高いということも明らかにされています。

また、クローゼット・トラッカー問題として「隠れインデックス」型の投資信託があり、隠れインデックス型の投資信託は、アクティブ型のように高い報酬を取っているということです。

ここまで見てくると、少なくとも大手金融機関で投資信託を購入するのがバカらしくなってくるのではないでしょうか。

筆者は投資信託が全てダメだとは考えていません。

投資信託の利点は、少ない手元資金で、多数の投資対象に投資が可能となることです。例えば、どのメーカーの作品がヒットするかは分からないけれどもゲーム業界全体は間違いなく伸びるので「日本のゲーム業界の全社の株式を買いたい」と考えたとします。このような時には、手元資金が相応にないと全社の株式は購入出来ません。しかし、投資信託ならば、多数の投資家からの資金を集めて運用しているので、単独で投資するよりは分散して投資が可能になります。このような観点で、投資信託にも役割はあります。

もちろん、投資信託には「プロの目利き」というような利点もあるはずですが、今回の金融庁のレポートが示しているのは、全体で見るとプロの目利きは意味が無い、もしくはプロの目利きが有効だとしてもコストに見合っていない、ということです。

皆さんはこのようなデータを見ても大手金融機関、特に銀行の窓口で投資信託を買いたいと思うでしょうか。