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FCバルセロナがメッシを放出したのは当然だったのかもしれない

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世界有力クラブの一つであるFCバルセロナから、エースであったアルゼンチン代表FWリオネル・メッシが退団しました。

クラブと選手共に残留の条件で合意していたものの、クラブが抱える負債がリーグの規定に抵触し、サラリーキャップの問題で退団せざるを得ない状況となったと報道されています。

楽天もスポンサーになっており、世界中から資金を集めているようにも思われるFCバルセロナの決算・財務状況はそこまで悪いのでしょうか。

今回はFCバルセロナの決算動向について確認していきたいと思います。

 

FCバルセロナの損益動向

FCバルセロナの2020/2021シーズンの決算はクラブ公式ホームページで以下のように発表されています。尚、1ユーロは分かりやすいように130円で換算しています。

  • 売上高 631百万ユーロ(820億円)
  • 経費(支出) 1,136百万ユーロ(1,477億円)
  • 営業利益 ▲505百万ユーロ(▲657億円)
  • 税引後利益 ▲481百万ユーロ(▲625億円)

このようにFCバルセロナの決算は巨額の赤字となっています。

売上高は前年同期が855百万ユーロ(1,112億円)でしたので▲26%の減少、すなわち売上高は1年で4分の1減少しています。

この減収要因は、まずスタジアム収入の低下が挙げられています。

スタジアム収入は、25百万ユーロ(33億円)となり、前年比で▲84%となっています。

商業(コマーシャル)収入は268百万ユーロ(348億円)と前年比▲10%に留まりました。店舗閉鎖と海外ツアーが出来なかったことが要因です。

メディア・テレビの権利収入は282百万ユーロ(367億円)となり、前年比▲14%となっています。これにはリーグとチャンピオンズリーグの試合延期の影響があるとされています。

また移籍収入は56百万ユーロ(73億円)で、前年に対して▲92百万ユーロとなっています。

このように確認していくと、やはりスタジアムに観客を入れられないことが、FCバルセロナの経営に大きな影響を及ぼしていることが分かるでしょう。

一方で、経費(支出)は、前年に比べて19%増加しています。2020/2021シーズンの経費1,136百万ユーロ(1,477億円)は過去最高の水準です。

コスト削減として、選手への給与支払い延期が60百万ユーロ(78億円)、スタジアム・店舗閉鎖による管理費減少64百万ユーロ(83億円)のような施策を行ったようですが、経費の増加を抑制することまではできなかったようです。

報道ベースでは、選手の賃金は、収入の103%となっており、総額617百万ユーロ(802億円)とされています。

FCバルセロナの2020/2021シーズンの決算を簡単にまとめると、コロナ影響でスタジアムが開けず収入が急減する一方で、選手への給与は収入を上回る水準となり、決算として巨額の損失が出て、債務超過に転落した、ということになります。

尚、驚くべきことに、FCバルセロナは、新型コロナウィルス感染症拡大を理由とするクラブの損失(税引後損失)を92百万ユーロ(120億円)と見積もっており、残りの390百万ユーロ(507億円)はコロナ以外の要因としています。ただし、この説明は、実際には今までの経営陣を非難するための理由付けなのかもしれません。

 

財政状況

FCバルセロナの2020/2021シーズン決算における現預金は63百万ユーロ(82億円)、銀行借入は533百万ユーロ(693億円)です。

純資産は、451百万ユーロ(586億円)のマイナスとなり、いわゆる債務超過状態に転落しました。

FCバルセロナは、現在の財務状態を倒産状態(正確にはTechnical Bankruptcy)と表現しています。

そして、収入が入ってこないため給与を払うのが難しいこと、債務と将来の1,350百万ユーロ(1,755億円)の負債について緊急の借換が必要であること、リーグの財務基準に適合していないため新たな選手の登録と意思決定に制限がかかっていること、施設の悪化について報告しているのです。

過去5シーズンの評価としては、営業キャッシュフローと純利益が減少してきたことから、結局は経済効果はマイナスだったとしています。

その要因の一つは、選手との契約による給与の61%の増加です。ガバナンスが欠如していたことによって、2016/2017シーズンから2019/2020シーズンにかけて、管理費は56%増加しているとも報告されています。同様に財務計画がしっかりしておらず財務コストも6倍になったとしています。

結局、FCバルセロナは、金融コスト削減のため595百万ユーロ(774億円)の借換を行い財務コストを削減すると共に、さらに選手の給与を155百万ユーロ(202億円)削減する計画を立ています。

 

所見

FCバルセロナの状態は、確かに破綻状態のようです。

そして、現状では収入よりも支出が上回っています。

このような状態を脱却するためには、当たり前ですが、支出を減らさなければなりません。そして、サッカークラブの場合には、その主な支出は選手への給与です。

したがって、FCバルセロナがメッシとの契約で合意せずに終わったことは、経営としては正しい判断なのかもしれません。

これからしばらくの間は、FCバルセロナは新たな大物選手の獲得は難しく、選手の流出も続く可能性があるでしょう。世界中にファンを持つFCバルセロナが今後どのようになっていくのか注目していきたいと思います。