銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

サブリースガイドラインにおける誇大広告具体例

f:id:naoto0211:20201031150748j:plain

不動産会社等が、アパートを家主から一括して借り上げ、入居者に貸し出しする「サブリース契約(いわゆる又貸し)」をめぐるトラブルが後を絶たないことから、サブリースの勧誘や広告を規制する新たな法律が2020年12月に施行されます。

この法律で規制する不当な勧誘方法の具体例などをまとめたガイドラインを国交省が公表しました。

サブリースと言えば、スマートデイズのかぼちゃの馬車事件が有名ですが、サブリース会社や不動産仲介会社、銀行等が個人投資家へ案件を紹介することが多いでしょう。このサブリースは、家賃保証等の契約条件の誤認を原因とするトラブルが多発し、社会問題化しています。勧誘の時の説明資料や実際の説明が後にトラブルになっていることは多いのです。

そのため、国交省はガイドラインで誇大広告の禁止についての具体例を挙げています。この具体例は、実際の問題に即したものであり、サブリースの問題点が非常に分かりやすく凝縮されています。今回は、国交省が策定したサブリースガイドラインにある誇大広告の具体例について確認していきましょう。

 

誇大広告等の禁止

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業務適正化法)が2020年12月より施行されます。

この賃貸住宅管理業務適正化法は、新たにサブリース業者と賃貸住宅所有者との間の賃貸借契約の適正化のための規制措置を講ずるとともに、賃貸住宅管理業を営む者に係る登録制度を設けることで、「管理業務の適正な運営」と「借主と貸主の利益保護」を図るための法律です。

この法律では以下の条文が制定されています。

【賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律】
(誇大広告等の禁止)
第 28 条 特定転貸事業者又は勧誘者(特定転貸事業者が特定賃貸借契約の締結についての勧誘を行わせる者をいう。以下同じ。)(以下「特定転貸事業者等」という。)は、第二条第五項に規定する事業に係る特定賃貸借契約の条件について広告をするときは、特定賃貸借契約に基づき特定転貸事業者が支払うべき家賃、賃貸住宅の維持保全の実施方法、特定賃貸借契約の解除に関する事項その他の国土交通省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。

この条文における「著しく事実に相違する表示又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」に該当すると考えられる場合を国交省のガイドラインは例示しています。

次にこのガイドラインを確認していきましょう。

 

サブリースガイドライン

サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドラインは、サブリース事業に係る規制の実効性を確保し、サブリース業者等とオーナーとのトラブルを防止するため、法の規制対象や法違反となり得る具体的な事例を明確化し、これらの規制の内容を関係者に分かりやすく示すために作成されました。

そのガイドラインの中に誇大広告の具体例が説明されています。これが、非常に「面白く実例に即している」ので以下記載します。

 

【具体例】
① サブリース業者がオーナーに支払う家賃の額、支払期日及び支払方法等の賃貸の条件並びにその変更に関する事項

  • 契約期間内に定期的な家賃の見直しや借地借家法に基づきサブリース業者からの減額請求が可能であるにもかかわらず、その旨を表示せず、「○年家賃保証!」「支払い家賃は契約期間内確実に保証!一切収入が下がりません!」といった表示をして、当該期間家賃収入が保証されているかのように誤解されるような表示をしている
  • 「○年家賃保証」という記載に隣接する箇所に、定期的な見直しがあること等のリスク情報について表示せず、離れた箇所に表示している
  • 実際は記載された期間より短い期間毎に家賃の見直しがあり、収支シミュレーション通りの収入を得られるわけではないにも関わらず、その旨や収支シミュレーションの前提となる仮定(稼働率、家賃変動等)を表示せず、〇年間の賃貸経営の収支シミュレーションを表示している
  • 実際は記載の期間より短い期間で家賃の改定があるにもかかわらず、オーナーの声として〇年間家賃収入が保証されるような経験談を表示している
  • 広告に記載された利回りが実際の利回りを大きく上回っている
  • 利回りを表示する際に、表面利回りか実質利回りかが明確にされていなかったり、表面利回りの場合に、その旨及び諸経費を考慮する必要がある旨を表示していない
  • 根拠を示さず、「ローン返済期間は実質負担0」といった表示をしている
  • 根拠のない算出基準で算出した家賃をもとに、「周辺相場よりも当社は高く借り上げます」と表示している
  • 「一般的な賃貸経営は2年毎の更新や空室リスクがあるが、サブリースなら不動産会社が家賃保証するので安定した家賃収入を得られます。」といった、サブリース契約のメリットのみを表示している

② 賃貸住宅の維持保全の実施方法

  • 実際にはサブリース業者が実施しない維持保全の業務を実施するかのような表示をしている
  • 実際は休日や深夜は受付業務のみ、又は全く対応されないにもかかわらず、「弊社では入居者専用フリーダイヤルコールセンターを設け、入居者様に万が一のトラブルも 24時間対応しスピーディーに解決します」といった表示をしている

③ 賃貸住宅の維持保全の費用の分担に関する事項

  • 実際には毎月オーナーから一定の費用を徴収して原状回復費用に当てているにも関わらず、「原状回復費負担なし」といった表示をしている
  • 実際には、大規模修繕など一部の修繕費はオーナーが負担するにも関わらず、「修繕費負担なし」といった表示をしている
  • 修繕費の大半がオーナー負担にもかかわらず、「オーナーによる維持保全は費用負担を含め一切不要!」といった表示をし、オーナー負担の表示がない
  • 維持保全の費用について、一定の上限額を超えるとオーナー負担になるにもかかわらず、「維持保全費用ゼロ」といった表示をしている
  • 維持保全の費用について、実際には、他社でより低い利率の例があるにもかかわらず「月々の家賃総額のわずか○%という業界随一のお得なシステムです」といった表示をしている
  • 実際には客観的な根拠がないにもかかわらず、「維持保全の費用は他社の半分程度で済みます」といった表示をしている
  • 月額費用がかかるにもかかわらず、「当社で建築、サブリース契約を結ばれた場合、全ての住戸に家具家電を設置!入居者の負担が減るので空室リスクを減らせます!」と表示し、月額費用の表示がない

④ マスターリース契約の解除に関する事項

  • 契約期間中であっても業者から解約することが可能であるにも関わらずその旨を記載せずに、「30 年一括借り上げ」「契約期間中、借り上げ続けます」「建物がある限り借り続けます」といった表示をしている
  • 実際には借地借家法が適用され、オーナーからは正当事由がなければ解約できないにもかかわらず、「いつでも自由に解約できます」と表示している
  • 実際には、契約を解除する場合は、月額家賃の数か月を支払う必要があるにもかかわらずその旨を記載せずに、「いつでも借り上げ契約は解除できます」と表示している

以上、如何でしょうか。

アパートを建てないかと不動産会社等から営業をかけられたことがある方ならば、完全に同じような事例や類似事例を見聞きしたことがあるのではないでしょうか。

 

所見

サブリース誇大広告の最たる例は「家賃保証」でしょう。

20~30年も家賃を保証するつもりもないのに、家賃保証を餌に不動産投資家に接近してくる業者は後を絶ちませんでした。個人の不動産投資家も家賃保証をなぜか信じてしまった人が相応にいたのです。

しかし、今回の法施行により、ある程度は防止されるものと思われます。

賃貸住宅管理業務適正化法は罰則として懲役刑と罰金を用意しています。

f:id:naoto0211:20201031144506j:plain

(出所 国交省「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」)

今回の記事でご紹介した誇大広告のみならず、不当な勧誘等も法で禁止されます。サブリース会社や不動産会社等は、法令を遵守した上で、販売を行っていかなければなりません。

個人の不動産投資家にとってみれば、今までよりは騙される可能性が減りました。そして、このガイドラインを見れば、サブリース会社・不動産会社のセールスのどこに嘘や問題があるかを知る手助けになるでしょう。

サブリースを使った不動産投資をお考えの方はぜひ一読してみてください。