銀行員のための教科書

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コロナ後に投資家が選択すべき不動産(REIT)はどのようなタイプか?

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新型コロナウィルスが猛威をふるっています。
各国は人の移動を制限し、在宅動務が拡大しています。

日本においても、海外からの出張者、旅行者は著しく減少し、ホテルは軒並み稼働率が低下しています。

3月中旬には東証のREIT指数が急落した局面もありましたが、特にホテルを投資対象とするREITの投資口価格(いわゆる株価)が下落したままとなっています。

これは、不動産への投資のチャンスなのでしょうか。コロナショック後は、不動産マーケットの環境は激変するのでしょうか。

今後、不動産にREITを使って投資するとしたら、どのような資産を保有するREITにすべきなのでしょうか。

今回は冷静になって、少し先のことを考えてみたいと思います。

 

ホテルについて

まず、ホテルについて確認しましょう。

いちごホテルリート投資法人が 2020年2月度におけるホテルの運営状況を公表しています。

あくまで日本全体のホテルではありませんが参考にはなるでしょう。以下はいちごホテルリート投資法人が保有する18ホテルの2020年2月売上高等です。

  • 売上高 474.1百万円、前年同期比▲27.1%
  • RevPAR 5,029円、同▲30.2%
  • ADR 6,719円、同▲16.4%
  • 客室稼働率 74.8%、同▲16.5%

RevPARとはRevenue Per Available Roomの略で、「販売できる全て客室」1室あたりの平均単価です。ADRとは、Average Daily Rate の略で、「実際に利用された客室」1室あたりの平均単価のことです。同じ平均単価でも、ADR は「実際に売れた客室」の平均単価であるのに対し、RevPAR では「売れなかった客室も含めて」計算します。

上記の数字を見る限り、2月であったとしても大幅な指標悪化となっています。もちろん3月は更に悪化していることは間違いありません。

ホテルを対象としたREITは、ホテルの売上超過部分の一定割合や営業総利益の一定割合を「変動賃料」として収受する契約としていることがあります。

いちごホテルリート投資法人の場合、2020年1月期の不動産運用収益は、1,557百万円ですが、このうち564百万円(36.2%)が変動賃料です。

ホテルの稼働が極端に落ちているであろう現状では、これらの変動賃料は見込めないでしょう。

すなわちREITにとって最も重要な投資家の配当利回りが急減することが容易に想定されるのです。

新型コロナウィルスの問題はしばらく続く可能性がありますし、東京オリンピックも延期となりました。経済活動の問題が生じている中、インバウンドの旅行者の動きも限定的となる可能性は高いでしょう。

ホテルというアセットは、宿泊需要が大きい場合には他アセットと比べて収益性が高いことは間違いありませんが、リスクが高いことも投資家の間で再認識・実感されたものと思われます。

しばらくは投資対象として劣後するものと筆者は想定します。

 

オフィスについて

REIT において当初から主要な投資対象となっているのはオフィスです。

新型コロナウィルスの影響で、投資はオフィスに戻っていくのでしょうか。

筆者としては、REIT の投資口価格が低下し、オフィスでも十分な利回りが確保されるのであれば、投資家は第一の選択肢としてオフィスを選好するものと考えます。

特に好立地・高スペックのオフィスは換価性(流動性)もあり、底堅い人気はあるでしょう。

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(出所 三鬼商事 オフィスレポートTokyo2020 https://www.e-miki.com/market/datacenter/pdf/tokyo.pdf

以上のグラフで分かる通り、オフィスの賃料は安定しています。東京は賃料が大幅に上昇していますが、これは大量の新築ビルの床の供給があったにもかかわらず空室率の低下も伴っており、需要によって押し上げられたことになります。オフィスは東京集中の傾向はありますが、地方主要都市でも根強い需要があり、立地さえ良ければテナントが退去したとしても後継テナントが決まる等、計算しやすいアセットです。

一方で、筆者の私見でしかありませんが、テナントである企業サイドから見ると、都心の好立地で、ワンフロアが広い、使い勝手の良い物件にオフィスを集約していくことが、必ずしも正解であるとはみなされなく虞があるのではないかと考えています。

今までは、 一つの基準階(ワンフロア)が広い物件の方が、従業員間のコミュニケーションも活性化され良いとされていたように思いますが、今回、ウィルス対応という観点が加わりました。ウィルスへの対策を考えると、集約し過ぎるのはリスクとなります。

また、働き方改革の観点からは、都心集中も問題が生じます。子育てのしやすさ、職住接近という要素も加味すると、鉄道沿線の主要駅に「スモールオフィス」「サテライトオフィス」を整備した方が従業員のニーズは高いかもしれません。既に、現在進行形でテレワークの実験・実践がなされている訳ですから、ウィルス対策の観点からも「オフィス分散」がキーワードとなる可能性はあるでしょう。

オフィスは投資家にとって第一の候補であることは間違いありませんが、新たな観点が加わるのです。

REITが保有するのは好立地の大規模物件が多いため、留意が必要かもしれません。

 

物流倉庫について

では、オフィス以外に有望なアセットはないのでしょうか。

筆者は物流倉庫は重要な投資対象であると考えています。

以下は、三菱地所物流リート投資法人の決算説明資料からの抜枠です。

この資料で見れば分かるようにインターネット通販のような電子商取引のマーケットは拡大を続けています。

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(出所 三菱地所物流リート投資法人/2019年8月期(第6期)決算説明会資料)

小売業界の市場規模比較では、百貨店が長期低迷から抜け出せず、スーパーも今後の拡大は難しいでしょう。コンピニは店舗拡大が続いてきましたが、足元では報道にあるように成長がストップしてきています。ドラッグストアが伸びる余地はありそうですが、インバウンド消費の減少がどの程度の影響をもたらすかは今後注視していく必要があります。

一方で、インターネット通販は市場の拡大が続き、既に小売りのカテゴリーではトップとなっています。新型コロナウィルスの影響はリアルの店舗を持つ小売業にとっては脅威ですが、インターネット通販には追い風です。今回、外出自粛によってインターネット通販のすそ野は更に拡大していくものと想定されます。

インターネット通販が伸びるのであれば、必要となるのは、やはり物流倉庫です。

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(出所 日本リテールファンド投資法人/2019年8月期(第35期) 決算説明会付属資料)

2018年における世界のEC (電子商取引)化率の推移は、日本が 6.2%であるのに対して、アメリカが 10.1%、イギリスが17.0%、中国に至っては 23.7%となっています。 日本は他国と比較すると、まだまだ伸びる余地はあるものと思われます。

一方で、人口 1,000人あたりの店補面積では、日本はイギリスの面積と同レベルとなっており、土地が広大で車社会であるアメリカが特殊であるとすると、日本のリアルの店舗は既に飽和状態と考えられます。

EC化率の将来予測は、日本のみならず他国も拡大が続くものと想定されています。 ECが拡大すれば、必要となるのは物流倉庫です。

人口が減少する日本においても物流倉庫は拡大するアセットなのです。

加えて、REITが保有するような物流倉庫は、テナントからすると一度入居したならば、 退去しにくいのが特徴です。安定的にテナントの確保が見込めるところに強みがあります(一方で、 立地によっては一度テナントが抜けたら簡単には後継テナントが決まらないリスクはあります)。

以上が反映され、物流食庫を投資対象としたREITは他REIT に比べて利回りが低くなっています。利回りの水準次第ではありますが(筆者はもう少し利回りが高くあるべきではないかと考えていますが)、物流倉庫を対象としたREITは投資対象としては魅力的なものとなる可能性があるでしょう。

 

賃貸住宅について

最後に賃貸住宅についても触れておきます。

賃貸住宅は、賃料が安定的であることが魅力です。

過去の推移を見れば分かりますが、法人ではなく個人との契約が多いこともあり、賃貸住宅(主にマンション)は、他アセットに比べると賃料が下がりにくいという特徴があります。

以下は、マンション賃料インデックス(編集・発行アットホーム)の2019年第4四半期のエリア別 賃料インデックスの推移(総合)です。

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(出所 マンション賃料インデックスhttps://www.athome.co.jp/contents/chintai/report/m_index_kohyo2003.pdf

上記グラフを見れば、リーマンショックや東日本大震災後でも賃料が安定しているのが分かるでしょう。

人口減少が進んでいく社会かつ既に世帯数を既存住宅戸数が上回っている日本ではありますが、REIT が保有する物件は比較的立地もスペックも良いため、今後も安定性には優れていると考えられます。

新型コロナウィルスの影響によりホテルや商業施設のようなアセットが厳しい状況下においては、守りのアセットとして賃貸住宅が脚光を浴びる可能性もあるのではないでしょうか。