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日産自動車の借入に対する政府保証は、日産の信用力棄損を意味する

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日産自動車(日産)はゴーン氏の解任劇以降、業績に陰りが見えていたところにコロナ問題が直撃し、厳しい環境が続いています。

その日産に対して、日本政策投資銀行が2020年5月に決めた日産への融資1,800億円のうち、1,300億円に政府保証をつけていたことが判明したと報道されています。

今回の記事は、日産の資金調達環境に少しだけ注目してみたいと思います。

 

政府保証借入について

日産が借入を行う際に政府保証が付けられたことについては、以下の記事が詳しいでしょう。時事ドットコムから引用します。

日産に政府保証1300億円 8割国負担、過去最大―政投銀
2020年09月07日 時事ドットコムニュース

 日本政策投資銀行が5月に決めた日産自動車への危機対応融資1800億円のうち、1300億円に政府保証を付けていたことが7日、分かった。返済が滞った場合、保証分の8割を国が実質補填(ほてん)するため、国民負担が生じる恐れがある。危機対応融資の政府保証額としては過去最大となる。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日産は販売不振に陥るなど大きな打撃を受けた。関係者によると、政投銀の融資がなければ資金繰りが悪化する恐れがあり、緊急に政府保証付き融資を決めた。日産は多くの雇用や下請け会社を抱え、社会や経済への影響が大きく、大規模な融資を迅速に決める必要があると判断したとみられる。
 政府は、新型コロナの影響を受けた企業の資金繰りを支援するため、政府系金融機関を通じて危機対応融資を実施している。貸し手は融資の焦げ付きに備えて政府保証に当たる「損害担保契約」を付けることができる。2009年に経営再建中の日本航空に対し約670億円の政府保証付き融資を実施した例があるが、同社は翌年に経営破綻し、約470億円の国民負担が生じた。新型コロナで損害担保が付いたのは日産が初めて。

この記事は表面的に見れば、日産という民間企業が、政府から支援を受けているというように読めます。

これ自体は間違いありません。

他の民間企業の経営者、特に中小・中堅企業から見ると、大企業が優遇されているようにしか見えないでしょう。

しかし、筆者はこの記事を違う意味に理解します。

日産は1,300億円を借りる際に政府保証が無ければ借りられなかったと考えるのです。

日産は2020年6月末で1兆3千億円の現預金を持ち、7兆8千億円程度の有利子負債(借入+社債)があります。

そんな日産が「わずか」1,300億円を借りるに際して政府保証が無ければ借りられず、資金繰りが悪化する怖れがあったと報道されているのです。

これは大変な問題です。

民間銀行は日産自動車をこれ以上支えないと方針を出している可能性すらあります。日産自動車は、民間銀行からの支援を得られないのであれば「政府系の銀行から資金を借りる」、「社債を発行する」、もちろん「自ら自動車という商品や保有資産を売ってキャッシュを手に入れる」というような対応をとらなければ、資金繰りの対応ができません。

 

社債発行について

そんな中で更に日産が社債を発行するとの報道がなされました。以下は日経新聞の記事からの引用です。

日産、米欧で社債1・1兆円発行 資金繰り改善へ
2020/09/11 日経新聞

 日産自動車は米国と欧州で合わせて1兆1000億円の社債を発行する。新型コロナウイルスの感染拡大によって販売が低迷、長期化も見据え、当面の事業運営に必要な手元資金を確保する。7月に4年ぶりに国内で起債したが、格付けが低いこともあり、発行額は700億円にとどまっていた。リスクマネーの引き受け手が多い海外で資金を調達する。
 米ドル建てで80億ドル(約8480億円)、ユーロ建てで20億ユーロ(約2520億円)の社債を17日に発行する。ドル建て、ユーロ建てとも、本体としての社債発行は1999年に仏ルノーと提携してから初めてとなる。
 内訳はドル建てが年限3年と5年でそれぞれ15億ドル、7年と10年でそれぞれ25億ドルを発行。利回りは3年債で3.04%、10年債で4.81%となる。ユーロ建てが3年で5億ユーロ、5.5年と8年でぞれぞれ7億5000万ユーロ。利回りは3年債が1.94%、8年債が3.201%になる。
 日産は過去の拡大路線の失敗で業績が悪化し、4~7月に銀行融資などで約9000億円を調達した。日本政策投資銀行の1800億円の融資には1300億円の政府保証が付いている。
 融資には返済が1年以内のものもある。今回調達する資金の一部は借り換えに充てて、返済までの期間を延ばす。コロナの長期化もあり、業績回復に時間がかかることを見越し、当面の資金繰りにメドをつける。
(以下略) 

日産の社債発行は、ある意味ではありがちなパターンです。

すなわち、国内で資金調達ができないので海外で高い金利を払って資金を調達するのです。

日産は、本年(2020年)5月に最大5,000億円の社債発行枠を登録し、6月に社債発行を準備していたが、投資家の需要を調べたうえでいったん見送っていた、と報道されていました。

そして、実際に発行した本年7月はわずか700億円の社債発行に留まりました。5年債の利率は1.90%です。

格付は全く異なりますが、同じ業種であるトヨタ自動車の金融部門であるトヨタファイナンスが本年6月10日に発行した5年債/400億円の利率は0.13%です。

金融市場の日産に対する評価が分かります。

 

所見

日産は今回の社債発行で当面の資金繰りには目途を付けるでしょう。

まだ短期的に資金繰りの危機に陥る段階ではないものと思います。

しかし、コロナ前から経営が厳しくなっていた日産には厳しい目線が銀行からも投資家からも注がれているのです。

日産ほどの巨大民間企業が政府の保証なしには借入が出来なかったという事実が知れ渡ったことは、日産の信用力を低下させます。民間銀行に支援を簡単には受けられない、資金繰り的に危ない民間企業の仲間入りです。

日産は、政府保証による借入を行ったことも含めて、しばらくは日本政府の思惑にも振り回される可能性があります。もちろんルノーとの関係も問題山積でしょう。

まずは本業である自動車販売を立て直さなければなりません。

そして立て直しが難しいのであれば、比較的短期間で資金繰り含めた問題が発生するかもしれません。

これからの日産の経営には注目していきたいと思います。