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消化仕入というアパレルメーカーと百貨店を壊す商慣習

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新型コロナによる休業や営業時間の短縮で、アパレル企業の在庫が過去最高水準まで膨らんでいると報道されています。

この要因は、アパレルメーカーだけの問題ではなく百貨店やショッピングセンターの商慣習にあるとも指摘されています。

今回は、アパレルメーカー・百貨店の商慣習について少し確認してみましょう。

 

新聞記事

まずは、以下の記事をご覧下さい。

アパレル、在庫最高水準 「消化仕入れ」に限界
2020/07/20 日経新聞

 新型コロナによる休業や営業時間の短縮で、アパレル企業の在庫は過去最高の水準まで膨らんでいる。商慣習で在庫は出店先の百貨店やショッピングセンターではなく、アパレル企業が抱える。季節商品の特性から、過剰在庫の解消には損失覚悟の値引き販売しかない厳しさもある。
(中略)
 春夏向けの衣料品の大半は新型コロナ前に発注を終えていた。百貨店の臨時休業で販売機会がなくなった結果、5月末の棚卸し資産(在庫)は166億円と2月末から22%も増えた。7月以降も売り上げの回復は鈍いとみて、「6~7月はほとんど秋冬物の仕入れをしない異例の事態」(大江社長)を決めた。
 ニコアンドなどを展開するアダストリアの5月末の在庫は同38%増、パーリーゲイツなどのTSIホールディングスも25%増となった。2008年以降で継続比較できる上場アパレル23社の5月末の棚卸し資産は1年前に比べ12%増えて、過去最高の水準だ。在庫が1年間に何回転したかを示す在庫回転率は5.9回と、過去数年の7回台から急速に悪化した。
 販売機会を失ったのはアパレルだけでなく、百貨店やショッピングセンターも同様だが、高島屋の5月末の棚卸し資産は3%増にとどまる。
 その背景には、百貨店は商品が売れた時点でアパレルから仕入れたことになる「消化仕入れ」という商慣行がある。コロナ禍のような不測の事態で百貨店側が休業した局面でも、在庫リスクはアパレル企業が負う。
(中略)
 在庫リスクを踏まえ、撤退の動きも強まっている。百貨店を主要販路とするオンワードホールディングスは19~20年度に全体の半数弱にあたる約1400店、三陽商会は地方の百貨店を中心に150店の撤退を計画している。「新型コロナで、百貨店との良好な関係の維持を考慮している余裕はなくなっている」(アパレル大手幹部)との声もあがる。
この記事にあるようにアパレルの在庫が増加しているのに 、百貨店の在庫が増加していないのは、 消化仕入という業界慣行によるものです。

この消化仕入とはどのようなものなのでしょうか。

 

消化仕入とは

百貨店業界には慣行として、商品が顧客に販売されると同時に仕入先からの商品仕入を認識するという、いわゆる消化仕入が存在します。

読者の皆さんが百貨店に行った際にお店に並んでいるほとんどの商品は、百貨店ではなく販売しているブランド(アパレル企業)が所有しています。

一見すると百貨店が家主で、ブランド・ショップが賃借人である通常の賃貸借関係にみえます。

ところが、店頭で顧客が商品を買ったとたんに、百貨店がブランドから一度商品を仕入れて、その商品を顧客に販売したことにしているのです。

百貨店で商品を購入すると店員さんが「お会計をしてきます」と言いながらどこかに消えていくことを疑問に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。その場でレジを置いて会計をすれば良いのにと。

これが出来ないのは百貨店の商慣行である消化仕入をするためなのです。

百貨店がまとめてレジにて会計処理をしなければ百貨店がどの商品を仕入れて販売したのかが分からないからです。

この消化仕入という商慣行は、「優れた立地にあり、販売力の高い百貨店がブランド(アパレル等)よりも強かったころの名残」です。ブランドは百貨店に出店することこそが収益を獲得する近道でした。そのため、消化仕入という商慣行を受け入れてきたのです。

百貨店からすると消化仕入を行うことによって在庫をかかえるリスクを回避することができます。売れ残った商品はブランドが処分すれば良いのです。一方で、百貨店からブランドには店頭に置く商品についてある程度指示をすることができます。百貨店では在庫を持たないのに、です。

消化仕入とは、百貨店に有利な商慣行です。

これも百貨店の集客力があったからこその商慣習なのです。

 

所見

今回のコロナは、アパレルメーカーの百貨店離れを加速させています。

しかし、単に百貨店でモノが売れないというだけが理由ではありません。

アパレル企業がメーカーとしてだけではなく、ショップ(販売者)としての在庫リスクまで抱えていることも大きな要因なのです。

在庫リスクを抱え、百貨店の休業や営業時間短縮リスクまで負っているため、アパレルメーカーは耐えきれなくなってきているのです。

そして、アパレルメーカーは、リアル店舗の販売に依存するリスクを如実に認識しました。

アパレルメーカーは、ECに移行することで、事態の打開を図ることになります。

そもそも、消化仕入は百貨店にとって素晴らしいビジネスモデルでした。ほとんどリスクなく、小売の商売が出来るのですから当然です。

しかし、在庫リスクをアパレルメーカーに寄せたことにより、アパレルメーカーは、在庫リスクを回避するために売れ筋商品ばかりを作ったり、原価率の低い商品ばかりを販売するようになりました。

その結果、消費者はアパレルメーカーの商品に魅力を感じなくなり、業界全体の売上が落ちてきました。

これが、さらに百貨店の守りの姿勢を強くさせ、アパレルメーカーがそれに対応して、というように負のスパイラルに陥ってきたのです。

今や、百貨店は小売業界の王者ではなくなりました。

百貨店には消費者やアパレルメーカーを惹き付ける魅力がなくなってきたのです。

それは、消化仕入という商慣行に甘えて、自らを小売企業として鍛えてこなかった百貨店自身の責任なのではないでしょうか。

コロナはこの百貨店の低落傾向を加速させただけに筆者には思われます。皆さんはどのように考えるでしょうか。