銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行の不良債権問題はこれから

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日本銀行が金融システムレポート別冊シリーズ「2019年度の銀行・信用金庫決算」を発表しました。

このレポートにおける銀行の決算の状況、本業の利益の推移、貸出利鞘・利益の推移については、前回の記事で確認してきました。

今回の記事は、前回の記事の続きとして、コロナで問題になってくるであろう銀行の不良債権問題について確認していきたいと思います。

 

銀行の信用コスト

銀行は右肩下がりで本業の利益を低下させてきました。その主な要因は貸出利鞘の縮小です。

では、貸出利鞘の縮小をもたらした要因はどのようなものでしょうか。

一つには構造的な要因としての民間の資金需要が低迷していることがあります。

しかし、それだけではありません。

日本全体で見ると近時は銀行が損失を被ることになるような倒産が少なかったということが挙げられます。経験則的に貸出金の回収が出来てしまうので、結果として銀行の審査がゆるくなっていったのです。

以下は銀行の信用コスト及びその率の推移です。

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信用コストをみると、大手行では、中堅・中小企業を中心とした業況悪化を背景とした引当の増加に加え、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響による国内外のクレジット環境の悪化懸念に対する予防的引当の計上もあり、繰入超に転じた。地域銀行でも、一部先による多額の信用コスト計上があった前年と同水準の繰入超となった。
信用コスト率(=信用コスト/貸出残高)は、大手行で 9bps(前年差+13bps)、地域銀行で 12bps(前年差▲0bps)となった。

(出所 日本銀行「2019年度の銀行・信用金庫決算」)

信用コスト(≒不良債権処理コスト、もしくは不良債権発生に備えた引当コスト)はリーマンショック以降は減少し、ほとんど信用コストが発生していないことが分かります。

銀行はこの時期には、過去に積み過ぎた引当の戻り(損失発生に備えて積み立てていたら、積み立てが使用されずに戻ってきたイメージです)が発生し、本業の利益低下を一部カバーしていました。

2019年度において特徴的なのは、大手行がコロナに備えて一般貸倒引当金を積み増したことです。2020年3月末時点では、個別企業の信用力がどの程度悪化するかが判然としない中で、まずは予防的に一般貸倒引当金を繰り入れしたということになります。

一方で、地域銀行(≒地銀)は動きが中途半端に見えます。

地域銀行は2018年度から2019年度にかけてスルガ銀行の不良債権処理が約1,000億円減少しています。すなわち、地域銀行はスルガ銀行要因を除けば、不良債権処理もしくは予防的引当増加に転じているのですが、一般貸倒引当金のみならず個別貸倒引当金も実質的に増加しています。

地域銀行は、既に業績が悪化した企業を抱えており、コロナ影響が既に顕在化し不良債権化している先があるということなのでしょう。

 

不良債権残高・比率の推移

では、銀行の不良債権残高・比率の推移はどのようになっているのでしょうか。

以下の図をご覧ください。

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信用コストが低い水準で推移していたことから分かるように、不良債権比率は、大手行、地域銀行とも、低い水準のまま、横ばい圏内で推移しています。

3メガ銀の海外貸出の不良債権比率は、アジアで上昇していますが、全体でみれば低い水準で推移しているといえます。

では、与信残高における債務者区分の構成比はどのようになっているのでしょうか。

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与信残高の債務者区分別構成比をみると、大手行では 95%超、地域銀行では 90%弱が正常先比率であり、過去の水準に比較すると問題ない水準にあります。

そして銀行の債務者区分別の引当率は以下の通りです。

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与信全体に対する平均的な引当率をみると、大手行では、低水準ではあるものの、正常先や要注意先等の引当率が上昇したことを受けて、与信全体でもわずかに上昇した。地域銀行では、与信全体でみて、前年度に上昇に転じた後、横ばい圏内で推移した。

(出所 日本銀行「2019年度の銀行・信用金庫決算」)

総じて言えることは、地域銀行の方が担保による保全があるという要因はあると想定されるにせよ、債権残高に対しての引当率は低いということです。

これは、後々に問題となってくる可能性はあるでしょう。

 

銀行の不良債権の今後

コロナの影響が出てくるのは2020年度です。

信用コストが低下し続けることに慣れ、引当金の備えが出来ていない銀行にとっては、厳しい決算となるでしょう。

以下の図は2020年度の銀行の業績計画をまとめたものです。

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銀行の 2020 年度の当期純利益の計画値(2020 年 7 月時点の公表先ベース)をみると、現時点では、大手行(グループ連結)、地域銀行(単体)とも、減益の計画となっている。
大手行では、前年比▲20%強の減益を計画している。その背景の一つに、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により国内外のクレジット環境の悪化が懸念されるもとで、1 兆円強の信用コストを計上する計画であることが挙げられる。なお、この信用コストの計画値は、2019 年度に計上した予防的引当分を加味しても、なおリーマンショック時(2008~09 年度)の実績対比では低い水準となっている。
地域銀行では、全体では前年比▲5%程度の減益に留まるものの、個別にみると、6 割を超える先が減益とする中で、同▲20%以上の減益計画となっている先も少なくない。
新型コロナウイルス感染症が経済に与える影響を含めて、先行きに対する不確実性が非常に高いことには留意する必要がある。

(出所 日本銀行「2019年度の銀行・信用金庫決算」)

コロナへの対応は、大手行は予防的な引当を2019年度から対応しています。

一方、地域銀行は、予防的な対応を行ったところと行っていないところが分かれているように筆者には感じます。地銀大手の財務体力に余裕があるところは、2019年度から予防的引当を計上したのに対して、地銀の中でも業績に苦しんでいるところは、予防的引当を行う余裕がないのではないかと思うほど、2019年度に予防的な引当は実施しませんでした。

恐らく地銀は二極化していくのでしょう。

銀行の不良債権は恐らくこれから急激に拡大していきます。

コロナで影響を致命的な影響を受ける可能性があるのは、大手行の取引先よりも地銀、信金・信組の取引先です。

2020年度は主に地銀の不良債権に着目したいと思います。