銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

インパクトファイナンスという新潮流は無視できない

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環境省が「インパクトファイナンスの基本的考え方」と題する報告書を公表しました。

財務的リターンだけではなく環境社会・経済にポジティブなインパクトをもたらそうとする投資は、世界的な潮流となりつつあります。

今回は環境省がこの投資、すなわちインパクト投資、もしくはインパクトファイナンスについて焦点をあてました。

今回はこのインパクトファイナンスについて簡単にみていきましょう。

 

インパクトファイナンスの定義

環境省のタスクフォースでは、ESG金融の発展形として環境・社会・経済へのインパクトを追求するものであり、 中長期的な視点に基づき、個々の機関投資家にとって適切なリスクリターンを確保しようとするものを「インパクトファイナンス」としています。

インパクトファイナンスの定義は以下となっています。

「インパクトファイナンス」とは、次の①~④の要素全てを満たすものをいう。

要素① 投融資時に、環境、社会、経済のいずれの側面においても重大なネガティブインパクトを適切に緩和・管理することを前提に、少なくとも一つの面においてポジティブなインパクトを生み出す意図を持つもの

要素② インパクトの評価及びモニタリングを行うもの。

要素③ インパクトの評価結果及びモニタリング結果の情報開示を行うもの

要素④ 中長期的な視点に基づき、個々の金融機関/投資家にとって適切なリスク・リターン を確保しようとするもの

(出所 環境省「インパクトファイナンスの基本的考え方」)

尚、ここでいう「インパクト」とは、 組織によって引き起こされるポジティブ又はネガティブな環境、社会又は経済に対する変化のことをいい、直接的な成果物や結果(アウトプット)ではなく、それによりに環境、社会又は経済面にどのような違いを生み出したかという効果(アウトカム)を指す、とされています。

 

インパクトファイナンスの意義

まず、インパクトファイナンスの社会的意義について環境省の報告書では以下のように説明しています。

○インパクトベースの新たなビジネスモデル構築と資本市場のパラダイムシフトの加速

インパクトファイナンスの普及拡大を通じて、ESG投資による環境・社会・経済的課題へのコミットメントが明確化されることが期待される。 これにより、インパクトを基盤とした新たなビジネスモデルの構築と資本市場のパラダイムシフトが加速し、脱炭素社会への移行、SDGsを具現化した持続可能な社会経済づくりにつながると考えられる。

○新たな社会づくりの軸としてのサステナビリティの向上

世界では、依然として新型コロナウイルス感染症の動向が予断を許さない状況の中、アフターコロナの社会づくりを考える動きが加速している。コロナ禍からの回復をよりグリーンかつ安全で豊かな未来の礎とすることを目指すは「グリーンリカバリー」という考え方が欧州を中心に広がり始めているように、サステナビリティがアフターコロナの社会づくりの軸となる。そして、環境、社会、経済に対しポジティプなインパクトを与えることを意図するインパクトファイナンスは、まさに、社会のサステナビリティの向上を支えていく大きな役目を担うと考えられる。

(出所 環境省「インパクトファイナンスの基本的考え方」)

インパクトファイナンスは、難しい用語や説明がなされますが、端的にいえば、我々の住む地球の環境を人間が住み続けられるように保つための金融面からの後押しです。

 

金融機関/投資家がインパクトファイナンスに取り組む意義

このインパクトファイナンスに金融機関や投資家が取り組む意義はどのようなものでしょうか。

これについても環境省の報告書は説明しています。

○自らの ESG投融資の理念の実現、社会的支持の獲得と競争力の向上

インパクトを考慮した投資活動によって、 ESG投資の取組を発展させ、インパクトへのコミットメントを示し、金融機関/投資家自身の環境・社会・経済的課題を解決しようと する目的に寄与できる。 同時に、インパクトファイナンスの提供により、投融資先である企業が環境・社会・経済的課題を解決しようとする目的に沿った事業活動を推進することにも貢献できる。こうした取組は投融資がもたらす環境的、社会的インパクトの実現に関心の高い、ミレニアル世代をはじめとした人々からの社会的支持の獲得を促し、金融機関/投資家としての競争力の維持向上にも資すると考えられる。

○中長期的志向による適切なリスクリターンの確保に寄与

インパクトファイナンスは、金融機関/投資家にとって、次の点から中長期的な時間軸に立った適切なリスクリターンの追求、ひいてはポートフォリオ全体の適切なリスク・リターンの確保に資すると考えることができる。

まず、インパクトに関する投融資先企業の多面的理解に基づくより深いエンゲージメントを通じて、金融機関/投資家は、企業価値や新たな事業機会に対する「目利き力」の向上を期待できる。

また、ポジティブインパクトの大きい、又はインパクトニーズの大きな成長分野のビジネスの機会を投融先企業に提供することになるため、投融資先企業の企業価値向上も見込むことができるだろう。

さらに、重大なネガティブインパクトを発現させる可能性のある投融資先企業に対し、インパクトの所在の特定と評価、エンゲージメントを行うことになるため、ネガティブインパクトの緩和や、トランジションの促進によるダウンサイドリスクの低減につながると考えられる。

○資本市場の持続的安定的成長と、金融機関/投資家自身の経営基盤の維持強化

社会全体のサステナビリティ向上に寄与するということも金融機関/投資家にとっての重要な意義である。上場企業を中心に幅広く投融資するユニバーサル・オーナーや大手金融機関にとって、環境・社会・経済面のネガティブインパクトを減少させ、ポジティブインパクトを増大させることによって社会の持続的成長を促進することは、資本市場全体の持続的・安定的成長につながり、金融機関/投資家自身の経営基盤の維持・強化に資する

地域に根ざす金融機関/投資家にとっても、地域社会の環境・社会・経済面の課題解決を通じて、自身の収益機会を獲得できるだけでなく、地域社会の持続的成長、ひいては、収益性の維持・強化に資するものと考えられる。

(出所 環境省「インパクトファイナンスの基本的考え方」)

金融機関も投資家も社会の一員です。

例えば、自然環境が毀損してしまえば、自らの存立基盤が揺らぎます。

そして、投融資をしている先も同様に致命的な影響を受ける可能性があります。

 

所見

サステナビリティが、これからの投融資のキーワードとなることは間違いないでしょう。

地球という惑星は有限であり、人間の活動によって気候変動が懸念されるようになってきています。

日本の銀行は、石炭火力発電への融資等ので環境団体等から避難されてきました。

この流れは大きくなり、実際にメガバンクは、基本的に石炭火力発電への融資をやめる方向に追い込まれました。

インパクトファイナンスは、金融機関が行うものであるだけでなく、株主から金融機関がプレッシャーを受けるという意味でも銀行経営にとって無視できないものになりつつあります。

インパクトファイナンスは、今は流行のようなものですが、中長期的に見ればインパクトファイナンスの考え方が一般的・当たり前になり、そのうち当たり前過ぎて意識されなくなるような概念ではないかと筆者は考えます。