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JR四国がいよいよ追い込まれた2020年3月期決算

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四国旅客鉄道(JR四国)の業績が悪化しています。

元々、JR各社の中でJR北海道と共に業績が苦しいJR四国は、資金繰り面でも問題が発生する可能性すらあります。

今回はJR四国の現状について見ていくことにしましょう。

 

報道内容

JR四国の業績状況については、日経新聞の記事が纏まっています。以下引用します。

JR四国、コロナで業績悪化 4月の損失「残り11カ月で補えない」

2020/5/8 日経新聞

新型コロナウイルスの感染拡大が、JR四国の経営に大きな影響を及ぼしている。JR四国は8日、利用客の減少による4月の損失が17億円に上ると発表した。半井真司社長は記者会見で「4月の損失を残り11カ月で補えない」と述べ、2021年3月期通期の業績見通しを初めて「未定」とした。収入減で6月にも手持ち資金が尽きるとして、金融機関と借り入れ交渉中であることも明らかにした。

JR四国が8日発表した20年3月期の連結決算は、営業損益が120億円の赤字だった。過去5年間では100億円規模の営業赤字が続いていたが、過去最大の営業損失となった。

20年3月期の売上高は489億円だった。新型コロナによる減収額がグループ全体で20億円に上り、2期連続の減収となった。減収額の内訳は最も多い鉄道事業が11億円、ホテル事業は3億3千万円、バス事業は2億7千万円だった。

(中略)

 

収入減による現預金の流出も深刻な状態にある。JR四国の現金・現金同等物は20年3月末時点で147億円だが、従業員への給与や工事費などの支払いで、6月末までに「端的に言えばゼロとなる」(西牧世博専務)という。取引がある金融機関などと交渉中で、借り入れの規模や期間は未定という。

(以下略)

(出所 日経新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58882560Y0A500C2LA0000/

このようにJR四国はかなり苦境に陥っているようです。

では、もう少しJR四国の業績について詳しく見ていくことにしましょう。

 

業績状況

まずは、以下の資料をご覧ください。

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(出所 JR四国決算短信)

これがJR四国の連結決算の概要です。

簡単に説明すると、以下の通りとなります。

  • JR四国は売上以上に費用が発生している。489億円の売上高を得るのに、609億円の営業費をかけている。一般の企業では考えられないレベル
  • 本業の赤字(営業損失)は▲120億円であるが、これを民営化時に国から与えられた経営安定基金2,350億円(2020年3月末時点)の運用益、機構特別債券の利息等でカバーするビジネスモデル
  • 営業外損益で+112億円と相応に運用では稼いでいる(うち、機構特別債券の運用益35億円は単に国からの援助という方が正しい)ものの、本業の赤字をカバーするまでには至っていない
  • 資金繰り面では本業での現金収支が+12億円に対して、投資で出ていく現金が▲88億円と本業での現金収入を超える投資を実施
  • これを2020年3月期は借入等でバランスを合わせて2020年3月末の現預金は147億円

以上がJR四国の2020年3月期決算の簡単な説明です。

 

所見

JR四国は、もはやビジネスモデルが崩壊しています。本業の運輸業で297億円の売上に対して営業費は434億円となっており、本業が完全に赤字です。

そして、発足当初と異なり、低金利の常態化によって、経営安定基金の運用収入が稼げなくなって、赤字が埋められなくなりました。

これはコロナ前からの問題であり、コロナはその問題をさらに浮き彫りにしたにすぎません。

では、JR四国はどのようにしたら良いのでしょうか。

まずは、6月にも枯渇する資金の手当て(借入)です。国のバックアップがあるとみなされているJR四国であれば、資金調達自体は可能でしょう。

そして、重要なことは、本業のコストを落とすことです。コロナをある意味では言い訳として、路線の廃止をするしかありません。

JR四国の黒字路線は以下の資料の通り、本州と四国を結ぶ本四備讃線しかないのです。

そして、平均旅客輸送人員は減少していることと、そもそも路線によっては、輸送人員がかなり少ないという問題を抱えています。

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(出所 四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会Ⅱ「JR四国資料」2019年3月22日)
経済合理性だけを考えると、JR四国は瀬戸内海を渡るマリンライナー(四国の玄関口)と、高松から松山、高松から徳島(もしくは阿南)までの路線だけを残せば良いということになりそうです。
そもそもJR四国がここまで赤字ということは、四国では電車の必要性が薄いということです。つまり四国は「車社会」なのです。

この現状を踏まえた上で、JR四国が地元の自治体含めてどのように路線の廃止(減便含む)を行っていくのかが今後注目されます。

やるべきことは、かなり明白です。後はどこまで踏み込むかなのです。

この問題はJR北海道も同様です。両社の今後に注目しています。