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日本のリース会計基準変更は一部の不動産マーケットには逆風も

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日本の会計基準を策定している企業会計基準委員会がリース取引の資産計上について見直しを検討していることが報道されています。

同様の見直しがなされているIFRS(国際会計基準)等では、リース取引に不動産の賃借が含まれることになっています。

日本の会計基準でも同様の見直しが行われる可能性があり、不動産賃貸借では上場企業の行動に影響がでるかもしれません。

今回はリース取引に関する会計基準変更の不動産について考察します。

 

報道内容

まずは報道されている内容を確認しましょう。以下は日経新聞の記事を引用します。

リース取引を資産計上 会計基準変更、国際標準へ
【イブニングスクープ】
2019年3月7日 日経新聞

機械や設備を購入せずに借りて利用する「リース取引」に関する会計基準が変わる。今までは企業の財務状態を表す貸借対照表(バランスシート)に記載する必要はなかったが、ルールが変わればリースの金額を明記する必要が生じる。上場企業全体を表す「日本株式会社」の資産は17兆円増える計算。リース離れの懸念に加え、資産効率を表す指標は数値上悪化するが、国際標準並みに財務の透明性を高める。

日本の会計基準を作る企業会計基準委員会(ASBJ)が8日に開く会合で見直し議論に着手、月内の合意を目指す。慎重論も残り、実際の導入までは草案作りや意見募集などで2~3年かかる可能性がある。

国際会計基準(IFRS)は2019年1月、米国会計基準は18年12月から始まる会計年度でこれまで簿外だったリース資産も全て計上するルールを導入済み。会計基準の国際化上、日本基準の遅れが課題だった。

リースは2種類に大別される。購入に近い「ファイナンスリース」と、賃貸借である「オペレーティングリース(オペリース)」だ。事務機やパソコンなどに多いファイナンスリースは既にバランスシートに計上していたが、今回対象になるオペリースが残っていた。船舶や飛行機、倉庫など耐用年数の長いものが多い。

影響は不動産や小売業、物流、海運など多方面に及ぶ。海運では船舶、空運では航空機材でリースを多く活用する。物流の倉庫もリース物件が多い。賃貸物件をオーナーから借り上げ、賃料保証するビジネスモデルのレオパレス21や大東建託では新たに多額の資産と負債の計上が必要になる。

あくまで会計処理上の問題だが、経営目標として総資産利益率(ROA)などを掲げる企業の数値悪化が投資家の判断に影響する可能性はある。財務基盤の弱い会社にとって有利子負債額の増加は重荷だ。

(以下略)

これが報道されている内容です。

今は貸借対照表に計上されていない(=オフバランス)オペレーティングリースについて資産と負債として貸借対照表に計上されることになるというものです。

このような会計基準の変更は何か影響を及ぼすのでしょうか。今までもリース取引としてなされてきたのですから、大きな影響は考えにくいのではないでしょうか。

この点につき筆者は不動産業界に相応の影響が出るのではないかと想定しています。

以下でさらに詳しく見ていきましょう。

 

IFRSにおける新リース会計基準

まず、IFRSにおいてどのような影響があるのかを確認しましょう。日本会計基準もIFRSへのコンバージョン(変換、統合のようなイメージ)を進めてきた経緯があるためです。

IFRSの新リース会計基準では、短期もしくは少額資産のリースを除き借り手は全てのリース取引をオンバランスさせることになります。貸し手については大きな変更はありません。

新基準のリースには、一般的に言われるリース取引はもちろんのこと、オフィス機器や不動産の賃借契約も含まれます。

この影響は大きく、オフィスを賃借している企業は、賃借しているオフィスを使用権資産として、賃借料をリース負債として、資産もしくは負債勘定に計上する必要がでてきます。毎年度の決算では使用権資産については減価償却費を、リース負債については支払利息を計上し、取り崩しをはかっていくことになります。

ポイントとなるのは、貸借対照表(B/S)が膨らむこと、損益計算(P/L)では賃借料の一部が支払利息として営業外費用の扱いとなることから、いわゆる営業利益が改善する点です。

IFRSを適用している企業にとっては、新リース会計基準の導入により、これまでは当然にオフバランスだった賃借オフィス等の不動産が使用権資産とリース負債という形でオンバランスされることになり、自己資本比率、ROA等の指標が悪化します。

また、リース会計基準では、いままで支払賃料として処理していた単純な費用支払が、使用権資産計上および減価償却、リース負債計上およびリース料支払・支払利息計上等、複雑な会計処理が求められることになるため、不動産を賃借するインセンティブが薄れることになります。

加えて、使用権資産については減損会計も適用されることになり、赤字企業にとっては突然巨額の減損損失を迫られることになりかねません。

これがIFRSのリース会計基準変更における不動産賃借でのポイントです。

 

今後の影響

以上はIFRSにおける影響でしたが、日本会計基準も同様の変更となる可能性は高いでしょう。

国を跨いでの企業間の比較可能性を改善し、日本企業へ投資を呼び込むために日本会計基準はIFRSへのコンバージェンスを進めてきました。日本の会計基準を合わせなければ海外の企業と日本の企業を適切に比較が出来ず、日本企業への投資が細る可能性があったからです。

では、日本の会計基準変更により、どのような影響が想定されるでしょうか。

前述の新聞記事にある通り、リース離れの懸念に加え、資産効率を表す指標の悪化(例:ROA)が想定されますが、資産と負債が増加するだけであり実態が変わらないため、資金力、財務体力のある企業は不動産を「持たざる経営」から「保有する経営」へ切り替えるところも出てくる可能性があります。 

これに伴い、特に上場企業をテナントに持つビルでは、テナントの退去が起こる可能性もあります。

企業を対象とした不動産賃貸企業、J-REIT、私募REIT・ファンド等は企業のオフバランスニーズを捉えて規模を拡大してきましたが、賃借人に賃借メリットがなくなるのであればスポンサーからの物件供給が途切れる、もしくはテナントが退去する等の影響を受ける可能性があるということです。

また、不動産についてはリース会計基準など関係のない個人が賃借する住宅物件や上場企業が賃借などしない小型の物件が優位とされることになる可能性もあるかもしれません。

個々の借り手にとって不動産を借りるメリットは、使用開始時に多額の資金が必要ないこと、適時に他の場所に存在する物件に移ることが出来ること、必要な床を柔軟に増減出来ること、そして貸借対照表への不計上等が挙げられます。

すなわち、資金力があり、必要な賃借面積が決まっている企業では、賃貸人(貸し主)に余計な費用を払わないように自社で保有する方がメリットがあると考えることは自然なのではないでしょうか。

大きな動きではないかもしれませんが、筆者は今回想定されているリース取引の日本会計基準変更によって、一部の賃貸マーケット・不動産売買等には影響が出ると想定しています。