銀行員のための教科書

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業績が苦しい時に家賃の減額を不動産オーナーへ請求することは出来るのか

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新型コロナウィルス感染拡大に伴い国・地方自治体からの外出自粛要請がなされています。

これにより飲食業、小売業等で大きな収入減少が続くことになります。

様々な業態では不動産を貸借し事業を行っているところが多いでしょう。 この不動産の賃借料 (家賃) は、売上・収入がない中でも不動産のオーナー (所有者)に支払わなければならない固定費であり、 経営の足かせとなります。

このような状況下では、 家賃を引き下げたいと考える事業者は多いでしょう。

今回は、家賃の減額について確認してみたいと思います。

 

家賃(賃料)の減額請求権とは

当たり前ではありますが、家貸は貸主である不動産オーナーと賃借人との間の契約で決まります。

基本的には家賃は双方の合意によるものですので、自由に決めることができます。

よって、事業がうまくいかず家賃の支払いが難しくなった場合に、 賃借人は不動産のオーナーに対して、家賃の減額を交渉することは当然に可能です。

しかしながら、交渉しても賃借人の望む通りに減額となるとは限りません。この家賃の減額について、何らかの法的な手当てはなされていないのでしょうか。

まず、民間の活動における基本法である民法は家賃の減額請求については定めていません。

一方で、借地借家法にその定めがなされています。

借地における地代の増減額請求 (賃料は貸借人から減額を要請するだけでなく、 不動産オーナーから増額の請求がなされることもあります)は借地借家法11条に、借家における家賃の増減額請求は同法32条に規定されています。

今回は、特に飲食業や小売業の事業者に関係する借家に関する賃料減額請求について焦点を当てましょう。 この借地借家法の賃料増減請求については以下のように法で定められています。

【借地借家法】
(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増滅を請求することができる。ただし、 一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
(2項省略)
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とさ
れた建物の借賃の額を超えるときは、 その超過額に年一割の割合による受領の時からの利
息を付してこれを返還しなければならない。

借地借家法では、「契約の条件にかかわらず」と規定されていますので、借地借家法 32 条はいわゆる強行規定と解されています。 強行規定は、当事者の意思に左右されずに強制的に適用される規定であり、強行規定に反する当事者間の契約は、該当部分につき無効となります。

借地借家法では、単に現在の賃料が高いというだけで、当然に賃料減額が認められるわけではありません。

借地借家法32条は、建物の家賃が以下の事由に合致した場合には賃料の増減請求が認められるとされています。

  • 土地建物に対する租税その他の負担の増減
  • 土地建物の価格の上昇、低下その他の経済事情の変動
  • 近傍同種の建物の借賃と比較して不相当となった場合

経済事情の変動とは、物価や国民所得の変動、土地の生産性の向上等が考えられます。 

上記借地借家法32条の賃料増減請求事由は、現在の家賃を合意した後に生じた経済事情によって均衡を失ったものと認められる場合を指すものと考えられており、上記条文の事由は、その典型的な具体的事例を例示的に列挙したものと解されています。

すなわち、家賃の決定と関係する一切の経済事情の変動は全て考慮されるべきである一方、家賃は当事者間の特殊な事情に影響され個別に決定されることが多いため、単に近隣の家賃と比較して高い・低いという事由だけで、増減請求を行っても、それが一般的な経済事情の変動の表象と認められない限り、請求は認められないと解されています。従来の家賃をもって当事者を拘束することが公平の理念から不合理な程度に達していると裁判所が判断する必要があるため、かなりハードルは高いと言えるでしょう。

 

家賃支払における注意点

借地借家法32条3項本文では「建物の借賃の減について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。」と定めています。この「相当と認める額」とは原則として従前の賃料の額とされています。

賃借人は、賃料減額請求権を行使したとしても、 不動産オーナーと合意(もしくは裁判での判決)ができていない間はとりあえず従前の賃料を支払わなければなりません。一方的に近傍同種の建物の賃料相当額だけを支払っていては債務不履行だとされ、契約解除を主張される恐れがあるということです。

 

家賃の減額請求は認められるか

今回は「コロナショック」という日本・世界全体を巻き込んだ大きな事象が要因です。国・地方自治体の外出自粛要請に伴う経営不振であれば、裁判を行った場合に家賃の減額を勝ち取れる可能性はあるでしょう。

一方で、2020年4月8日時点では事業者(=賃借人)宛の事業自粛要請が出されている訳ではないことには留意が必要です。また、新型コロナウィルスの影響がどの程度続くのかについても見通しは不透明です。短期的に収束に向かった場合にまで、 経済変動として認められるのかが論点となるでしょう。(短期的な影響で終了した場合には、直ちに相当賃料が下落するとは考えにくいということです)

そして何よりも、家賃の減額交渉(調停・裁判)をしている間に、会社存続自体が危うくなってしまう恐れが十分にあります。

このような環境下ではスピードこそが事業存続のポイントです。不動産オーナーとの裁判外での協議が結局は重要になってくるものと思われます。

尚、上記の説明は「普通借家」についてのものですが、定期借家の場合、賃料増減請求権を排除することが可能です(借地借家法38条7項)。もし家賃の減額請求を行おうと考えている賃借人がいれば契約書を確認しておいた方が良いでしょう。