新型コロナウィルスの影響により世界的に株価が暴落してきました。
この株価暴落により公的年金の積立金を運用しているGPIFが大損を出しているのではないかと一部で報道がなされています。
我々の年金は大丈夫なのでしょうか。
今回はGPIFの運用状況について試算してみることにしましょう。
GPIFの運用状況についての試算
GPIF(Government Pension Investment Fund)は年金積立金管理運用独立行政法人の略称です。
GPIFは厚生労働省所管の独立行政法人です。日本の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行っています。GPIFは世界最大級の機関投資家と言われていますが、それは資産規模によるものです。
GPIFの運用資産は以下の通りです。
【GPIFの運用資産(2019年3月末時点)】
- 国内債券 43兆1,627億円、割合26.30%
- 国内株式 38兆6,556億円、割合23.55%
- 外国債券 27兆8,187億円、割合16.95%
- 外国株式 41兆8,975億円、割合25.53%
- 短期資産 12 兆5,871億円、割合7.67%
- 合計 164兆1,216億円
このGPIFの2019年4〜12月までの運用収益全体は9兆4,241億円です。資産規模が巨大であり、運用収益も絶対額が大きいファンドがGPIFです。
2019年3月末時点では、国内株式は90.6%がパッシブ運用、外国株式は90.5%がバッシプ運用となっていますので、GPIF はおおむねパッシブ運用を行っているものと想定できます。
そして国内外の株式が運用資産全体の約5割を占めます。株式投資の割合が大きく、比較的アグレッシブに運用していると言えるでしょう。
この巨大ファンドが我々の公的年金を運用しています。
では、まずは国内株式の損益状況について試算してみましょう。
国内株式の損益
まず、国内株式ですが、GPIFはインデックス運用が主ですので、代表的な株価指数であるTOPIX(東京証券取引所第一部上場全銘柄を対象として、算出・公表されている株価指数)の推移でGPIFの運用状況を試算しましょう。
2020年1月〜3月16日までのTOPIX下落率は、2019年12月末TOPIX終値が1,721.36、2020年3月16日終値が1,236.34であり、▲28.2%です。
2019年3月末から国内株式の保有内容が変わらないと仮定すると、2019年4〜12月末までの運用収益が+9.6%ですので単純に38兆6,556億✕109.6%=42兆3,665億円が2019年12月末時点の国内株式資産額となります。
ここから足元までの下落を織り込むと、42兆3,665億円✕(1−28.2%) =30兆2,920億円となります。
2019年3月末からは▲8兆3,636億円、▲21.6%となっています。
外国株式の損益
GPIF は主に「MSCIオール・カントリー・ワールド(ACWI)除く日本 (円べース)」を外国株式運用のベンチマークとして使っているようです。この指数は、日本を除く先進国および新興国を対象とするグローバル株式の代表的な指数です。この指数を使って外国株式の損益を試算します。
2020年1月〜3月16日までのMSCI ACWI (除く日本、但しUSDベース)は▲27.7%となっています。
2019年12月末終値が851.491、2020年3月16日終値が615.898です。
2019年3月末から外国株式の保有内容や為替水準が変わらないと仮定すると、2019年4〜12月末までの運用収益が+11.3%ですので41兆8,975億円✕111.3%=46兆6,319億円が2019年12月末時点の外国株式資産額となります。
ここから足元までの下落を織り込むと、46兆6,319億円✕ (1−27.7%) =33兆7,149億円となります。
2019年3月末からは▲8兆1,826億円、▲19.5%と試算出来ます。
株価暴落が GPIFに与える影響
上記国内株式および外国株式の損失は、合計すると16兆5,462億円となります。これは2019年3月末時点のGPIFの資産総額の10.1%となります。
すなわち、2019年4月から 2020年3月16日までの約1年かけての株式運用の影響で、全体資産の約1割が目減りしたということです。
GPIFの2001年度以降の収益は年率で+3.23%ですので、過去の実績が続くならば、約3年強で今回の暴落は穴埋めが出来る水準です。
また、2001年度以降の累積収益額は75.2兆円です。今回の株価暴落では約17兆円という損失が発生していますが、まだ資産運用の累積収益をはるかに下回ります。
公的年金への影響
公的年金(厚生年金、国民年金)の給付総額は、約 55 兆円です。そのための財源の約7割は現役世代からの保険科収入でカバーされています。さらに2割強は税金(国庫負担) が投入されています。保険料収入と税金ではカバー出来ない部分(給付総額の1割未満)を GPIFが運用している年金積立金が補っています。
すなわち、年金積立金は、あくまで年金制度を安定させるためのものであり、運用の結果が現在の受給者の年金給付に直接影形響するような仕組みではありません。
2019年に年金の財政検証がなされましたが、おおむね100年後に年金給付1年分に当たる金額が残るように、 運用収入に加えて積立金本体も取り崩していく計画です。 この100年の間を平均すれば保険料と税金(国庫負担)で給付の約9割を賄う計画なのです。
(出所 GPIFホームページ)
確かに GPIF の運用が上手くいかなければ、年金積立金は計画よりも先に枯渇してしまい、年金の給付水準を切り下げなければならない事態は来るでしょう。しかし、GPIF の運用が短期的に損失を計上したとしても、現段階では年金の給付が大幅に削減されることにはならないものと筆者は考えています。