銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

「コロナショック」はバブル崩壊や恐慌の始まりなのか?

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新型コロナウィルスの影響により世界中で株価が下落しています。

この状況は「バブル」 の崩壊なのでしょうか。恐慌が起きようとしているのでしょうか。

今回はバブルの崩壊や恐慌について少し考察してみましょう。

 

バブル・恐慌とは

まずバブルとはどのような意味でしょうか。

バブルは「泡」という意味で、 実態の価値以上の評価 (泡の部分)が生じている経済状態のこと。

具体的には株、土地、建物、絵画、宝石など各種の資産価格が、投機目的で異常に上がり続け、その結果、それらの資産額が膨らみ、 大きな評価益が発生しているかのように見える状況のこと。

最近の日本では1980年代後半から1990年代初頭までが相当する。1980年代後半の金余りを背景に、地上げによる土地や財テクブームに乗って、地価や株価が高騰。東京株式市場の売買額が世界一になり、ノンバンクも含めた土地関連銀行融資の激増、リゾート法の改正などが相次いだ。

このバブル経済は、その後の金融引き締めや不動産融資規制により、1990年頃には地価の下落、株価の下落へと向かった。

(出所 金融広報中央委員会「知るぼると」)

そして、「恐慌」とは、それまで問題のなかった経済が急速に悪くなり、不況という状況を超え、経済が破たんしてしまう状態を言います。この経済的な恐慌が世界規模で起きるのが「世界恐慌」です。

近時の株式市場等がバブルだったのかは筆者には分かりません。 

そして、現在の株価暴落が恐慌につながっていくのかも分かりません。

バブルは崩壊してから初めて分かると言われているほどです。将来振り返った時に、今回の「コロナショック」がどのような解説をされるのかを待つしかないでしょう。

 

今はバブル崩壊なのか、恐慌の始まりなのか

では、 現在進行している株価の暴落はバブル崩壊もしくは恐慌の始まりであるのか、全く判断出来ないのでしょうか。

ここでは、バブルや恐慌時に見られた過去の事象について、過去の研究から特徴的なものを確認してみたいと思います。

まずは「バブルの物語(A Short History of Financial Euphoria) ジョン・K・ガルブレイス」からポイントを抽出します。

同書では、 投機のエピソードに共通しているのは、 世の中に新しいものが現れたという考えがあると指摘しています。

その時々に革新的だと喧伝されるものは、例外なしに既成のやり方をごくわずかに変えてみただけのものだ、という指摘は核心をついている可能性があるのではないでしょうか。金融に関する記憶は極度に短いという言葉も経験則から言って的確でしょう。人はバブルの失敗を忘れ、バブルは繰り返すのです。

直近では、GAFA によるプラットフォーム戦略やサブスクリプション、 シェアが革新的と喧伝されてきました。

しかし、少なくともWeWorkはサブスクリプションというよりは、 単なるサブリース業者であることが判明しました。これを機に、赤字であったとしても売上高の伸びが期待されるような企業への高評価も剥落したものと思われます (Uberも同じようなものでしょう)。

皆さんはどうお考えになるでしょうか。

 

もう一冊ご紹介しましょう。

「熱狂、恐慌、崩壊 金融恐慌の歴史 C・P・キンドルバーガー」の指摘も重いものです。

同書では、投機とは、金融資産の場合ならば、利子所得を得るよりも売買益を得るために購入すること、 商品ならば自ら使用するためであるよりは再販売のために購入すること、と説明しています。
そして、投機の終わりに近い段階では、真に価値のある対象から離れ、確実性の乏しい対象へ向かうと指摘されています。

これも赤字、すなわちキャッシュを生む力のない未上場株 (いわゆるユニコーン)への投資が思い当たるのではないでしょうか。また、仮想通貨(暗号資産)はどうでしょうか。

同書では、恐慌に向けて起きる以下の事象が報告されています。

  • 投機ブームが続くと利子率、通貨の流通速度、物価が全て上昇し続け、やがて物価は上昇を止める
  • 次にカネ詰まりの不安な時期が続く
  • カネ詰まりが続くと徐々にであれ、突然であれ、投機家たちは市場価格がそれ以上は上昇し得ないことを知る
  • その時が手仕舞い期である
  • そして、実物資産あるいは長期的な金融資産の先を争う換金競争に移っていく
  • 急激な反動と信用の回収は恐慌につながる

この流れを見る限りでは、まだ恐慌につながるような事象は起きていないのかもしれません。少なくとも全体としてカネ詰まりは起きているとは言えないでしょう。(未上場株へのカネ詰まりは起きているかもしれませんが)

そして、同書では恐慌は次の3つの事態のうち一つ、もしくはそれ以上が起こるまで広がり続けるとしています。

  • 物価が大きく下落し、人々が再びそれほどの流動性のない資産を買い入れようとする
  • 値下がりに下限を設けたり、取引所を閉鎖したり、さもなくば取引を停止する
  • 最後の貸し手が現金に対する需要に十分に見合うだけの通貨が調達できるようになると市場を説得することに成功する

現在の株価暴落、コロナショックが恐慌の始まりのような状況にあるかは明確には分かりません。しかし、恐慌になったと判断した場合に、危機を脱するか否かの判断には上記は有用でしょう。

尚、現在の株価暴落は換金競争であるとまでは言えないのではないかと筆者は考えています。過去の事象から得られた経験則では、 恐慌が頂点に達すると通質が手に入らなくなるのです。現段階では少なくとも恐慌状態とは言えないでしょう。

 

所見

筆者は、世界的なバブルの崩壊はまだ起こっていないと考えています。

現在起こっているのは、WeWorkの上場延期に象徴される未上場株式バブル (いわゆる局所的なプチバブル)の崩壊であり、 底の見えない不透明な業績環境になったことによるリスク資産からの逃避です。

本当に大きなリスクは、低金利かつ緩和的な金融環境下で膨らんだ国債・社債市場にあるのではないでしょうか。

筆者の勝手な予想では、 米国を含めた財政政策がこれから各国で出され、コロナウィルス対策の有効性を投資家が認識した段階で暴落は収束し、 株価は回復するというのがメインシナリオではないかと考えています。(そして、各国政府のなりふり構わぬコロナ対策こそが次のバブルを生むのかもしれません)

しかし、国債・社債市場が変調を来したならば、この時こそが要注意なのかもしれません。

原油価格の暴落は無視できない状況です。原油価格の暴落はシェールオイル企業や新興国政府の信用不安等につながる可能性はあります。これは、社債の暴落等を通じて資金繰り不安を招く可能性があるのです。この点には注視していく必要があるでしょう。

現在、足下で進行している事象が何かを判断するのは難しいものです。

しかし、人間という生き物はなかなか変わりません。美味しい食べ物を好み、人同士が争い、愛し合います。昔の物語を読んでも、人間の営みはあまり変わりません。

歴史は人間が引き起こした事象です。「今、何が起きているのか」「将来、何が起きるのか」を判断する道しるべに、歴史は有用なのではないでしょうか。判断に迷ったならば、歴史を調べてみるのは如何でしょうか。