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今後大きな問題となってくる介護保険について確認する

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日本政府が閣議決定した介護保険法などの改正法案について「高齢化で介護費の膨張が続くなか、焦点となっていた現役世代の負担軽減に向けた法改正はすべて見送られた」と報道されています。

年金や健康保険については若い世代の方も実際に保険料の納付をしているため、関心が高いと思われますが、介護保険については興味を持たない方もいるのではないでしょうか。介護保険は40歳以降に保険料の納付が始まるからです。

しかし、介護保険も今後の国民生活には大きな影響を及ぼしてくるはずです。

今回は介護保険について簡単に確認してみましょう。

 

報道内容

まずは直近の新聞記事をご確認下さい。介護保険が抱えている現時点の問題をある程度つかめるものと思います。

現役世代の負担減先送り、介護保険 改正法案を決定
2020/3/6 日経新聞

政府は6日、介護保険法などの改正法案を閣議決定した。高齢化で介護費の膨張が続くなか、焦点となっていた現役世代の負担軽減に向けた法改正はすべて見送られた。深刻な人手不足への対策も課題が残る。
2000年度に始まった介護保険制度は今年で20年を迎える。家族が担っていた介護を社会が支えることとなり、行政がサービスを決めていたそれまでの措置制度と比べ利便性も向上した。だが介護費は大幅に膨張し、18年度は10兆円と00年度の3倍に拡大している。
団塊の世代が後期高齢者になる22年以降、介護費は一段の膨張が懸念される。だが、原則1割の高齢者の窓口負担の引き上げや、軽度者向けサービスの保険給付からの除外など抜本的な見直しはすべて見送られた。
給付増は保険料負担にのしかかる。健康保険組合の医療や介護、年金の保険料率(労使折半)は19年度に平均29.1%と、10年で1割弱上昇。22年度には30%を超える見込みだ。

「住宅ローンや子供の学費負担に苦しむ現役世代への配慮が少ないのではないか」。経団連の井上隆常務理事は主張する。制度の持続可能性を高めるためには資産のある高齢者にも負担してもらう改革が欠かせない。

(以下略)

(出所 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56517700W0A300C2EA4000/

今回、介護保険にかかる抜本的な見直しが見送られたのは、間違いなく消費増税への対応です。しかし、いつかは見直し策が実施されるでしょう。 

 

介護保険とは

介護保険とはどのようなものでしょうか。

介護保険制度は、1997年に介護保険法が成立、2000年に法施行された比較的新しい制度です。

高齢化の進展に伴い、要介護高齢者の増加、介護期間の長期化など、介護ニーズはますます増大する一方で、核家族化の進行、介護する家族の高齢化など、要介護高齢者を支えてきた家族をめぐる状況も変化し、従来の老人福祉・老人医療制度による対応には限界があると考えられ創設されたものです。

家庭で主に女性たちが担っていたさまざまな介護問題が社会問題として共有化され、「高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組み」となったものが介護保険制度といえます。 

では、この介護保険制度の現状はどのようになっているのでしょうか。

 

介護保険制度の現状

介護保険制度はどのような現状なのでしょうか。

以下は、2018年に厚生労働省がまとめた資料です。状況がつかめると思います。

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(出所 厚生労働省 老健局 平成30年度 公的介護保険制度の現状と今後の役割)

このように2000年から2018年にかけて65歳以上の人口は1.6倍になり、要介護認定者は3.0倍となりました。

この要介護認定者の増加率が、65歳以上の人口増加率を上回っている要因としては、要介護度が上がるほど(介護状態が重くなるほど)、介護サービス事業者の売り上げが上がる、すなわち介護現場では予防や介護状態の改善が業者のインセンティブにはならないとの構造が以前から指摘されていました。本記事では細かい説明は省きますが、2018年の改正で要介護状態の改善等の実績が評価される仕組みが出来ていますので、今後の動向が注目されています。

とにかく、介護保険を取り巻く環境が悪化していくのは、言うまでもなく、今後の高齢者の増加が要因です。

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(出所 厚生労働省 老健局 平成30年度 公的介護保険制度の現状と今後の役割)

介護保険を利用している高齢者は75歳以上がほとんどと想定されますが、2055年には全人口に占める75歳以上の割合が25%となることが想定されています。4人に1人が75歳以上です。

そして、高齢化は元々高齢化が進んでいる地方よりも都市部で急激に進むことが見込まれています。

 

介護保険の費用および財源

2018年度の介護保険の給付費は約10兆円となっています。

65歳以上の高齢者が全体の23%、40~65歳までの現役世代が27%を払い、残り50%は公費で賄われています。

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 (出所 厚生労働省 老健局 平成30年度 公的介護保険制度の現状と今後の役割)

この介護保険における給付費はこれから更なる増加が見込まれています。

以下は日本の社会保障給付費の見通しですが、年金よりも医療費よりも高い増加率が見込まれているのは介護です。

2018年の約10兆円が2040年には25兆円超まで増加する見通しです。 

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(出所 令和元年6月12日 第118回社会保障審議会医療保険部会「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部のとりまとめ」について/厚生労働省保険局) 

 

所見

介護はこれから更に社会問題化することが間違いない分野です。年金も医療も当然に重要なのですが、介護の割合が急増するためです。

今回の介護保険法改正にあたり、高齢化で介護費の膨張が続くなか、焦点となっていた現役世代の負担軽減に向けた法改正はすべて見送られました。

改正の論点としては以下がありました。

【先送りされた改正の論点】
  • 介護保険料の負担年齢の30才への引下げ
  • 補足給付対象の所得基準に不動産などの資産を追加の一部
  • 介護施設の多床室料を全額自己負担とする
  • 居宅介護支援の自己負担1割の導入
  • 訪問介護の生活援助、通所介護の要介護1-2の市町村への移行
  • 自己負担2割の対象年収の引き下げ
  • 現金給付の導入

(出所 富士通マーケティングWebサイト https://www.fujitsu.com/jp/group/fjm/business/mikata/column/kohama/019.html

年金制度も健康保険制度も問題は抱えていますが、介護保険制度も大きな問題を抱えています。

介護保険料を負担していない若い世代の方も、介護保険については他人事ではありません。 限りある予算の中から、どのように社会保障の各分野に分配していくかは、重要な問題です。但し、高齢者は給付を受ける立場であるのみならず、様々な商品・サービスを入する消費者でもあることには留意が必要でしょう。

日本全体にとって、特に若い世代・現役世代と高齢世代との分断が進まないように、そして限りある財源を日本の次世代成長へ繋げられるように、介護保険についても見直しをしていって欲しいと筆者は考えています。