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株価はどのように決まるのか?〜暴落相場でちょっと考えてみる〜

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新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、世界の株式市場で動揺が拡がっています。

特に米国ダウは大幅に上下動しており、日経平均株価も大幅な下落に見舞われています。

株価の上下動はニュースになることが多く、誰もが当たり前に株価を意識しています。

しかし、そもそも株価とはどのようなメカニズムで決まるのでしょうか。

今回は、「株価」 について簡単に考察してみましょう。

 

株価の決まり方

まず、当たり前のことのようではありますが、株価は株式が取引される証券取引所での需要(買いたい人) と供給 (売りたい人)で決まります。

以下の図をご覧ください。

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(出所 お金のキャンパス/8つの相場サイクルがわかる 「逆ウォッチ曲線」 の使いかた)

これは、経済学を学んだ方からすると懐かしい図でしょう。

一般的に「価格」は需要と供給が均衡する所で決まっていくことになります。

需要サイドから見てみると、値段が安ければ安いほど買いたい人が増え、値段が高くなればなるほど買いたい人は減少します。

同様に、供給サイドから見ると、高く売れるのであればどんどん売却(=供給) したくなりますが、売れる値段が安くなればなるほど、売却する魅力がなくなります。

この、需要と供給が交差する点で、市場価格は決まります。これは株価も同様です。

結局のところ、株価は需給のバランスによって決まります。 株取引とは、企業が発行する株を売買するものです。企業が発行する株には限りがあるため、買いたい人が多ければ上がり、売りたい人が多ければ下がることになります。

東京証券取引所 (東証) のような株式の取引所は、株式を買う注文と、売る注文を全てシステムで取り込み、ちょうど注文の数がつり合う値段を算出します。買い注文が多ければ株価は上がり、売り注文が多ければ株価は下がることになります。まさに前掲の図のようなことが株式市場では起きているのです。

東証での売買は、 売買の成立に関する基本的な原則である「競争売買の原則」 に基づいて行われています。

「競争売買の原則」とは、価格優先の原則 (売りについては最も値段の低い注文が優先し、買いについては最も値段の高い注文が優先する) と時間優先の原則(同じ値段の注文については、先に出された注文を優先する)から成り立っています。この2つの原則に従い、 最も優先する売り注文と最も優先する買い注文との値段が合致した時に、その値段を約定値段とする売買が成立します。

 

株価はなぜ動くのか

株価が動くのはなぜでしょうか。

株価が動くのは当たり前のようですが、 これは考えてみると不思議で面白い事象です。

株式市場で取引が成立した、 すなわち 「株価」が付いたということは、同じタイミングで、同じ株に対して「買いたい」と思った人と、「売りたい」と思った人の両方がいた、ということです。

すなわち、同じ株なのに、正反対の動きがなされたということになります。

株価は、需要と供給の双方がなければ成立しません。

買いたい人も売りたい人も、株で儲けたいはずです。それなのに、一方は安いと思って株を買い、一方は高いと考えて同じ株を売るのです。

これは、企業業績等を考慮し、同じ株であったとしても様々な見解を投資家が持つことによるものです。株価が動く要因 (株価材料) としては以下のようなものがあります。

【株価材料】

  • 個々の銘柄(例:トヨタ自動車)に個別に影響を与えるもの=業績、 新製品等
  • ある業種全体(例:自動車業界)に影響を与えるもの=規制、関税、新発明等
  • 複数の業種に横断的に影響を与えるもの(例:輸出関連業種) =為替等
  • 日本の株式市場全体に影響を与えるもの=景気、金利等
  • 世界の株式市場全体に影響を与えるもの=国際金融、グローバルマネーの動き、戦争、感染症、気候変動等

このような株価材料を総合的に判断することで、投資家は株価についての様々な意見を持つようになります。 そのため、株価は成立するのです。

但し、投資家全部が同じように「良い」または「悪い」 と思う材料が出たときは、取引が成立しないこともあります。

また、コロナウィルスの感染拡大のニュースのように多くの投資家が「悪い」という同じ判断をすることもあります。

その場合には、多くの売り注文が出されることになり株価は急落するのです。それでも株価が付く、株の売買が成立するということは、違う考え方をした投資家が存在したことの証左です。

 

空売りについて

空売りとは、現在の株価が高く、今後株価が下落すると投資家が考える場合、手元に保有していない当該株式を、信用取引等を利用して「借りて売る」ことです。空売りは、最初に「売り」を行い、後から「買い」戻すことで、利益を狙うのです。

空売りは「悪いこと」というイメージが一般的です。ヘッジファンドのようなカネの亡者が、会社の株価を売り崩し、儲けていると経営者等から批判されてきたからでしょう。

そもそも株価が高ければ景気が良く、株価が低ければ景気が悪いというように、株式市場は景気のバロメーターとして位置付けられています。すなわち「株は上がることが良いこと」として扱われています。

よって、相場の下落局面では、元凶とみなされる空売りをした投資家が批判されるのです。

しかし、見てきたように株式市場は買主だけで成り立っている訳ではありません。売主がいてこそ取引が成立します。

株式市場に「流動性を供給」することこそ、空売りの社会的意義です。空売りが流動性を供給することで売買が成立するからこそ株価は適正な価格を発見することができます。急激な価格変動が抑制されるのです。

空売りが無い株式市場であれば、投資家は全て株を持っているだけですので、何らかの株価が大きく下がるニュースが出た場合には、いっぺんに売りが殺到することになるでしょう。ところが買い手は限定されていますから、現物株を買うしかできないマーケットでは、一方的に株価が動く可能性が高いのです。
しかし、空売りがある株式市場では、株価下落で儲けることを狙う投資家が存在します。従って、売買が成立する可能性が高くなります。多様な価値観(儲けの狙い)を持った投資家が株式市場に参加するため、株価は一方的な動きをせずボラティリティが低減されるのです。

そして、制度信用取引の場合は、借りた株式は6ヵ月以内に返さなければなりません。もちろん一般信用取引でも、借りた株を返して初めて利益が確定できます。

よって、空売りを行った投資家は、将来的に「買い手」になるのです。

すなわち、空売りは「将来の買い」を約束するのです。

(同様に現物株もしくは信用取引の買いは「将来の売り」です。)

 

まとめ

以上、株価がどのように決まるのかを見てきました。

現在のように株価が暴落するような時には、「売り」から入る空売り投資家は批判を受けることがあります。しかし、株価は買い手のみならず売り手がいなければ決まりません。この点については、しっかりと認識しておく必要があるでしょう。(政治家等は空売りを規制したがりますが、本質的には株価に悪影響を与えます)

株式市場が暴落している時に思い出すべきは、株式市場で取引が成立した、 すなわち 「株価」が付いたということは、同じタイミングで、同じ株に対して「買いたい」と思った人と、「売りたい」と思った人の両方がいた、という事実です。

「誰かは株式を買っていた」のです。

この事実は、株価暴落に巻き込まれた投資家自身を少し冷静にするのではないでしょうか。