学歴がもたらす生涯賃金の差が話題となっています。
実業家の方が「統計で大卒と高卒では生涯賃金差が4600万円」という話に関連してツイッターで発言したようです。
この「大卒と高卒での生涯賃金差が4,600万円」というのは、なかなかに驚く数字ではないでしょうか。大学の学費を払ってでも、大卒という学歴は大事ということになりそうです。
では、そもそもこの生涯賃金差4,600万円というのは正しいのでしょうか。少し確認していくことにしましょう。
生涯賃金4,600万円の元ネタ
筆者が知る限り、生涯賃金が高卒と大卒で4,600万円違うという話は、様々な記事に記載がなされています。
但し、その根拠を示しているのは以下の記事『「学歴なんて関係ない」の真実 生涯賃金これだけ違う』(NIKKEI STYLE)ぐらいだと思われます。
この記事では、厚生労働省の賃金構造基本統計調査、および就労条件総合調査という二つの統計を使って学歴による生涯賃金を推計しています。この推計で、男性の高卒と大卒の生涯賃金が4,600万円とされているのです。高卒男性の生涯賃金は約2億4,000万円であるのに対して、大卒男性の生涯賃金は2億8,650万円と約2割違うと説明されています。
但し、データが2016年の賃金・賞与と2013年の退職金のデータを基にしており、少し古いかもしれません。
ユースフル労働統計
では、学歴別で他にも生涯賃金の差を推計したものはないのでしょうか。
実は、独立行政法人労働政策研究・研修機構のユースフル労働統計というものがあります。この2019年版によれば、男性の生涯賃金では以下のことが分かります。
- 高校卒男性の生涯賃金=2億5,440万円
- 大学・大学院卒男性の生涯賃金=3億2,810万円
- 差額7,370万円
この推計は「学校卒業しただちに就職、60 歳で退職するまでフルタイムの正社員を続け退職金を得て、その後は平均引退年齢までフルタイムの非正社員を続ける場合」を前提にしています。要するに終身雇用を前提とした生涯賃金モデルですが、参考にはなります。
ちなみに大学卒だろうと、企業規模の差によって生涯賃金は大きく変わります。
有名大学卒業者の男性が1,000人以上の企業に就職し、それ以外の大学卒業者の男性が100~999人の従業員数の企業に就職したと仮定しましょう。要は学歴によって就職する企業規模に差が出ると想定します。
- 「有名」大学・大学院卒男性:1,000人以上の企業に就職した場合の生涯賃金=3億1,400万円
- 「普通」大学・大学院卒男性:100~999人の企業に就職した場合の生涯賃金=3億180万円
- 差額7,220万円
同じ大卒だろうと就職する企業規模によって、生涯賃金に大きな差が生まれてきたものと想定されます。
ちなみに女性の場合は、退職金を含めない60歳までの生涯賃金は以下の通りとなっています(上記の男性の推計は退職金が含まれています)。
- 高校卒女性(同一企業勤務)の生涯賃金=1億8,540万円
- 大学卒女性(同一企業勤務)の生涯賃金=2億4,660万円
- 差額6,120万円
女性の場合も、学歴がもたらす生涯賃金の差は4,600万円を優に超えています。退職金を含めると更に生涯賃金の差は開くことになるでしょう。
尚、労働統計要覧(平成30年度)によれば、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の退職給付額は1,983万円であるのに対して、高校卒(管理・事務・技術職)の退職給付額が1,618万円、高校卒(現業職)の退職給付額が1,159万円です。これは男女含めた統計数値ですが、学歴は退職給付額にも影響をもたらしていることになります。
連合・賃金レポート2019
他に参考となる統計では、労働組合の団体である連合が賃金レポートを公表しています。
このレポートによれば、以下の生涯賃金が推計されています。
- 大卒者男性の生涯賃金=2億7,901万円
- 高卒者男性の生涯賃金=2億2,370万円
- 男性の生涯賃金差=5,531万円
- 大卒者女性の生涯賃金=2億3,066万円
- 高卒者女性の生涯賃金=1億7,319万円
- 女性の生涯賃金差=5,747万円
労働組合のレポートでも生涯賃金差は大きくなっています。
この推計は、生涯所定内賃金は入職年齢から 60 歳までの推計値であり、賞与は含まれていますが、退職金は含まれていないものと思われます。
所見
学歴がもたらす生涯賃金の差は、恐らく話題になった4,600万円を超えるものと思われます。
学歴の差が生涯賃金の差をもたらすのは「平均の話」としては、事実でしょう。
但し、現在は、高学歴を得て一流企業に就職することが、高い生涯賃金を約束してくれるとは言えなくなってきています。
終身雇用は幻想となりつつあり、一流企業と言われる企業も存続が約束されている訳ではありません。いつ何時、突然に経営危機に陥るかも分かりません。
過去の統計だけ見て学歴に過度な期待を抱くのも間違いでしょうし、かといって学歴を無視するのも違うようには思います。