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これから急増するかもしれない早期退職募集について確認しておく

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先日、コンビニのファミリーマートが40歳以上の社員を対象に早期退職制度を募集し、全社員の約15%にあたる1,000人超の社員が3月末で退職すると発表しました。割増退職金は総額約150億円です。

現在、日本では大手企業が次々と早期退職の募集を行っています。直近では、アパレル業界であればオンワード、小売業界ならばラオックス、食品ならサッポロ、金融なら三菱UFJモルガンスタンレー証券等が早期退職募集を実施しています。

良く聞く言葉になった早期退職制度ですが、正確に理解している方は意外と少ないかもしれません。 

早期退職制度には主に2つの種類があります。今回はこの早期退職制度のうち、特に希望退職制度について見ていくことにしましょう。

 

希望退職制度とは

早期退職制度のうち希望退職制度とは、企業が事業再構築、すなわちリストラに伴う人件費抑制の目的で、自主的な退職希望者を募る制度を言います。業績悪化等を背景に整理解雇を行うと従業員のモチベーションが下がる等の悪影響があるため、整理解雇を回避し「自主的に」退職者を募るために実施されます。

多くの場合、企業は希望者に対して、通常よりも優遇した退職条件(退職金の増額等)を示すことで、希望者へのインセンティブとします。

尚、「希望」という名の通り、従業員の意思が優先され、法的な拘束力があるものではないため、会社側から退職を強制することは出来ません。ただ、希望退職に伴う退職の場合は、原則として、自己都合ではなく会社都合での退職が成立します。会社都合の退職となると特に失業保険の受給で有利となります。

注意しなければならないのは、希望退職は、従業員が希望したとしても会社側が認めない場合があるということです。すなわち、この人が辞めたならば業務に支障を来すと会社が判断している場合等では、会社が希望退職を断り、有利な条件での退職となるはずだった希望退職が成立しないことがあります。

 

選択定年制度とは

希望退職制度と混同されることが多い早期退職制度が「選択定年制度」です。

希望退職制度が、業績悪化によるリストラを目的に期間限定で行われることが多いのに対し、選択定年制度は、業績に関係なく、組織の人員構成を整えたり、従業員の人生の選択肢を広げる支援のために、会社の人事制度として常時運用されている退職制度です。

大抵の場合は、適用条件として、勤続年数や適用開始年齢の要件が定められています。そして、適用者は、退職一時金や退職年金で優遇を受けることが出来ます。

 

早期退職における優遇

では、早期退職制度ではどのような優遇を従業員個人は受けられるのでしょうか。

例えば、ファミリーマートの早期退職募集(これは希望退職募集でしょう)では1,025名の退職者に対して約150億円の割増退職金が支払われると報道されています。割増退職金だけで一人1,500万円近くとなります(すなわち、元々の退職金があり、それに上乗せされている)ので、かなり優遇されていると思われるでしょう。

では、一般的な早期退職募集における条件はどのようなものなのでしょうか。 

参考となるものとしては、平成28年民間企業の勤務条件制度等調査(民間企業退職給付調査) で、希望退職者への退職一時金の割増率が発表されています。

この割増率は2011年4月~2016年3月までの5年間分の調査となっているため、直近の状況を完全に反映しているとは限りません。しかし、割増率を見る限りは大きなズレはないように思います。

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(出所 平成28年民間企業の勤務条件制度等調査(民間企業退職給付調査) )

以上のように希望退職募集における退職一時金の平均割増率は、45歳で70.9%、50歳で75.0%、55歳で54.6%です。

退職一時金の水準としては、勤続20年以上かつ45歳以上の大卒・大学院卒、管理・事務・技術職の定年退職者の平均は以下の通りとなっています(2018年の就労条件総合調査)。

  • 2018年全体平均 1,983万円
  • 勤続20~24年 1,267万円
  • 勤続25~29年 1,395万円
  • 勤続30~34年 1,794万円
  • 勤続35年以上 2,173万円

この水準は定年退職者の退職給付(退職一時金と退職年金を含んだもの)です。早期退職募集の場合は、会社都合の退職とすることが一般的であるため、定年時の退職給付額が参考になるものと想定出来ます。

全体平均の1,983万円に70%の上乗せがあったとすると1,983万円×70%=1,388万円ですので、ファミリーマートの上乗せ水準とあまり違いが無いこと分かるでしょう。

なお、上記の民間企業退職給付調査では早期退職優遇制度の割増率も発表されています。定義が不明ですが、恐らく「定年選択制」の割増率と思われます。同割増率は以下の通りです。

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(出所 平成28年民間企業の勤務条件制度等調査(民間企業退職給付調査) )

こちらでは、45歳が74.5%、50歳が56.6%、55歳が40.4%の割増率となっています。やはり期間限定でリストラを行いたい希望退職募集の方が、割増率が高くなっており、従業員にとってはインセンティブがある設計となっています。

尚、早期退職優遇制度(恐らく選択定年制)がある企業は多くありません。

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(出所 平成28年民間企業の勤務条件制度等調査(民間企業退職給付調査) )

この表で分かる通り、早期退職者への優遇制度がある企業は全体の1割程度です。但し、従業員1,000以上の企業となると導入率が4割まで上昇します。

2018年の就労条件総合調査によれば、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の退職理由の7.5%が「早期優遇」となっており、早期退職優遇による退職は意外と大きな割合と言えるかもしれません。

 

まとめ

希望退職の募集が勤務している企業でなされ、そしてその対象者の条件に自分が入っていたとしたらショックを受ける方は多いでしょう。筆者も同様だと思います。
自身が希望退職の募集対象に入っていた場合には、会社に対する感情は脇に置き、まずは希望退職の条件を冷静に確認することが大事でしょう。 
確認するポイントは、①割増退職金の相場が他社事例と比べてどうか、②割増退職金が多いとして税金を除いた手取りではどうなのか(通常の退職金部分を年金で受け取ることにして税負担を抑制する等の手法は使えるのか)、です。(もちろん、再就職が可能か、再就職した際の給料水準はどの程度かという観点は重要です。)
ファミリーマートの場合、割増退職金の平均は一人1,500万円でした。この水準は、対象者の月給が50万円だとすると30ヶ月=2.5年分に該当します。
2018年の定年時における退職給付の平均支給額は前述の通り1,983万円、月給換算38.6ヵ月(月給は51.3万円)です。
割増退職金も含めると希望退職に応じた退職者が手に入れる金額は相当なものになります。これは退職所得となり当然ながら税金がかかります。但し、退職所得は税金面で優遇されています。
退職所得控除額は、勤続年数が20年以上か以下かによって控除額の基準が異なります。
  • 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
  • 勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20)

希望退職の対象者は勤続20年を超えていることが多いでしょう。

以下はfreeeのサイトに掲載されていた退職金にかかる所得税(及び復興税)の計算例です。

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(出所 経営ハッカー by freee https://keiei.freee.co.jp/articles/p0200055
退職所得は、通常の給料よりはかなり税務上優遇されています。
もし、希望退職の対象者になったならば、手取りの割増退職金が自身の生活費の何年分かを冷静に計算するところから始めましょう。
それが対応策を作るスタートです。