老後2,000万円問題に代表されるように、高齢者が生活していくことについて話題となっています。また、格差について関心が高まっているのも間違いありません。
2019年初には「年収で890万円〜920万円ないと社会のお荷物という説がある」と解説したタレント・予備校講師のテレビでの発言が炎上したと話題になりました。
今回は改めて、社会のお荷物とされる年収について確認していきたいと思います。
年収890万円の社会のお荷物説について
世帯総収入が890万円を下回るような世帯については、税金や社会保険料の支払いよりも実質的な受給(受益)が多いという説がまことしやかに流布しています。
元々は、以下の記事がそのネタ元のようです。
世帯の総収入が890万~920万円を超えるまでは『受益超過』となります。所得がそれ以下の世帯はいわば『社会のお荷物』です。
年収890万円未満は"社会のお荷物"なのか 近い将来破綻する"美しき日本社会" | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
この記事は感覚的には一定の納得感があったのでしょう。
テレビにも取り上げられる等、話題となりました。
実際の調査
では、本当に世帯総収入が890万円を下回るような世帯は社会のお荷物なのでしょうか。
厚生労働省が実施している調査があります。
年所得再分配調査報告という名の調査ですが、そこにはどのような内容が記載されているでしょうか。
厚生労働省の2017年所得再分配調査報告書には以下のような記載がなされています。
一世带当たりの平均当初所得は429.2万円であり、この当初所得から税金(53.5万円)、社会保険料(58.0万円)を差し引き、社会保障給付(182.3万円)を加えた再分配所得は499.9万円となっている。
これを当初所得に対する比率でみると、社会保障給付は42.5 %.、社会保険料は13.5%であり、差し引き29.0%が一世帯当たり平均で社会保障によってプラスになっている。
これを調査報告により、もう少し細かく見ていくと以下の通りとなります。
- 一世带当たりの平均当初所得は429.2万円
- この平均当初所得から税金(53.5万円、所得の12.5%)、社会保険料(58.0万円、同13.5%)の合計26%を拠出
- 一方で、一世帯当たりの再分配所得は499.9万円(当初所得の+16.5%)
- 社会保障給付として182.3万円、割合で言えば当初所得の42.5%の給付を受けている
- 社会保障給付の内訳は、年金・恩給108.4万円、医療51.4万円、その他22.4万円
- 当初所得が450~500万円の層は、当初所得471.8万円に対して、再分配所得が482.0万となっており受給超過
- 当初所得が500~550万円の層は、当初所得522.5万円に対して再分配所得が512.8万円になっており拠出超過であり、この水準が境目
- 尚、高齢者世带は当初所得100.4万円、再分配所得365.4 万円
- 母子世帯は当初所得236.7万円、再分配所得285.1万円
以上のように世帯総収入で考えた時には、500万円が一つのメルクマールになるものと思われます。
所見
筆者は、世帯総収入が890万円を下回るような世帯については、税金や社会保険料の支払いよりも実質的な受給(受益)が多いという説に与しません。
上記の調査のように、世帯総収入500万円が一つの分水嶺となっているものと思います。
少なくとも890万円程度以下の収入の世帯が社会のお荷物となっているとの事実は認められません。
そもそも、ほとんどの「現役世代の世帯」は税金、社会保険料の支払を通じて社会に貢献しています。そして、国の宝であるはずの子育てによって一時的に受給超過になったとしても、それは社会のお荷物と言えるでしょうか。
また、母子世帯は当初所得と再分配所得の差が50万円となっています。母子世帯が優遇され過ぎてはいないと言えるのではないでしょうか。
将来の納税者を育てるという観点で再分配の額・率が正しい水準か(より再分配を強化すべきか)は、継続的に確認していく必要があるでしょう。
高齢者世帯への所得再分配については、年金制度の持続性という観点から様々な議論はあるでしょう。しかし、年金の受給者は消費者でもあります。短絡な議論ではなく、社会の安定のために何が最善かを考えていく必要があります。