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新型コロナウイルス感染拡大に伴う株価下落は投資のチャンスとなる可能性も

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新型コロナウイルスによる肺炎が大きな話題となっています。感染拡大による影響を懸念し、株価も下落しています。

この新型コロナウイルスによる日本経済への短期的な影響について、 今回は考察してみましょう。

 

短期的な影響

新型コロナウイルスの感染拡大に対して、中国政府が1月27日から海外への団体旅行を禁止し、加えて1月30日までの予定だった春節の大型連休を2月2日まで延長しました。

上海市では、市内の企業を2月9日まで休業させる措置も発表されています。

このような状況において、日本経済へはどのような影響が想定されるのでしょうか。

第一に、インバウンド消費への影響が懸念されます。

2019年の訪日中国人旅行客数は959 万人とされており、来日する外国人旅行者全体の約3割となっています。中国政府は中国人旅行客全体の約4割を占める団体旅行およびパッケージツアーを1月27日より停止しました。

中国旅行客1人あたりの日本での旅行支出(買い物代、宿泊費、 飲食費等の合計)は約 21万円です。

また、観光庁が2020年1月17日に発表した2019年の訪日外国人の消費額は4兆8,113億円です。このうち、中国人旅行客は1兆7,718億円と全体の36.8%を占めます。

この中国人旅行客が、3か月間で4割減少した場合には、1兆7,718億円×▲4割×3/12=▲1,771 億円となります。

中国人旅行客の春節におけるインバウンド消費額は他の時期よりも大きいことが想定されますので、実際にはさらに多額の経済損失が発生するでしょう。

尚、2019年の中国人旅行客による消費額は以下の割合となっています。

  • 買い物代 9,366億円(全体の53%)
  • 宿泊費 3,627億円(20%)
  • 飲食代 2,955億円(17%)
  • 交通費 1,225億円(7%)
  • 娯楽系サービス 542億円(3%)

よって、中国人旅行客のインバウンド消費としては、上記のような割合で影響があるものと想定されます。

 

次に、武漢市に進出している日本企業への影響も懸念されます。

帝国データバンクによると、武漢市に進出する企業のうち、業種別で最も多いのは「製造業」の92 社(構成比46%)。次いで「卸売業」(38 社、同 19%)、「サービス業」(28 社、同14%)です。

業種をより細かく分類した細分類別では、「自動車部分品等製造」が 23 社(構成比12%)で最も多く、次いで「受託開発ソフトウェア業」(8社、同4%)、持株会社などの「投資業」、「自動車駆動等装置製造」(7社、同4%)、「金属プレス製品製造」(6 社、同 3.0%) となっています。

武漢市は中国有数の自動車工業都市であることから、自動車生産に関連する業種が上位を占めています。

武漢と周辺都市は中国における自動車産業の集積地の一つであり、 2017 年の生産台数は190 万台と中国の全国生産量の6.5%を占めています。

春節の時期は工場が停止するのが一般的ですので、 現時点で生産への影響は限定的でしょうが、 新型コロナウイルスの影響が長引けば自動車生産へもマイナスの影響が及ぶものと思われます。

 

そして、事態の収拾が長引けば、中国国内での消費・生産といった活動が抑制されて、日本の輸出や生産、企業収益への影響が懸念されるでしょう。例えば、既にユニクロが中国での休業店舗を100店に拡大したとの報道もされています。中国に進出している小売業への影響は避けられないかもしれません。

 

所見

新型コロナウイルスの感染拡大については、あまりにも悲観的になるのは禁物です。

前述のインバウンド消費における経済損失の試算である▲1,771 億円は、日本のGDPの0.03%です。 これは日本の経済にとって致命的なものになるとはさすがに言えない水準です。

新型コロナウイルスの感染拡大については、悲観的になりすぎず、冷静な目で判断する必要があるのではないでしょうか。
例えば、株式投資においては、もしかすると買い場となるかもしれません。

但し、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際には、日経平均は5か月で約14%下落しています。留意しておいた方が良いでしょう。