銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

温暖化による海面上昇は不動産に影響を与えるという無視できない議論

f:id:naoto0211:20190920190837j:image

地球温暖化による海面上昇が不動産にもたらすリスクが改めて注目され始めています。

現在、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が開催されており、公表される報告書の内容が報道されていることも要因です。

今回は、地球温暖化による海面上昇について改めて確認しましょう。

 

報道内容

まず、近時の報道について確認しておきます。以下は日経新聞からの引用です。 

[FT]海面上昇が不動産にもたらすリスクに注目を
2019/09/19  日経新聞

 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のニューズレター「モラル・マネー」9月18日号では、気候変動の議論のなかで、ミクロ経済面のリスクが軽視されている点について論じた。

(中略)
 ジュピターの調査は、ハリケーンや津波などメディアが大々的に取り上げるような大災害は、気候変動がもたらす悪影響のほんの一部でしかないことを警告している。より大きな問題は、継続的な海面上昇によってもたらされる。時間の経過とともに、多くの不動産が常に浸水の危険にさらされるようになるからだ。
 ジュピターの試算によると、約30センチの床上浸水を2年に一度経験する物件数は、2019年には10万件のうち5290件にすぎないが、50年には8350件に増加する。こうした物件のオーナーが抱える経済損失は、現在の10億ドル(約1080億円)から40年には20億ドルに上昇する。50年にはほぼ30億ドルに達するという。もちろん、こうした負担は家の持ち主だけでまかなえるはずもなく、保険会社の経営にも影響を与えることになる。
 これは難しい数式を駆使した試算のひとつにすぎないが、重要な疑問を投げかけている。人々は自分の住む住宅にこうしたリスクが潜んでいるということをきちんと理解しているのだろうか。住宅ローン会社や保険業者はどうだろうか。米連邦緊急事態管理局(FEMA)はどうだろうか。

(以下略)

もう一つ記事を引用します。 

海面上昇、最大1メートル超 国連報告案
2019/09/18 日経新聞 
 地球温暖化がもたらす影響について国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめる報告書の原案が判明した。温暖化ガスの排出削減が進まないと、北極の氷が解けるなどして今世紀末までに海面が最大1メートルを超えて上昇すると予測した。高潮や洪水によって世界の10億人が危機にさらされ、2億8000万人以上が家を失う。
 影響は世界の科学者が最新の研究にもとづいて分析し、報告書にまとめる。原案は各国政府にインフラ整備や防災対策の強化を迫る内容で、温暖化のリスクが改めて浮き彫りになった。IPCCは20日からモナコで総会を開き、25日に報告書の詳細を公表する。
 IPCCではこれまでも温暖化によって80センチメートル程度の海面上昇があると分析していた。北極の氷床や陸地の氷が解ける速度が速まる兆候があり、原案では上昇幅を大きく見積もり、影響が深刻になるとの見解を示した。
 水没を恐れる島しょ国の脅威となるほか、沿岸部の大都市にも甚大な被害をもたらす。台風やハリケーンなどで陸地に海水が押し寄せ、広い範囲が浸水する危険が高まるためだ。

(以下略)

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が報告書を公表すれば、さらに海面上昇についての議論が深まるものと思われます。

 

日本における影響

では、今世紀末までとはいえ海面が1m上昇すると日本にはどのような影響を及ぼすのでしょうか。

以下が分かりやすいでしょう。

海面が1m上昇すると大阪では、北西部から堺市にかけて海岸線は、ほぼ水没します。東京でも、堤防などを高くするなどの対策をとらなければ、江東区、墨田区、江戸川区、葛飾区のほぼ全域が影響を受けます。

(出所 全国地球温暖化防止活動推進センターhttps://www.jccca.org/faq/faq01_06.html

少し古いですが環境省のCOP3に関連するWebサイトでは以下の記述があります。

【東京の満潮水位以下の低地の分布】  
 日本の首都東京は、世界でも類をみないほど人口や資産が集積した巨大都市です。加えて、23区の東半分は下町低地と呼ばれており、土地が満潮位より低いために、昔から災害に弱い面があります。地球温暖化により海面が上昇し、さらに台風の勢力が増大すると、高潮などの災害に対してさらに弱くなることが予想されます。
 この図は、現在の満潮面以下の区域と、1mの海面上昇によりあらたに満潮面以下になる区域を示しています。 

f:id:naoto0211:20190921094404g:plain

【海面上昇の影響を受ける日本の低地の面積、人口、資産】
 地球温暖化により海面が上昇すると、たとえ30cmの上昇でも満潮位以下の低い土地は4割増え、そこに住む人口は5割も増えます。1m上昇すれば、さらに多大な面積、人口、資産が危険にさらされます。堤防などを築いてこれを守ろうとすれば、大変な資金がかかることになります。

f:id:naoto0211:20190921094532g:plain

(出所 環境省Webサイトhttp://www.env.go.jp/earth/cop3/ondan/eikyou4.html

以下は東京の高低を表した地図です。東京は台地と低地にはっきりと分かれていることが分かります。

また湾岸の埋め立て地が現在は人気ですが、当然ながら海抜は低いということを認識しておかなければなりません。

f:id:naoto0211:20190921132037p:plain(出所  TokyoRentコラム https://tokyorent.jp/column/46/

 

温暖化による海面上昇は「事実」なのか

日本では海面が上昇した場合、何ら対策をしないのであれば、大きな影響が出る可能性があることは間違いありません。

一方で、温暖化による海面上昇は事実なのでしょうか。ニュースでは北極の氷が溶ける様子等が報道され、温暖化対策は待ったなしの様相とされます。

この点については、以下の記述が参考になるでしょう。

日本沿岸の海面水位は、1980年代以降、上昇傾向が見られます。1906~2018年の期間では上昇傾向は見られません。また、全期間を通して10年から20年周期の変動(十年規模の変動)があります。

f:id:naoto0211:20190921133656p:plain

2018年の日本沿岸の海面水位は、平年値(1981~2010年平均)と比べて44mm高い値でした。
また、1960~2018年までの海面水位の変化を海域別に見た場合、北陸~九州の東シナ海側で他の海域に比べて大きな上昇傾向がみられます。

十年規模の変動については、主に北太平洋の偏西風の強弱や南北移動を原因としていることが数値モデルを用いた解析により明らかになっています。 また、海面水位の変動と表層水温の変動には良い対応がみられ、特に南西諸島で良く一致しています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)第5次評価報告書(2013年)は 「世界平均海面水位の平均上昇率は、1901~2010年の期間で1年あたり1.7[1.5~1.9]mm、1971~2010年の期間で1年あたり2.0[1.7~2.3]mm、1993~2010年の期間で1年あたり3.2[2.8~3.6]mmであった可能性が非常に高い。」としています。
IPCC第5次評価報告書とほぼ同じ期間で日本沿岸の海面水位の変化を求めると、1906~2010年の期間では明瞭な上昇傾向は見られませんでした。一方、1971~2010年の期間で1年あたり1.1[0.6~1.6]mmの割合で上昇し、1993~2010年の期間で1年あたり2.8[1.3~4.3]mmの割合で上昇しました。近年だけで見ると、日本沿岸の海面水位の上昇率は、世界平均の海面水位の上昇率と同程度になっています。
ただし、日本沿岸の海面水位は、地球温暖化のほか地盤変動や海洋の十年規模の変動など様々な要因で変動しているため、地球温暖化の影響がどの程度現れているのかは明らかではありません。地球温暖化に伴う海面水位の上昇を検出するためには、地盤変動の影響も含めて引き続き監視が必要です。

(出所 日本沿岸の海面水位の長期変化傾向/2019年2月15日発表/気象庁地球環境・海洋部 http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/a_1/sl_trend/sl_trend.html

上記にある通り、少なくとも日本において地球温暖化によって海面上昇が発生しているかは不明と言わざるを得ません。周期的な要因である可能性も排除できないためです。これは報道や雰囲気に流されないためにも押さえておくべきポイントでしょう。

但し、筆者は様々な文献を読んだ結果、これだけ多数の科学者が警鐘を鳴らしているのであるから、地球温暖化は発生している可能性が極めて高いと認識しています(地球温暖化が発生していなければラッキーという心構えです)。

 

所見

報道によれば、今世紀末、すなわち残り80年程度で地球の海面が1m上昇する可能性があります。海面が上昇することは、当然に大きな問題です。

不動産価格という観点では、人が居住する地域が最も問題となりますが、他にも海岸の砂浜が侵食されることによる生態系への影響等、様々なことが想定されます。

長期間に渡っての海面上昇では、台風、高潮での被害の発生確率は確実に上昇するでしょう。その被害が発生するのは、間違いなく低地=海抜の低い土地です。

筆者は、東京で不動産を購入する際には、中長期的なリスクも考えると、副都心4区(渋谷、新宿、豊島、文京)や23区西部(品川、目黒、大田、世田谷、杉並、練馬、板橋、北)の海抜が高い地域が良いのだろうと思います。

今は、低地の方が手ごろな価格、かつ新築マンションが多いこともあり人気となっている感がありますが、災害が来た場合には取り返しがつきません。

そして、この観点は銀行の住宅ローン審査やアパートローン審査にも中長期的には影響(導入)する可能性が高いと思います。不動産価値に「海抜もしくは温暖化による海面上昇」の影響が顕在化してくる未来が予想されるのです。

不動産は「立地が全て」と言われます。この立地の判断に、海抜が今以上に影響してくるものと筆者は考えています。