銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

気候変動に対する日本の立ち位置を冷静に見つめる

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我々は地球温暖化に真剣に対峙していこうとしている時代に生きています。

ロシアがウクライナに侵略し、一時的には化石燃料の削減が停滞する可能性はあります。但し、それでも脱炭素の流れは簡単には変わらないでしょう。

このような時代において、日本国はどのような温暖化対策を取っていくべきなのでしょうか。

今回は、日本銀行が分かりやすい資料を公表しているので、その資料からデータを引用しながら、日本の状況について簡単に確認していこうと思います。

 

長期的に見た脱炭素の動向

最初に日本国の長期的な脱炭素の動向を確認していきましょう。

読者の皆さんは日本という国は、省エネが進んだ国とお考えではないでしょうか。

以下のグラフをご覧ください。

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(出所 日本銀行「脱炭素社会への移行過程におけるわが国経済の課題:論点整理(概要)」)

まず、このグラフにおける「エネルギー消費原単位」とは、1単位の実質GDPを生み出すのに用いるエネルギー量であり「省エネ」の指標と言えます。例えば、工場におけるエネルギー効率の高い生産設備の導入がなされると改善するような指標です。

次に、「CO2排出原単位」は、1単位のエネルギーを生み出すのに排出するCO2であり、「エネルギー源の脱炭素度合い(炭素集約度)」の指標と言えます。例えば、火力発電から再生可能エネルギー発電へ電源を移行していくと改善します。

最初のグラフにあるように、日本の「GDP当たりのCO2排出量」は、1990年頃にかけて米欧対比で削減が進展していましたが、1990年代に入ると削減ペースは停滞しました。そして、2000年代以降は欧州各国に抜かれ、足もとではもともと同比率が高かった米国にも迫られているのが現状です。

この要因を探ると、真ん中のグラフにあるように、「エネルギー消費原単位」は、1990年頃まで改善傾向を辿った後、2000年代半ばにかけて改善が 服したが、このところ再度改善基調にあり、欧州各国の追随を許してはいるものの、足もとで大きな差が生じているわけではありません。すなわち、エネルギー消費原単位=省エネの指標においては日本はまだ優秀な状況にあります。

問題は、CO2排出原単位にあります。最も右端のグラフをご覧下さい。「CO2排出原単位」は、1990年頃にかけて改善した後、2000年代半ばにかけて停滞し、2011年の東日本大震災以降は、原子力発電所の稼働停止とそれに伴う火力発電の増加を主因に水準を大幅に切り上げており、米欧各国対比で高止まりが目立ちます。

日本国は、我々の意識の中に省エネの国、エネルギー効率の高い国との思いが強いかもしれません。

確かに省エネの国ではあるのですが、発電という観点で日本は火力に頼るようになり、世界の国から見れば、日本は「GDP当たりのCO2排出量」で特に優秀な国ではない、すなわち温暖化ガスを多く排出している国なのです。

 

将来動向

日本は、他国と比較して温暖化対策に優秀とは言えないことを上記で述べました。

すなわち、日本は国として脱炭素を進めていかなければ他国から非難される可能性があるということです。

そのため、日本は温暖化ガスの排出削減を表明しています。2030年度に向けたCO2排出量の削減目標(2013年度対比で-45%削減)は、徹底した省エネによる「エネルギー消費原単位」の改善継続と、原子力発電所の再稼働や再生可能エネルギーの拡大などによる「CO2排出原単位」の急ピッチな改善が鍵となっています。

以下のグラフをご覧ください。

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(出所 日本銀行「脱炭素社会への移行過程におけるわが国経済の課題:論点整理(概要)」)

左のグラフにある通り、実質GDPを拡大させながら排出量を削減する必要があります。

この場合、省エネの継続は、容易な課題ではないものの、2000年代半ば以降の改善トレンドから大きく外れていません。

一方で、エネルギー源の脱炭素化のペースは、東日本大震災後の局面はもちろん、それ以前と比較しても類例をみない速度となっています。日本は、エネルギー源の脱炭素化を何としても進めていかなければならないということになります。

 

電源の脱炭素化

日本は以下のグラフの通り電源構成は火力に偏った状況にあります。東日本大震災後は、原子力はほとんど稼働が止まってしまいました。

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 (出所 日本銀行「脱炭素社会への移行過程におけるわが国経済の課題:論点整理(概要)」)

国の「エネルギー基本計画」では、2030年度に向けた電源の脱炭素化を、原子力発電所が再稼働するもとで、再生可能エネルギーの拡大(当面の主軸は太陽光発電)、火力発電の低炭素化(LNG比率上昇)、によって実現する計画としています。

脱炭素化のためには原子力発電所を再稼働させていくのは基本路線なのです。そして、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーでの発電で更に火力発電の割合を低下させることになります。

ここで留意点があります。

国の「エネルギー基本計画」では、太陽光発電などの発電コストが緩やかに低下していくこと、LNGなどの化石燃料価格が国際機関による予測に沿って、安定して推移していくことを前提としています。

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 (出所 日本銀行「脱炭素社会への移行過程におけるわが国経済の課題:論点整理(概要)」)

ロシアのウクライナ侵略はこの前提を脅かしかねません。この点は留意が必要です。

 

まとめ

今回は簡単に気候変動・脱炭素化に向けた日本の立ち位置を確認しました。

日本は脱炭素のフロントランナーではなく、電源構成をしっかりと考えていかないといけないことが分かったのではないでしょうか。あくまで私見ですが、中期的に見れば(そして大幅な技術革新が無ければ)、日本は原子力発電の割合を増やす以外に選択肢がありません。化石燃料を使って発電を続けることは他国からの非難を浴びる可能性が高く、エネルギー安全保障上の観点からも原子力発電を使う必要があるでしょう。

そして、以下の通り日本は既に太陽光発電では以下のように、諸外国対比ですでに相当程度の土地活用が進んでいます。

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 (出所 日本銀行「脱炭素社会への移行過程におけるわが国経済の課題:論点整理(概要)」)

このように土地活用が進んでいる中では、太陽光発電の適地減少に伴い、今後も太陽光発電所の建設を進めようとすると、建設コストが上昇する可能性があります。

日本銀行は、「CO2排出原単位の削減」、すなわち電源構成を変化させることが、少なくとも過去においては、生産性にマイナスの影響を及ぼしてきたとしています。この点については、「過去のCO2排出削減投資は、規制対応やエネルギー源の多様化のために支払われたコストとしての性格が強く、そうした経済効率性が十分ではない投資の拡大が長い目でみた生産性、成長率にマイナスの影響を及ぼした可能性がある。」と解説しています。この観点も意識しながら、日本は今後の気候変動対策・脱炭素化を乗り切っていく必要があるのです。

我々はエネルギー、電源という観点で非常に難しい時代をこれからしばらく生きていくことになりそうです。