東証1部上場でアパート開発・管理を手掛けるTATERUが2019年第一四半期決算を発表しました。
TATERUは、2018年8月に従業員が顧客から提供を受けた融資関連書類を改ざんしていたことが発覚し、主力のアパートメント事業の受注が大幅に悪化し、金融機関の信用回復のために本格的な営業を自粛しているとしています。
そのため、当該決算では大幅な赤字を計上しています。
TATERUの資金繰りは問題ないのでしょうか。今回は、業績不振に陥った不動産企業の典型であるようなTATERUの決算・動向について見ていきましょう。
業績概要
まずはTATERUの業績概要を確認しましょう。日経新聞の記事を引用します。
TATERUの1~3月、最終赤字60億円 今期無配に
2019/05/13 日経新聞
アパート開発のTATERUが13日発表した2019年1~3月期の連結決算は、最終損益が60億円の赤字(前年同期は4億3300万円の黒字)だった。18年8月末に社員が顧客の資料を改ざんしていたことが発覚して顧客からの発注取り消しが増加。販売用不動産売却に伴う損失約32億円も発生した。19年12月期の配当予想を無配とし、株主優待の廃止も発表した。
売上高は前年同期比68%減の46億円だった。既存顧客の解約手続き対応などに追われ、新規の契約が大幅に減少。営業損益は47億円の赤字(前年同期は6億7300万円の黒字)だった。
現時点で新規の営業活動再開のメドはたっていない。19年12月期の連結業績予想は「損益の合理的な予測が困難」(TATERU)なため非開示としている。
売上高が約7割減少し、売上高以上の最終赤字となっていることが分かります。
この数字だけを見れば経営危機そのものと言えるでしょう。
では、もう少し詳細にTATERUの業績・資金繰りについて確認しましょう。
業績・資金繰り
TATERUの2019年1Q業績は、売上高4,663百万円(前年同期比▲68.2%)、営業利益▲4,704百万円(赤字転落)、経常利益▲4,893百万円(赤字転落)、当期利益▲6,045百万円(赤字転落)となっています。
ただし、純資産が168億円ありますので、大幅な赤字となっていても自己資本には余裕があります。
これは同社が2018年5月に公募増資により131億円を調達していたからです。この増資が無かったならば同社は債務超過に転落していた可能性があります。
TATERUに現在起きたことは、アパートメント事業でキャンセル、クラウドファンディング事業でもファンド組成の中止が発生し、自社で抱えるはずではなかった不動産を販売用不動産等として抱えざるを得なくなったということです。本来は顧客に売るはずだった不動産が売れなくなり、自社で保有しているのです。不動産業のうち特に転売を行う企業に典型的な状況(TATERUは開発を行ってから売却していますが)といえます。
TATERUは2018年12月末時点では120億円の現預金を保有しており、2019年3月時点でも98億円の現預金水準となっています。60億円の最終赤字となったことに比べると現預金の減少ペースが低いとお感じになる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、TATERUの決算を見ていくと、同社の資金繰りはかなり厳しいことが分かります。
まず投資有価証券が10億円減少しており、投資有価証券を現預金に変えたことが分かります。さらに、短期借入金が42億円増加しています(長期借入金に大きな変動はありません)。
すなわち単純に言えば、投資有価証券10億円(売却金額を10億円と仮定します)と短期借入42億円の合計52億円の現預金を確保したにもかかわらず、3月末時点の現預金は22億円減少しているのです。単純に試算すれば74億円(52+22)の現預金が流出したことになります。
このペースで現預金、すなわちキャッシュが外部流出した場合にはTATERUの企業としての存続は短期的にも厳しくなります。
そして、TATERUの販管費は3ヶ月で約20億円あり、これが固定費であると仮定すると、営業ができず現預金が減り続けると1年内に資金繰りに行き詰まります。
これがTATERUの現状なのです。
TATERUの対策と所見
このような資金繰り状況を受けてTATERUはどのような動きをしているのでしょうか。
まず、傘下企業の株式を12億円で売却することを発表しました(これは実行直前になって延期されていますが、どこかのタイミングでは実現されるでしょう)。
次に、保有する不動産を一括で売却することを発表しました。2019年1Q決算の赤字のうち約32億円は、この売却損です。
「売却価格は当社の直前の連結会計年度(2018 年 12 月期)における連結売上高の 10%に相当する額以上」と発表していますので売却金額は79億円以上(2018年12月期売上高は791億円)と想定されます。
そして、TATERUの2019年3月末時点の販売用不動産(仕掛含む)は113億円です。
TATERUは自社が保有する販売用不動産のほとんどを売却して現預金に変えようとしていると想定できます。
これは、売却金額79億円(想定)+32億円(売却損失)=111億円でありバランスシート上の113億円に近い金額となるためです。
TATERUは不動産の売却を条件に金融機関から前述の短期借入42億円を借りたのでしょう。短期借入は早期に返済されるものと想定されます。
TATERUの現預金は2019年3月末時点で98億円です。これに有価証券売却12億円と物件売却79億円程度を加えて、短期借入金42億円を減少させると、TATERUの足元における現預金水準(見込)は147億円と想定されます。
TATERUは3ヶ月で20億円程度の費用が発生していますので年間100億円が固定費として出ていくものと仮定すると、収入が全くなかったとしても1年超はTATERUの存続はできそうということが想定できます。
TATERUの資金繰りは、本業が立ち直らない限りいつかは破綻する可能性が高いでしょう。早期の営業再開、顧客獲得が出来るかが企業存続のポイントとなるのです。