「お金持ちは不動産を買う」というイメージがあるのではないでしょうか。
不動産は単純に儲かる可能性が高いということなのでしょうか。不動産は投資額が大きくなるため、お金持ちにとっては効率が良いのでしょうか。
今回は「なぜお金持ちが不動産を買うのか」について簡単に考えてみましょう。
不動産を買う理由(融資・不労所得)
お金持ちが不動産を買う理由の一つが、不動産こそが「日本で最も融資を引き出しやすい投資商品」であることです。
例えば、新規の事業を構想し、実際に融資を引き出そうとすると、銀行に対して事業計画を説明しなくてはなりません。しかし、銀行は簡単に事業計画を評価してくれることはありません。そもそも銀行に「事業」を評価できるような人材はほとんど存在しません。すなわち、事業を起こそうとしても簡単に借り入れはできません。
株式投資は、信用取引という形で実質的な融資を受けることはできます(様々な制限はあります)。ただし、銀行から融資を引き出して株式投資に充てることは無理でしょう。銀行は株式投資目的の資金を融資しません。
ところが、不動産は、ある程度の自己資金は必要ですが、融資を引き出すことができます。その理由は、不動産に対する評価能力がほとんどの銀行に備わっていること、そして銀行融資の担保となることです。
「購入する投資商品を担保に」多額の融資を引き出せるのは、日本では不動産以外にはないのではないでしょうか。
スルガ銀行のシェアハウス融資問題が最終的な引き金となって、銀行は不動産融資の取組目線を厳しくしています。
しかし、それでもお金持ちに対する不動産融資は簡単には減少しないでしょう。銀行は不動産ならば何とか評価できます(もしくは評価している気になっているだけかもしれませんが)。そして特に地方銀行であれば、他に貸出ができる先もありません。お金持ち=借入人も不動産ならば余計な事業説明等が必要ありません。双方にとってメリットはあるのです。
不動産投資は、レバレッジ(=借入によって投資総額を膨らませる)が掛けられ、立地等が良ければ安定的な収益も期待できます。
そして、不動産投資は自身が働かずとも収入を得られる不労所得です。「お金がお金を生んでくれる」典型的な投資商品なのです。低金利下の日本においては良い選択肢でしょう。
そのため、お金持ちは不動産を買うのです。
不動産を買う理由(相続対策)
お金持ちが不動産を買う理由には、相続対策という観点もあります。自分の配偶者や子供に迷惑を掛けたくないと考えるのです。
収益不動産購入による相続対策は、一言でいえば不動産の取引価格(時価)と相続税評価との違いに着目した対策のことです。
相続税は相続税評価額を基に計算されます。
現預金や株式のような有価証券は、時価で相続税の評価をされてしまいます。
しかしながら、不動産の相続税評価額は国税庁の定める路線価(一般的には時価とされる公示価格の80%程度とされています)等により算定され、一般的に取引価格(時価)よりも低くなります。
そして、不動産を他人に賃貸するとさらに相続税評価額が減額となります。
ちなみに目安ではありますが、賃貸不動産の場合は、土地の相続税評価額は時価の58~72%、建物の相続税評価額は時価の35~42%程度に減額されます。
これは現金や株式で相続者に残すよりも非常に有利だといえます。
相続対策では時価と相続税評価額の差が大きいほど相続税評価額の圧縮効果が出ます。そのためタワーマンション節税が人気となったのです。
タワーマンションは上の階に行くほど売買金額が上昇します。ところが相続税評価額は高層階と低層階とは以前は変わりませんでしたし、今も大きくは変わりません(国税庁が問題視して手当てがなされてはいます)。よって、時価と相続税評価額の差がもっとも大きく出るだけでなく、売却しようとしたときに(人気があるため)買い手が付きやすいタワーマンションを節税に使うことが流行したのです。
以下は参考として相続税評価額の算出式を掲載します。
<土地の相続税評価額>
土地の相続税評価額=路線価 × 補正率 × (1-借地権割合 × 借地家割合)
この(1-借地権割合 × 借地家割合)は不動産を賃貸することによる減価です。
この計算式により、概ね時価の58~72%以下に減額されます。この借地権割合は国税庁が概ね同一と認められる地域ごとに定めており、路線価図および評価倍率表の各路線または地域ごとに記載されています。借地家割合は国税局長が定める割合とされています。
<建物の相続税評価額>
建物の相続税評価額=固定資産税評価額 × (1-借家割合)
固定資産税評価額は時価=公示価格の50~60%程度となります。
そのため計算してみると、建物は時価の35~42%以下に減額されるのです。
具体的なシミュレーションをしてみましょう。2億円の不動産を購入する場合を例にとってみます。
- 土地=時価1億2,000万円、建物=時価8,000万円を購入
- 土地を自分で使用している場合の相続税評価額は時価の80%と仮定
- 建物の固定資産税評価額は時価の60%と仮定
- 借地権割合=60%、借家権割合=30%、賃貸割合=100%
- 相続税評価額=2億円
- 土地(貸家建付地評価)=7,872万円
- 建物(貸家評価)=3,360万円
- 相続税評価額合計=1億1,232万円
<相続税シミュレーション>
- 相続開始の際に2億円が現金だった場合は、2億円×40%-1,700万円(※)=6,300万円が相続税
- 収益不動産を購入し1億1,232万円の相続税評価額まで減額されると、1億1,232万円×30%-700万円(※)=2,670万円の相続税
- したがって、現金のまま保有するのと収益不動産に資金を変えるのとでは、相続税で3,630万円の納税額に差が出る
※上記試算の相続税の税率および控除額は以下の国税庁のホームページを参照しています。
まとめ
お金持ちが不動産を買う理由は上記以外にもあります。
一般的には、減価償却や経費算入による節税、資産の分散、インフレ対策、キャピタルゲイン(値上がり益)狙いも挙げられるでしょう。
しかし、今の日本において「お金持ち」が不動産を買う主な理由は、「レバレッジ+不労所得」と「相続税対策」ではないでしょうか。
不動産は魅力的な投資商品です。立地さえ良ければ、かなり安定的な運用資産となります。そして様々な税の恩恵を受けられます。不動産は(本来であれば)大きな収益を上げる商品ではありません。例えば、物件の利回りが5%だとすると、1億円で年間5百万円です。リスクを取る割には収益性は低いと考える方もいるでしょう。相応に高い収益を見込める転売や地上げは個人で投資として行うにはリスクもあり難易度も高く、お金持ちの運用としては取組が難しいでしょう。
お金持ちが実践する不動産投資は、お金持ちが更にお金持ちになるというよりは、「お金を減らさない」投資商品と言えるのかもしれません。