銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

送金業務は簡単には銀行から無くならないという残念な予想

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規制緩和や新技術の開発・普及により、銀行の機能は次々とフィンテック企業等が代替するとの予想があります。

日本でも送金業務につき銀行以外への規制緩和が段階的に進んできましたが、さらに緩和されると報道されています。

今回は、銀行から送金業務が無くなっていくのかについて、簡単に考察しましょう。

 

報道内容

まずはどのような報道がなされているかを確認しましょう。

銀行以外への送金業務拡大 手数料引き下げ期待
2019/4/16 共同通信社

 政府が銀行以外の事業者に100万円超の送金業務を認める方針を固めたことが16日分かった。来年の通常国会にも改正法案を提出する方針。金融とITが融合したフィンテックの進化で銀行業への垣根は低くなっており、LINE(ライン)や「ペイペイ」(東京)といった新興企業の参入が見込まれる。競争激化で手数料の引き下げが期待できそうだ。
 京都大学公共政策大学院の岩下直行教授は、銀行以外が送金業務を担うのは技術的には可能だと指摘し「セキュリティーがしっかりした事業者が安くていいサービスを提供できれば消費者の利益になる」と話している。

 

送金業務における業者側のメリット・デメリット

送金業務については、規制緩和によりフィンテック企業が国内でも台頭し、銀行は業務の縮小を迫られるとの見方があります。

確かに送金毎にかなりの手数料を取られるため、銀行の送金業務には利用者の不満があるのは間違いないでしょう。個人間の送金であれば、LINE等がスタンダードとなる可能性もあります。

しかし、送金の大半を占める企業間では、銀行からフィンテック企業への移行は簡単には進まないと筆者は考えています。

これは、ユーザー側の要因もありますが、フィンテック企業側も送金業務に参入するメリットが少ないものと思われるためです。

そもそも、マイナス金利政策が導入されている日本においては、お金を集めるだけでは儲かりません。金利が相応にある時代ならば、送金のための資金を集めておいて、(金融機関と保全契約を締結した上で)送金が発生するまでの間にマーケット(国債等)で運用しておけば収益が稼げたかもしれません。しかし、今はマーケットでの運用では収益が上がりません。

さらに、現在の資金移動業=送金業務では、顧客からの預り金=未送金分については100%の保全・供託が必要です。運用でも儲からず、そもそも保全しておかなければならないため、普通に考えると、送金業務に伴う手数料をユーザーから貰わなければ成り立ちません。

特に国内での送金業務に面白味はないでしょう。

海外送金については、比較的厚いマージンを邦銀が維持しているため、まだ可能性はあります。

しかし、マネーロンダリングおよびテロ対策等が全世界で要請されるようになってきている中、顧客確認(KYC=Know Your Customer)の徹底をどのように行うかという問題が出てきます。

現在は銀行口座やクレジットカードに紐付けて顧客確認がなされていますが、銀行と送金業者(=資金移動業者)との競争に公平性を保つ観点からも、送金業者が独自に顧客確認を行う必要がこれからは出てくるのではないでしょうか。そうすると利用の簡易さや利便性が損なわれます。送金業者は顧客確認のための事務負担も覚悟しなければなりません。
実際には規模に勝る海外企業が独占するのではないでしょうか。

以上見てきたように、送金業務に「旨み」はあるのでしょうか。

少なくとも手数料だけで言えば送金業務は儲からない業務となりそうです。

では、データを活用するビジネスはどうでしょうか。すなわちデータを集めてそのデータを活用してビジネスを行う、もしくはデータを加工して第三者に販売するビジネスです。

このビジネスについてはどれだけのデータを集められるかにかかっていると言えます。収益に貢献するかは未知数でしょう。

 

利用者側のメリット・デメリット

送金の費用が単純に安くなることは、利用者にとってメリットがあります。

銀行の重厚なシステムではなく、より費用が安くセキュリティを保てる送金システム・ネットワークの構築自体は技術的には可能となってきているものと思われます。

しかし、個人でも法人(企業)でも、送金を利用する際にネックとなるものがあります。

それはキャッシュアウトの方法です。

銀行での送金は口座から口座に送金するため、口座から当たり前のように現金が引き出せます。

しかし、送金業者(資金移動業者)によって送金する場合には、どうなるのでしょうか。

資金移動業者が用意するアカウントからはそのままでは現金での出金は出来ません。銀行の口座に振り替えなければなりません。

銀行はこの点で資金移動業者に手数料を要求してくるのではないでしょうか。タダで銀行口座に資金を振り替えられるのであれば問題はありませんが、送金業務収益が落ちた銀行がそれを許すでしょうか。

これは将来的に問題となってくるものと筆者は考えています。

企業間送金でも、例えば従業員の給与の振込は簡単には銀行から変えられません。

法律では、賃金(給与)は「通貨で」「直接労働者に」払われなければなりません。すなわち、賃金・給与の支払いは「通貨=現金」で、「直接=本人に手渡し」が原則なのです。銀行口座への振り込みは、特別に認められた例外です。

この特別に認められる給与払い方法に、送金業者のアカウントへの送金が含まれるでしょうか。簡単にキャッシュアウト出来ないならば、認められるのは難しいかもしれません(但し、デジタルマネーでの支払いを厚労省が認める可能性は報道されています)。

以上は簡単な事例ですが、企業の商慣行やリスク回避等も鑑みると、企業間では簡単には銀行での送金が無くなることはないのではないでしょうか。

 

所見

以上考察してきたように、銀行から送金業務が無くなると考えるのは短絡的ではないかと筆者は考えます。

コストを安く、利便性を高く出来るならば、銀行以外での送金はユーザーにとって非常にメリットがあります。

しかし、キャッシュレス社会にでもならない限りは、銀行から送金業務が一気に無くなることは考え難いのではないでしょうか。