日本銀行が独立行政法人国立印刷局に発注する日本銀行券の枚数を公表しました。
日本ではキャッシュレス化が政府が推進しています。銀行も現金取り扱いコストを下げようと様々な対策やサービスを出してきてきます。
今回は、日本銀行券の発行や流通の動向について確認してみましょう。
日本銀行券の発注枚数
そもそも、日本銀行券は毎年どの程度が新規に発行されているのでしょうか。
平成31年度は以下の通りです。(単位は億枚)
- 一万円札10.0
- 五千円札2.4
- 二千円札0.0
- 千円札17.0
- 合計30.0
このように年間で30億枚もの日本銀行券、すなわちお札が刷られています。
この発行水準は過去に比べてどうなのでしょうか。電子マネーやクレジットカードの普及拡大等キャッシュレス化によって発行枚数が減少しているのでしょうか。
以下が過去推移です。(単位は億枚)
- 平成16年度 一万円札25.4、合計40.8
- 平成17年度 一万円札25.6 、合計40.8
- 平成18年度 一万円札13.8 、合計35.0
- 平成19年度 一万円札12.5、合計33.0
- 平成20年度 一万円札15.1、合計33.0
- 平成21年度 一万円札13.8、合計33.0
- 平成22年度 一万円札12.2、合計33.0
- 平成23年度 一万円札10.5、合計33.0
- 平成24年度 一万円札10.5、合計31.5
- 平成25年度 一万円札10.5、合計31.5
- 平成26年度 一万円札10.5、合計30.0
- 平成27年度 一万円札10.5、合計30.0
- 平成28年度 一万円札12.3、合計30.0
- 平成29年度 一万円札12.3、合計30.0
- 平成30年度 一万円札12.0、合計30.0
直近の5年間は全体の発行枚数は安定しています。
そして、過去のデータを見る限りは、一万円札の発行=需要が日本銀行券の発行枚数に大きな影響を及ぼしている可能性が高いと言えそうです。
日本銀行券の流通量
新規の発行枚数の推移は確認できましたが、それでは世の中に出回っているお札はどの程度あるのでしょうか。
以下は日本銀行のホームページから引用します。
日本で流通しているお札は全部でどれくらいありますか?
教えて!にちぎん
回答2018年(平成30年)の大晦日、一般家庭や企業、金融機関などで年越しした銀行券(お札)の残高は、合計で110.4兆円(枚数では169.8億枚)でした。これを積み重ねると、約1,698km(富士山の約450倍の高さ)に達します。また、横に並べた場合には、約264万km(地球の約66周分、月までの距離の約7倍に相当)となります。
この通り、世の中には110.4兆円(枚数では169.8億枚)の日本銀行券が流通しています。
日本銀行の現在の発行ペースでは、6年弱でお札が入れ替わる程度ということになります。
では、現在の日本銀行券の流通量は、過去と比べてどのような水準なのでしょうか。
日本銀行は通貨流通高という統計データを開示しています。
この統計によれば、現在の日本銀行券流通高は過去最高水準を更新し続けているということが出来ます。
平成元年(1989年)の12月末は株式バブルのピークです。この当時の日本銀行券の流通量は37兆円で平成30年(2018年)12月末の3分の1しかありません。
2000年代でも以下のような推移です。(兆円未満は四捨五入)
- 2000年1月 58兆円
- 2000年12月 68兆円
- 2001年12月 73兆円
- 2002年12月 80兆円
- 2003年12月 81兆円
- 2004年12月 82兆円
- 2005年12月 84兆円
- 2006年12月 84兆円
- 2007年12月 86兆円
- 2008年12月 86兆円
- 2009年12月 86兆円
- 2010年12月 87兆円
- 2011年12月 89兆円
- 2012年12月 91兆円
- 2013年12月 95兆円
- 2014年12月 98兆円
- 2015年12月 103兆円
- 2016年12月 107兆円
- 2017年12月 112兆円
- 2018年12月 115兆円
2000年初頭から比べると現在は2倍の日本銀行券の流通量となっています。
このように日本銀行券の流通が増加している理由は、はっきりとは分かっていません。日本銀行券という現金は匿名性が高く、誰がどこに保管しているか分からないためです。
しかし、低金利環境下であるからこそ日本銀行券=現金が選ばれている可能性は高いでしょう。
また、マイナンバー制度の開始、相続増税等、保有資産を政府に捕捉されたくない個人が現金を選択している可能性もあります。
その理由は、発行総額に占める1万円札の割合が緩やかに増加を続けていることです。1989年87.5% → 2000年90.2% → 2010年91.3% → 2018年92.6%となっているのです。
まとめ
一般的には、景気の好転や、個人所得の増加等があれば、購買や様々な取引活動が活発になるので日本銀行券=現金の需要が増えます。
預金金利が高ければ、利子収入を期待して預金は増加(現金は減少)しますが、一方で、預金金利が低くなると預金に対する魅力が低下し現金が増加します。
他の要因としては、個人等は銀行の経営が不安だと預金ではなく現金を持つことが想定されます。
また、上述のように保有する資産額を政府等に知られたくない場合は、匿名性の高い現金が好まれます。
現在は、キャッシュレスを政府・銀行等が推進しています。しかし、足元の動きは日本銀行券=現金・キャッシュが増加していく傾向にあるのです。
(但し、現金が全て取引に使われる訳ではなく、価値貯蔵手段として保管されているだけとも言えるかもしれません)
政府・銀行等はこのような現実も受け入れた上でキャッシュレス化を推進するならば、方策を考える必要があるでしょう。
筆者は、キャッシュレス化を本気で進めるならば、金利の引き上げが有効だと考えています。(もちろん中央銀行によるデジタルマネー導入が最も効果あるでしょうが)
預金を増加させ、口座引き落とし、デビットカード、クレジットカード、その他決済手段が預金口座と連携しやすい仕組みを作れば良いのではないでしょうか。金利が高ければ、資金を集めれば運用益が見込めるため、キャッシュレス決済等に進出してくるフィンテック企業も増加するでしょう(預金収益が獲得出来るなら加盟店から手数料を徴収しない等の選択肢も増えます)。
また、相続税や所得税の徴収について公平性の高い方策(すなわち所得隠しが出来ない仕組み)があるのであれば、さらに現金のニーズは低下するでしょう。
以上が筆者の私見です。