2019年1月28日に開催される「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第17回)の議事次第が事前に公表されました。
この会議では特にコーポレートガバナンス・コードの企業の受け入れ(コンプライ)状況や有価証券報告書における開示の考え方(記述情報の開示)について議論がなされると思われます。
上記フォローアップ会議の資料では、東京証券取引所(東証)が作成した改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況が説明されますが、当該資料について気になることがありました。今回の記事ではその点を確認し、その上で東証が検討している上場市場再編についても触れたいと思います。
コーポレートガバナンス・コードへの対応状況
東証が説明する予定の「改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」はコードへの対応状況における市場区分別の開示状況が示されています。
また東証1部と東証2部におけるコンプライ/エクスプレインの状況が分けて示されています。
https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20190128/01.pdf
この資料で気になるのは各社の個別の原則の取組み状況を説明するページで常に「JPX日経400」に組み入れられている各社の集計が示されていることです。東証1部の各社集計と比較されている項目も目立ちます。
そして、個別の原則の取組み状況の後には、ご参考として「市場構造の在り方等に関する検討の状況について」という資料ページとなっています。
本来的にはコーポレートガバナンス・コードの対応状況を確認する場であるはずの会議でこのような資料が作成されているという点で筆者は若干の違和感を覚えています。
JPX日経400とは
上記で触れたJPX日経400とは、『資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした、「投資者にとって投資魅力の高い会社」で構成される新しい株価指数』(東証)です。
選定基準は以下の通りです。
【選定基準】
以下の手順及び基準に従い、銘柄選定を行います。スクリーニング ① 適格基準によるスクリーニング
下記のいずれかに該当する場合は銘柄選定の対象としない。
・上場後3年未満(テクニカル上場を除く)
・過去3期いずれかの期で債務超過
・過去3期すべての期で営業赤字
・過去3期すべての期で最終赤字
・整理銘柄等に該当② 市場流動性指標によるスクリーニング
上記を除く全対象銘柄の中から、以下の2項目を勘案し、上位1000銘柄を選定。
・直近3年間の売買代金
・選定基準日時点における時価総額定量的な指標によるスコアリング
(1)により選定した1000銘柄に対して、以下の各3項目にかかる順位に応じたスコアを付与します(1位:1000点~1000位:1点)。その後、各3項目のウェイトを加味した合計点によって総合スコア付けを行います。(ROEと営業利益はスコア付けに際しての取扱いあり)
・3年平均ROE:40%
・3年累積営業利益:40%
・選定基準日時点における時価総額:20%定性的な要素による加点
(2)のスコア付けの後、以下の3項目を勘案してスコアの加点を行います。
この加点は、(2)の定量的な指標によるスコアリングに対する補完的な位置づけです※。
・独立した社外取締役の選任(取締役の総数の1/3 以上又は3 人以上。ただし取締役の総数の1/3 が2 人に満たない場合は、2 人以上)
・IFRS採用または採用を決定。
・決算情報英文資料のTDnet(英文資料配信サービス)を通じた開示
※(2)の総合スコアのみによって選定を行った場合との差異が最大でも10銘柄程度となるような加点規模です。構成銘柄の決定
(3)の加点の後、スコアが高い順に400銘柄を選定し、構成銘柄とします。【バッファルール】
前年度採用銘柄に優先採用ルールを設けます。
前年度採用銘柄については、スコアが440位以内であれば、継続採用されます。【銘柄入替】
毎年6月最終営業日を選定基準日とし、毎年8月第5営業日に入替銘柄を公表のうえ、毎年8月最終営業日に銘柄定期入替を実施します。(出典 日本取引所グループ)
上記選定基準で見る限りは独立した社外取締役の選定状況以外は、コーポレートガバナンスを意識して選定されていないことが分かります。
東証の市場再編検討
ここで、現在、東証が検討し意見募集を行っている上場市場再編について確認しておきましょう。
東証、上場市場再編へ=1部企業は絞り込み
2018年12月24日 時事通信東証が上場市場の再編を検討している。1部の企業を絞り込んだ上で、2部とジャスダックを統合。マザーズを加えた現行の四つの区分を見直し、3市場体制とする案が有力だ。投資家に分かりやすく、運用しやすい環境を整備する。
有識者による懇談会での議論や、企業や投資家の意見を踏まえ、年度内にも再編案を策定する。
東証に上場する約3600社のうち、6割に当たる約2100社は最上位の1部に上場。時価総額が20兆円超のトヨタ自動車から数十億円規模の企業まで含まれており、市場の特性が分かりにくい。このため、時価総額500億~1000億円を新たな上場基準として1部を改組し、約600~1000社に絞り込みたい意向だ。
残る3市場の見直しも進める。東証は、老舗・中堅企業が目立つ2部と、ジャスダックを統合して1部からの降格企業を吸収。新興市場向けのマザーズについては拡充し、バイオベンチャーなど先行投資型の赤字企業が上場しやすくなるよう門戸を広げる方向で検討する。
このように東証は上場市場の再編を検討しています。「市場構造の在り方等の検討に係る意見募集(論点ペーパー)」を公表し現在は一般から意見を募っている状況です。
この論点ペーパーの内容についてもポイントとなる点を触れておきましょう。
市場第一部は、制度的には、本則市場(市場第一部・市場第二部)のうち市場第二部と比較して流動性の高い企業を指定するものと位置づけていますが、現在では、我が国経済(社会)を代表し、牽引していく企業が上場する市場として期待されており、また、上場会社が新規上場後にステップアップしていく先の市場としても定着しています。
一方で、市場第一部へのステップアップに関しては、例えば、時価総額基準に関して40億円以上で上場することを可能としているため、エントリー市場への新規上場後間もなく、企業価値にも大きな変化がなく行われている現状があります。また、市場第一部上場会社においても、大変残念なことに企業価値を毀損するような行為が行われる事例が発生していますが、市場第一部上場会社に求めているコーポレート・ガバナンスや内部管理体制の水準は、現状では他市場と比較して大きな差がない状況です。また、市場第一部から退出を求める基準が適切に機能していないとの指摘もあります。こうした現状を踏まえ、市場第一部に関しては、他市場と比較して、上場会社が目指すべき水準、あるいは、市場第一部の会社が維持すべき水準として基準や義務がより高くあるべきとの指摘があり、上場会社の企業価値の維持向上にも資するべく、また、国内外の投資者の市場第一部への期待に応えるべく見直しを行っていくことが必要であると考えられます。
(出典 市場構造の在り方等の検討に係る意見募集(論点ペーパー)/東京証券取引所)
これが東証の市場構造の変更にかかる論点ペーパーであり、東証の問題意識です。
まとめ
コーポレートガバナンス・コードは『2013年に日本政府が閣議決定した「日本再興戦略(Japan is Back)」及び2014年の改定版で、成長戦略として掲げた3つのアクションプランの一つ「日本産業再興プラン」の具体的施策である「コーポレートガバナンス(企業統治)」の強化を官民挙げて実行する上での規範』(野村証券)であり、主に投資家を呼び込むために上場企業が守るべき規範です。
このコーポレートガバナンス・コードの対応状況をフォローアップする会議で、JPX日経400や東証の市場構造の在り方が議題となるのは一見違和感があります。
しかし、金融庁と東証が一体となって東証の市場構造の見直しを進めていこうとしているのであれば、この投資家に評価される市場を作っていくことを目的にしているフォローアップ会議で、市場構造の見直しに触れるのは自然なことなのかもしれません。
東証の市場構造の見直しは、東証1部の構成銘柄を絞るのか、プレミアム市場のようなものを作るのか等は筆者には分かりませんが、新しい上位市場の構成銘柄をJPX日経400の構成銘柄のような先と東証が考えていることは明白でしょう。そして、新しい上位市場の構成銘柄を決定する際の切り口としては、時価総額・企業規模だけではなく、実際にはJPX日経400を構成するような企業は、コーポレートガバナンスの観点でも優良であると示していくことで、現在の東証1部構成銘柄であり市場構造の見直しで下位市場に移される企業への説得材料とするのです。
これが今回の金融庁の会議における資料から筆者が感じ取った流れです。