銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

貸金業関係資料集にみる業界の衰退と銀行への教訓

f:id:naoto0211:20181130013254j:image

金融庁が貸金業者にかかる統計データを公表しました。

このデータ内には長期的な動向が掲載されており、貸金業者の「衰退」が現れています。

今回は、貸金業者の長期的な動向・推移について確認してみましょう。

 

貸金業者の長期的推移

まずは、貸金業者「数」の長期推移です。以下はいずれも各年の3月末(例 昭和60年=昭和60年3月末時点)の業者数となります。

  • 昭和60年 45,720
  • 平成元年 38,048
  • 平成5年 36,340
  • 平成10年 31,414 
  • 平成15年 26,281
  • 平成16年 23,708
  • 平成17年 18,005
  • 平成18年 14,236 過払金にかかる最高裁判決、改正貸金業法成立
  • 平成19年 11,832 クレディア経営破綻
  • 平成20年 9,115
  • 平成21年 6,178 商工ファンド・日栄経営破綻、アイフル事業再生ADR
  • 平成22年 4,057 グレーゾーン金利廃止、総量規制導入、武富士経営破綻
  • 平成23年 2,589
  • 平成24年 2,350
  • 平成25年 2,217
  • 平成26年 2,113
  • 平成27年 2,011
  • 平成28年 1,926
  • 平成29年 1,865
  • 平成30年 1,770
  • 平成30年10月 1,739

以上の通り貸金業者の総数は減少の一途をたどっています。

平成18年(2006年)の過払金にかかる最高裁判決、および改正貸金業法成立は貸金業者に強烈な影響を与えたことが分かります。

 

消費者金融の残高推移

消費者向無担保貸金業者(いわゆる消費者金融)の貸出残高の推移は以下の通りです。金額は億円単位となっています。

  • 平成11年 89,845
  • 平成12年 95,948
  • 平成13年 106,263
  • 平成14年 119,341
  • 平成15年 120,074
  • 平成16年 117,169
  • 平成17年 116,720
  • 平成18年 117,403 過払金にかかる最高裁判決、改正貸金業法成立
  • 平成19年 108,601
  • 平成20年 89,659
  • 平成21年 72,853 グレーゾーン金利廃止、総量規制導入、武富士経営破綻
  • 平成22年 53,497
  • 平成23年 36,600
  • 平成24年 30,792
  • 平成25年 26,995
  • 平成26年 25,909
  • 平成27年 25,544
  • 平成28年 26,540
  • 平成29年 27,004
  • 平成30年 28,001

以上のように消費者向無担保貸金業者の貸出残高はピーク時の1/4まで低下しています。

これは過払金返還訴訟が相次いだように、消費者金融という業態自体が、法的規制により成り立ちづらくなったことを示しています。

(出典 金融庁ホームページ 貸金業関係資料集の更新について

https://www.fsa.go.jp/status/kasikin/20181129/index.html)

 

所見

この消費者金融業界(商工ローン業界にも言えることですが)の動向は銀行のような金融業界にも大きな教訓を与えています。

すなわち、金融業界というのは法制度・規制当局・判例によって非常に大きな影響を受けるということです。

そして、端的に言えば、「金貸し」は嫌われるということになります。

過払返還訴訟が起きた背景には国が出資法と利息制限法との間の差異を放置していたという問題があります(いわゆるグレーゾーン金利問題)。

消費者金融の問題(過剰貸付、違法性の高い取立等)が社会問題化してからは、業界自体が「悪」のように扱われました。

筆者は消費者金融業界に何ら思い入れもありませんし、肩を持ちたいとも思いませんが、消費者金融業界への社会からの反感、攻撃を見て恐怖を覚えた記憶があります。

シェイクスピアのヴェニスの商人に出てくるユダヤ人の金貸しシャイロックの話は、現代にも、そして日本にも生きているのです。

銀行は金貸しです。どんなに紳士面をしようとも本質は変わりません。

銀行はあらゆる手を尽くして、特に法律を駆使して、社会の敵とならないように行動しなければなりません。

消費者金融業界の衰退はその教訓となるのです。

なお、同様の問題は近時の携帯電話の料金引き下げについても言えるかもしれません。留意が必要でしょう。