シェアハウス問題等の渦中にあるスルガ銀行が金融庁へ業務改善計画を提出しました。
投資用不動産融資に関する不祥事を反省し、業務運営を抜本的に改める内容としています。
今回は、スルガ銀行が金融庁に提出した業務改善計画について確認していきましょう。
報道内容
スルガ銀行がどのような業務改善計画を提出したかについて以下記事を確認してみましょう。共同通信の記事を引用します。
スルガ銀117人処分
共同通信 2018年11月30日
シェアハウス向け融資などで組織的な不正が横行していたスルガ銀行(静岡県沼津市)は30日、金融庁に業務改善計画を提出した。資料の改ざんなどに関与した営業担当者や支店長ら計117人の処分が柱。計画とは別に、不正を主導した麻生治雄元専務執行役員を懲戒解雇したことも発表した。計画には、営業現場での過剰なノルマの全廃と創業家本位の企業風土があったとの反省も盛り込んだ。
スルガ銀の有国三知男社長は沼津市内で記者会見し「外部の知見を積極的に取り入れて、内向きだった組織を透明性の高い組織にしていきたい」と語った。
以上が全体感です。
では、以下で詳しく見ていくことにしましょう。
業務改善計画
以下、業務改善計画についてのスルガ銀行プレスリリース文からポイントをピックアップします。
<問題の背景と根本原因(「創業家本位」の企業風土)>
当行では、長年の創業家支配により、創業家本位の企業風土が醸成され営業優位の過度な短期的利益を追求するあまり、銀行としての自覚及び上場企業としての自覚が欠如し、その結果、ガバナンス、コンプライアンスが機能不全に陥り、顧客本位の業務運営の姿勢を欠く状況となっておりました。
<創業家との関係>
創業家のファミリー企業への不明朗な融資につきましても、その回収を図るとともに、そこで発生する損害については、「取締役等責任調査委員会」がさらに検討を進めております。その判定により責任が認められた場合には、追加的に損害賠償請求訴訟等を提起する予定です。
また、創業家が保有する当行株式(約13パーセント)につきましても、その保有関係の解消を図るべく、当行としてできうる限りの対応を行なっていく所存です。
<当行再生のための意識改革とガバナンス(経営管理態勢)改革>
当行は、今後、引き続き「リテール業務」を中核とし、顧客ニーズに応えるビジネスモデルの構築に取り組んでまいります。
(中略)
今後資金対応ニーズの拡大が見込まれるニッチ市場への取り組みを行なってまいります。
また、今後、リテール業務において、ネット支店の強化、既存アライアンス先との関係強化、新規アライアンスの実現に取り組むとともに、自行で開発したシステムの販売にも取り組んでまいります。
なお、投資用不動産融資については、業務停止期間における業務の抜本的見直しを経て、堅牢なコンプライアンス体制を確立し、取り扱い行員・店舗の限定等を行なった上で、真にお客さまの資産形成ニーズに資する顧客本位の対応を行なっていく予定です。
今後のビジネスモデルの構築にあたっては、法令等遵守、顧客本位に立った業務運営体制を大前提とし、過度な利益至上主義からの脱却を図り、適切かつ合理的な収益水準を目指してまいります。
<目標設定・業績評価制度の見直し>
不正の温床となった過剰なノルマを全廃いたします。
今後の目標設定は顧客本位の業務運営を念頭に置き、現在策定中の中期経営計画(2019
年 4 月適用開始)との整合性を考慮しつつ、営業の現場感覚に基づく市場分析結果やエリア毎の特性及び人員体制を考慮した積み上げ方式へ変更し、合理性や納得感のあるものにいたします。なお、2018 年下期は営業目標を設定しておりません。
また、従前の業績評価制度は、計数目標に対する達成度評価が中心で、短期的かつ営業偏重のものでしたが、2018 年度上期より、中長期的かつ仕事に対する姿勢・意欲など定性項目を重視した職務評価制度を導入いたしました。今後、運用状況を把握し、制度を適宜見直し、改善を図り、人材育成や企業風土の改善につながる業績評価制度を目指します。
<融資審査管理を含む信用リスク管理態勢及び内部監査態勢の確立>
当行では、「スリーライン・ディフェンス」の重要性を認識し、第一線(営業)、第二線(審査・コンプライアンス)、第三線(内部監査)、それぞれの機能を強化いたします。
【審査・コンプライアンスについて(第二線)】
審査部門の権限を強化し、営業部門に対する牽制機能を十分に発揮すべく、2018年12
月より、審査本部長の職責レベルを変更し、上席執行役員といたします。
審査に対する営業からの圧力は、徹底して排除し、審査の独立・公正が維持されるようコンプライアンス体制を運用してまいります。
【幹部登用制度】
2019 年度上期より、第二線又は第三線における業務経験を幹部登用の条件とする運用を開始いたします。これにより、第一線幹部のリスクオーナーシップ意識を高めるとともに、第二線・第三線の重要性を全社的に認識させます。
<シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、個々の債務者に対して
適切な対応を行なうための態勢の確立>
現状返済困難なお客さまに対しては、金融機関としてとり得るあらゆる選択肢について踏み込んだ検討を行ない、元本の一部カットも含めた対応に取り組みます。
<外部機関との連携>
大手不動産会社(三井不動産リアルティ株式会社、野村不動産株式会社、野村不動産ア
ーバンネット株式会社)とコンサルティング業務委託契約の締結を行ない、シェアハウス等の収益性改善について助言を得ております。
以上がスルガ銀行が公表した業務改善計画におけるポイント(抜粋)となります。
所見
今回のスルガ銀行の業務改善計画は外部の目を入れ、外部の力を活用しようとしていることがポイントでしょう。
創業家支配から脱却し、過度な利益至上主義からは距離を置くとしています。そのために内部管理部署に権限を持たせ、さらに外部からも牽制機能を持たせようとしているのです。
そして、実効性が上がると思われるのは、幹部登用です。審査や内部監査の業務経験を幹部登用の条件とすることは面白い試みであり、スルガ銀行の狙いを浸透させる効果があると言えます。
以上の流れ自体は、大枠として想定されていたことであり違和感はありません。
スルガ銀行は今までのようなアグレッシブな経営をするのではなく、バランスの取れた運営に変わっていこうとしているのです。
しかし、一点だけ指摘しておくと「目標設定を、営業の現場感覚に基づく市場分析結果やエリア毎の特性及び人員体制を考慮した積み上げ方式へ変更し、合理性や納得感のあるものにする」とするスルガ銀行のアプローチは失敗する可能性があると思います。
銀行の目標設定を客観的に行おうとしても納得感を醸成するのは難しいと言えます。また、スルガ銀行は今後はイメージの悪化のみならず、内部審査等の厳格化により収益機会の逸失、および利益減少が想定されます。
そんな中で営業現場が納得するような目標を立てれば、全社の目標が立たなくなります。よって、業務改善計画が全てうまく行くとは想定できません。
特に、顧客本位の対応を行いながら、過度な利益至上主義からの脱却を図り、一方で適切かつ合理的な収益水準を目指すとしているスルガ銀行の経営は難しいハンドリングを行わなければなりません。
それでも個人客(オーナー)をだますような形で、収益を計上していても、社会悪とされた場合には会社自体が破綻まで追い込まれてしまいます。
この攻めと守りのバランスをどのようにしていくのか、スルガ銀行の今後の経営に要注目です。