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株主優待は本質的には廃止すべき~株主優待は株主平等原則に反するという事実~

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大和インベスター・リレーションズの調査によると、上場企業の株主優待実施率が過去最高を更新しています。

個人の株主にとっては、株主優待というのは投資する企業を選ぶための重要な要素の一つでしょう。株主優待を活用した生活で注目を浴びている有名な個人投資家も存在します。

しかし、個人投資家以外にとって株主優待はどのような意味を持つのでしょうか。

今回は、株主優待という制度について考察しましょう。

 

報道内容

まずは、報道記事を確認しておきましょう。まとまっており、分かりやすいと思います。

上場企業の優待実施率が過去最高
4割弱が導入

2018/11/12 共同通信社
 上場企業の株主優待の実施率が8年連続で増加し、過去最高となったことが12日、大和証券系の大和インベスター・リレーションズ(IR)の調べで分かった。今年9月末時点で全上場企業の4割弱が導入した。多くの個人株主に長く保有してもらい、株価の上昇につなげる狙いがある。

 東京証券取引所などに上場する3771社のうち、1450社(38.5%)が優待制度を導入したと回答した。

 業種別では、食品や小売り、銀行など一般消費者になじみの深い企業が実施するケースが多い。優待の内容は自社の商品やクオカードのほか、北海道地震の被災地への寄付といった社会貢献につながる内容も目立つ。

これが記事の内容です。

 

大和インベスター・リレーションズの報告内容

上述の記事の基になった調査は大和インベスター・リレーションズが実施している『株主優待ガイド 2019 年版』(調査時点 2018 年 9 月末)です。

このガイドの概要は、以下の通りです。

●株主優待実施企業数、実施率ともに過去最高
上場企業数(全市場)3,771 社中 1,450 社が株主優待を実施。昨年よりも 82 社 増加。全上場企業数に対する優待実施率は 38.5%。新設企業は 106 社※(昨年比 12 社)。「電気・ガス業、サービス業」の導入が目立つ。※プレスリリースによる発表社数

●株主メリットを考慮した優待内容も増加
複数の優待品から選択できる、優待進呈基準の株数に格差がある、長期保有 すると優遇されるといった、株主にとってメリットのある優待制度を導入する企業が年々増加。特に、長期保有すると優遇される優待制度を導入する企業は 407 社(昨年比 92 社)と大幅に増加。さらに、一定期間株式を保有した株主 にのみ優待を進呈する企業も昨年比 26 社増の 83 社。

●大口保有する株主獲得に向けた動きも目立つ
優待を進呈する最低株式数を売買単位超としている企業も増加。今年は 268 社と昨年の 230 社と比較して 38 社増加。長期保有のみならず、大口保有の株主獲得の動きも目立ってきている。

(出典 大和インベスター・リレーションズプレスリリース資料)

これが上場企業の株主優待の状況です。

以上から判明することは、上場企業が「自社に都合の良い」株主を優遇する傾向にあるということです。

長期保有や大口の株主を優遇するということは、自社にとって賛成・応援してくれるかぶを増やしたいということです。

 

株主優待とは

そもそも株主優待とは、どのようなものでしょうか。

株主優待とは、企業が株主に対して行うプレゼントのことです。株主優待を行っている企業は現在1000社以上あり、個人株主を増やすために優待制度を新設する企業も増えています。
株主優待の内容は、自社の宣伝も兼ねて、自社製品や自社サービスの優待券や割引券などが主流ですが、お米や図書カード、地域の名産品といったものを配る企業もあります。
株主優待は、企業によっては、株主として保有する株数により、優待の内容や量が違うこともあります。最近では安定株主を増やすために、長期保有株主に対して優待内容を優遇する企業も増えています。
株主優待は配当と同様に必ず行われているものではありません。また、株主優待をもらうには、権利確定日に一定数の株式を保有している必要があります。

(出典 SMBC日興証券ホームページ)

以上が株主優待の用語解説となります。

要は、配当とは別の企業から株主へのプレゼントなのです。

 

株主優待の問題点

株主優待は、上場企業にとっても株主にとっても「良いもの」に見えます。

上場企業にとっては安定株主が増える可能性があり、株主にとっては配当以外に価値のあるモノやサービスを貰えるという経済的メリットがあるからです。

しかし、これは一面の見方に過ぎないかもしれません。

まず、株主優待を個人投資家は喜ぶかもしれません。生活に活用出来るならば経済的なメリットを享受出来るからです。しかし、機関投資家(法人の投資家)はどうでしょうか。

例えば、投資する企業から「お米」が機関投資家宛に送られてきたら、どうでしょうか。お米なら保存が出来ますが、野菜だったらどうでしょう。企業の新商品、例えば掃除機が送られてきたらどうでしょう。

いずれも、機関投資家という法人(その法人で働く従業員ではありません)にとっては、意味の無いものでしょう。機関投資家は実体がないのですから、自らお米を炊いて食べることはないのです。

また、機関投資家が日本に存在すれば良いですが、実際には海外にいればどうでしょうか。海外までお米を送る訳にはいかないでしょう(実際には、日本の信託銀行が代理人のような役割を果たしていますが)。

すなわち、株主優待は個人投資家にとっては意味がありますが、機関投資家のような法人にとっては、あまり意味の無いものなのです。これは、同じ株主であるにもかかわらず、メリットを感じる株主とそうではない株主のうち、「メリットを感じる株主のみを優遇」しているとも言えます。

すなわち、以上の例をとっても株主優待は株主平等という観点では問題があるのです。

株主を平等に扱うのであれば、配当の水準を引き上げるのが普通の考え方です。

(株主優待に関する株主平等原則における論点は上記以外にもあります)

なお、機関投資家の多くは株主優待が送られてきた場合、取扱業者による入札で引き取ってもらっています。少しの売却金額にはなるでしょうが、膨大な手間と保管コストが発生しているのです。

 

所見

実際には、株主優待制度を廃止することは難しいでしょう。

機関投資家の層が薄い日本では、上場維持(東証1部なら2,000名の株主数が必要)のために、多くの個人株主を繋ぎ止める必要があります。

株主優待は、この株主数を維持するのに非常に有効なツールなのです。

しかし、本質的には株主を平等に扱うべきである以上、株主配当は全ての株主が納得する現金配当に置き換えられるべきです。

株主優待を行うことにより、優待の選定や企画に貴重な従業員の時間が取られ、結果として企業の利益や配当を下げることになっているのです。

また、企業価値ではなく株主優待によって人気化した株式の価値とは一体何なのでしょうか。

株主優待は上場企業が都合が良いから存在しているのです。これにより、株主の得られるはずの利益が棄損されていると筆者は考えています。

株主優待導入企業が4割に迫ろうとする今だからこそ、もう一度、株主優待というものを根本的に考えてみても良いのではないでしょうか。