銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

日銀金融システムレポート(2018年10月号)のポイント

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日本銀行(日銀)が半年に一度公表している金融システムレポートを公表しました。

今回はミドルリスク企業向けや不動産業向け貸出、有価証券投資にある程度焦点があたっています。

今回はこのレポートにつき概要を簡単に見ていくことにしましょう。

 

概要

今回のレポートは図表を確認した方が分かりやすいので以下引用します。

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  • 不動産業向け貸出のGDP比率については確かに過去のトレンドからみると上限に近づいていると言えます。しかし、特に製造業が有利子負債を圧縮してきた歴史を考えると、不動産業への貸出が増加したとしてもおかしくはありません。他業種の貸出に占めるシェアが減少しただけかもしれないのです。f:id:naoto0211:20181023221731j:plain
  • 地域金融機関の収益力拡大が進んでいるようです。もともと収益力が低い地域金融機関は、貸出利回りの低下幅が上位・中位よりもさらに大きいということが分かります。

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  • 無借金企業の比率は約13%、実質無借金(借入を現預金が上回る)企業は約40%もある中で、銀行の借入が大きい企業グループほど利益率が低いということを日銀は示しています。これも日本では当たり前ですが、収益力が高い企業ほど借金を返してきた歴史があるのです。そのため、収益力の高い企業ほど財務内容も健全なのです。

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  • 低採算先貸出比率が30~40%ある金融機関は注意が必要でしょう。景気悪化となり取引先の財務内容が悪化すると貸倒損失(引当含む)が急激に必要となる可能性があります。
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  • 不動産案件は「期待利回りの低下」傾向が表れてきています。価格上昇の裏返しではありますが、テナントが抜ければ一気に不良債権化する可能性もあり留意が必要でしょう。

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  • 金融機関の投資信託保有残高の急増は将来的に問題となる可能性があります。投資信託は解約益であったとしても金融機関の「本業」利益として計上できるため人気があります。地域金融機関の投資信託残高の内訳で見ると債券よりも不動産ファンドや株式への投資が多く、地域金融機関がかなりリスクを取ってきていることが分かるでしょう。

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  • 不動産ファンド向けという観点では、地域銀行および信用金庫が出資を増加させてきたことがポイントです。言うまでもなく、ファンドへの出資はファンドへの貸出に比べて損失を被るリスクが高いのです。不動産市況が悪化し、不動産ファンドのリファイナンス(借換)が出来なくなった事例等が出てきた場合には、急激に悪影響が出てくる可能性があります。

以上が筆者が考える日銀の金融システムレポートのポイントです。

日銀の問題意識は金融庁も共有しますので、将来的には何らかの対応を行う必要が発生するでしょう。