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KYBの免震不正問題は経営の屋台骨を揺るがす可能性あり

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油圧機器メーカーのKYBが免震装置の検査データ改ざん、不適合製品の出荷を行っていたと発表しました。

本件は、以前騒ぎになった東洋ゴム工業が起こした免震ゴム不正事象と恐ろしいほどよく似ています。東洋ゴム工業は売上高のごくわずかを占める事業で巨額の損失を迫られました。

KYBにはどのような影響があるのでしょうか。

今回は限られた情報の中で、KYBの今後について簡単に考察してみましょう。

 

報道内容

まずは、KYBの損失額を推察するのに参考となる記事を確認しましょう。日経新聞から引用します。 

KYB免震不正、改修費用巨額化も 未公表900件超
2018/10/20 日経新聞

 油圧機器メーカーのKYBが、国の認定に適合しない免震装置を出荷していた問題で、改修費用の巨額化が懸念されている。19日に公表した70件以外の900件超の物件の中には原子力発電所や五輪施設の名前もあがる。工事が長期化し莫大な改修費がかかる物件も多いとみられ、経営に与える影響は大きい。
 「まずは多くの方が使う公共施設の公表になる。不適切な行為を起こして申し訳ありません」
 19日、東京都内で記者会見したKYBの斎藤圭介専務執行役員は陳謝した。8月上旬に子会社の検査員が内部告発して問題が発覚。2カ月間の社内調査後、今月16日に性能検査データの改ざんを公表した。
 基準に満たない製品を設置した建物は、地震の時に揺れが伝わりやすくなる可能性がある。改ざんの疑いのある免震・制振装置は、全国でマンションなど987件に計1万928本設置されたという。KYBは20年9月の交換完了を目指す。
 しかし大手ゼネコン関係者は「交換工事は建設会社が請け負うが、人手が足りない」と話す。都心部などでは建設作業員の人手不足で改修が長期化する可能性がある。
 KYBは自動車向けサスペンション(緩衝器)大手で、免震・制振オイルダンパー事業は連結売上高の1%に満たないが、深刻なのは改修費用だ。ダンパーの価格は1本数十万~100万円で、交換費用は1本あたり数百万円以上とされる。
 不正の疑いのある製品点数の3割を占める制振ダンパーは「建物によっては100本を超える」(KYB関係者)。壁に埋め込まれた場合、解体工事が必要になり改修費用はさらに膨らむ。

(以下略)

これを参考に今回の性能データ改ざん問題がKYBに与える影響について、以下で想定していきましょう。

 

簡易試算

改ざんの疑いのある免震・制振装置は、全国でマンションなどに986件、10,928本を設置されていると発表されています。

そして、日経新聞の記事によれば「ダンパーの価格は1本数十万~100万円で、交換費用は1本あたり数百万円以上」とされています。

そして、KYBは不適合品は当然ながら、データの書き換えが不明な商品についても交換を前提とするとしています。 

以上を勘案し、簡単に試算すれば、KYBの損失額は以下の通りとなるでしょう。

①ダンパーの再製造費用

・10,928本×100万円(新聞記載の最大値)=109億円(最大値)

(※通常は製造コストが販売価格を下回っているため、上記数値が最大値となる可能性あり。ただし、緊急対応のため、製造設備の増強等、通常の製造コストを超過する可能性り。)

②ダンパー交換費用

・10,928本×300万円=328億円

※ここでは仮置きでダンパー1本あたり300万円と仮定

③損失補償・補填

・ダンパー交換時の病院・商業施設等の休業補償

・賃貸マンションの場合、入居者の退去および入居者募集中止等に関する補償

・対象物件が売買予定だった場合の逸失利益等の補償

・以上のような損失補償・補填を損害賠償請求として求められる可能性あり

すなわち、上記①と②を合計すると437億円となり、それに損失補償・補填が追加されるということになります。

一方で、KYBの財務体力はどのようなものでしょうか。2018年3月末時点の決算数値を確認してみましょう。

・売上高3,924億円、営業利益209億円、当期利益152億円

・総資産4,124億円、資本1,866億円、現預金427億円

営業CF292億円、投資CF▲164億円

KYBは2020年9月(残り2年程度)で交換を完了しようとしています。

今回の費用が上述の437億円程度であれば、現在の現預金および営業CFを勘案すれば資金繰りで厳しくなることはないでしょう。ただし、補償費用については現段階では不明となります(物件特性によって金額が大幅に上下すると考えられるため)。

 

類似ケースの参考数値(ワーストケース)

東洋ゴム工業の場合、性能偽装の発覚から合計で1,320億円の損失を計上しています。

不適合製品を納入した棟数は154棟であり、納入数は2,730基となっています。

いまだ全ての対応は完了していませんが、104棟(全体の67%)で着工開始、88棟(全体の57%)で製品交換完了しています(2018年6月末時点)。 

東洋ゴム工業の場合、1,320億円÷154棟=8.6億円となります。一基あたりにすると、1,320億円÷2,730基=0.48億円となります。

東洋ゴム工業の事例とKYBの事例は異なるとお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、積層ゴム等の支承材(すなわち東洋ゴムが性能偽装した製品)と合わせて免震ダンパーを使うことは事例としてはあるようです。KYBの説明資料にも図で同様の記載がありました。

https://www.kyb.co.jp/company/progress/progress_20181016_01.pdf

免震ゴムの場合は、おそらく建物をジャッキアップ(持ち上げて)免震ゴム装置を入れ替えると想定されます。KYBの免震ダンパーでは、建物のジャッキアップは必要ないかもしれません。

しかし、近い場所で使用され、どちらも建物の躯体と土地(地面)を結び付けている製品であることを鑑みると、東洋ゴム工業並みの工事費が発生する可能性も否定はできないでしょう。

この場合のKYBの損失額は以下の通りです。

・986物件(KYB)×8.6億円(東洋ゴム事例)=8,488億円

・10,928基(KYB)×0.48億円(東洋ゴム事例)=5,245億円

両試算の間にはかなりの隔たりがありますが、 東洋ゴム工業並みに費用がかかるのであればKYB一社では背負いきれない問題となるでしょう。

今回のKYBの免震不正問題は株式投資のチャンスとなるかもしれません。しかし、現時点の情報のみでは、筆者からみるとリスクが読み切れず、懸念が顕在化した場合の損失発生額が多額過ぎるという問題があるように感じているのが現状です。