銀行員のための教科書

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NTTドコモ「信用スコア」算出サービスの拡大は限定的である可能性

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NTTドコモがスマートフォンの利用状況等を分析して個人の信用を算出するサービスを金融機関向けに実施すると発表しました。

今回はこのNTTドコモの取り組みについて考察します。

 

NTTドコモの発表内容

まずは、NTTドコモの発表資料を確認してみましょう。

金融機関向けに「ドコモ レンディングプラットフォーム」を提供
-信用スコアリングやアプリでの返済アドバイスで、新たな融資サービスの提供をサポート-
<2018年10月17日>

株式会社NTTドコモ(以下ドコモ)は、金融機関がドコモの回線をご利用のお客さま向けに、安心して利用できる新たな融資サービスを提供する仕組みとして、「ドコモ レンディングプラットフォーム」を2019年3月(予定)から提供いたします。

「ドコモ レンディングプラットフォーム」は、ドコモのビッグデータを活用した「ドコモスコアリング」の提供、スマートフォンアプリ「レンディングマネージャーTM」の提供、ドコモが提供する各種サービスとの連携という3つの特長を備えています。

「ドコモスコアリング」は、ドコモの幅広いビジネス展開によって得られた各種サービスのご利用状況などのビッグデータを解析し、自動的に算出したお客さま毎の信用スコアを金融機関の審査に活用できる仕組みです。金融機関は、この信用スコアを活用した審査を行うことで、個々人の状況に合わせた適切な金利・貸出枠を設定することが可能になります。なお、この信用スコアは融資サービスをお申込みの際、お客さまの同意のもと算出され、お手続きの中でのみ活用されます。

(以下略)

これがリリース内容です。

 

報道内容

では、さらに概要をつかむために報道内容も確認しましょう。

ドコモ「信用スコア」算出
2018/10/17 日経新聞

 NTTドコモは17日、スマートフォン(スマホ)の利用状況などを解析し、個人の「信用スコア」を算出する金融機関向けサービスを来春から始めると発表した。金融機関は信用スコアを使い融資条件を利用者に示せる。携帯市場は需要の頭打ちと、楽天参入で競争が激しくなる見込み。約6700万人の顧客基盤を強みに金融サービス分野の開拓を急ぐ。
 新たに始める信用スコアサービスは、利用者の同意に基づいて、回線の利用期間や携帯料金の支払い履歴などからはじいた信用スコアを金融機関向けに提供する。金融機関はスコアが高いほど利息や金利を低くするといった融資が可能になる。契約者向けアプリケーションはマネーフォワードと共同開発した。
 まずは新生銀行と提携し、同社が19年3月に始める新たな融資サービスに活用する。同日会見した新生銀行の工藤英之社長は「携帯電話事業者が持つ切り口の違うデータを組み合わせることで、精緻な融資が可能になる」とドコモと組む利点を強調した。ドコモの吉沢和弘社長も「金融機関は顧客一人ひとりにあったサービスを提供可能になる」とメリットを語り、提携先をさらに増やしたい考えを示した。

(以下略)

これが報道内容です。

 

サービスの背景

そもそもなぜ、NTTドコモはこのようなサービスを開始したのでしょうか。例えば、自社で金融サービスを実施しても良いのではないでしょうか。

その背景の一つが、カード事業の合弁解消でしょう。

三井住友フィナンシャルグループが、NTTドコモが保有する三井住友カードの全株式を2019年4月1日付けで買い取ることになっています。三井住友カードの発行済み株式総数の34%をNTTドコモが保有していましたが、これを売却します。すなわち、NTTドコモはカード事業をやめることになりました。

カード会社はキャッシング等おカネを貸す事業も営んでいます。カード事業の売却は、自社でおカネを貸すことを選択肢として無くしたということになるといえます。

これは主導権を確保していない事業では自社の戦略を描き難かったということなのかもしれません。もちろん三井住友フィナンシャルグループのカード事業強化の影響もあるでしょう。

様々な状況を勘案し、自社が保有するビッグデータを活用し、プラットフォーマーとなる道を選択したのです。

 

まとめ

では、今回のNTTドコモのサービスは、金融機関から支持を得られるのでしょうか。

結論からすると、筆者は、現在のプレスリリースだけを見た場合、金融機関の利用は難しいのではないかと考えています。

まず、携帯電話料金の支払履歴(負担力、延滞履歴等)は金融機関にとって個人の信用力を測る参考となる情報ではあります。

しかし、支払履歴は個人の総支出の一部でしかありません。金融機関の自社で保有するデータの方が個人の幅広い支払データをカバーしています(電気・水道料金等)。

銀行から見た場合、自行の口座を持たない個人の情報が得られるぐらいでしかありません。

また、延滞履歴という観点では、金融機関が利用している個人信用情報(業界で共有している延滞情報)が既に存在します。

そして、最大の問題は、自動的に算出される個人の信用スコアが信頼に足りるか検証が出来ない可能性があるということです。

NTTドコモが信用スコアの算出ロジックを金融機関に公開するかどうかがポイントでしょうが、常識的には自社のノウハウなので公開しないでしょう。

検証が出来ない信用スコアをそのまま使い融資を行うことは、何も考えずに他者の意見に従っておカネを貸すということに他なりません。

以上が、筆者がNTTドコモの信用スコア算出サービスが金融機関から支持されにくいと考える理由です。