琉球銀行が増資(株式発行による資金調達)を行います。
地方銀行(地銀)は業績が苦しいと報じられていますが、その環境下で琉球銀行が増資を行うとは驚きと言えます。
増資は、主に企業が成長するために株式市場から資金を調達するものです。
琉球銀行は他地銀が苦しむ中、どのような状況にあるのでしょうか。
今回は琉球銀行の増資について確認しましょう。
報道内容
まずは、直近の報道を確認しましょう。
琉球銀行が12年ぶり増資 最大460万株発行へ 貸出金拡大に対応
2018年8月25日 沖縄タイムス+プラス琉球銀行(川上康頭取)は24日の取締役会で、普通株式を新たに最大460万株発行することを決めた。県内人口や世帯数の増加を受けて個人の住宅関連を中心に、今後も貸出金の拡大が予想されるため、調達資金を貸出金に充てる。50~60億円となる見通し。
もう一つ記事を引用します。
琉球銀が新株発行 50~60億円調達へ
住宅・企業向け貸し出し
2018年8月28日 日経新聞琉球銀行は27日までに、一般募集と第三者割当増資で最大460万株の新株発行を決めた。50億~60億円程度の資金調達を見込み、沖縄県内で需要の大きい住宅関連や企業向けの貸し出しに充てる。融資の強化にあたり、自己資本の積み増しで財務基盤を強化する必要があると判断した。
いずれの記事も、今後の貸出拡大が想定されるために資金を調達すると解説しています。
では、なぜ琉球銀行は増資が出来るのでしょうか。そんなに資金需要があるのでしょうか。
増資とは
琉球銀行の増資の背景について確認する前に「増資」とは何かについて整理しておきます。
増資とは、本来、企業が資本金を増加させることをいいます。しかし、一般的に企業が資本金を増加させる場合、新株発行によって行われるので、株式を新しく発行し、投資家から資金を集めることを増資といいます。なお、増資のやり方には、既存の株主に株式の割当てを受ける権利を付与する「株主割当増資」、提携先や取引先などの特定の第三者に対して引き受けの勧誘をする「第三者割当増資」、不特定多数の者に対して引き受けの勧誘を行う「公募増資」などがあります。
「ワンポイント」
公募増資の場合、株式市場が順調に右肩上がりの状況で行われるケースでは、株式の量が増えることによる需給悪化の懸念はあまりクローズアップされませんが、取引量が少なく相場が低調なときに行われるケースでは、増資と聞くと需給悪化懸念がクローズアップされて株価がさらに下落してしまうこともあります。(出典 SMBC日興証券サイト)
これが増資の定義です。
琉球銀行のプレスリリース
では、琉球銀行のプレスリリースはどのようになっているでしょうか。以下で確認してみましょう。
新株式発行及び株式売出しに関するお知らせ
当行は、平成30年8月24日開催の取締役会において、新株式発行及び当行株式の売出しに関し、 下記のとおり決議いたしましたので、お知らせいたします。
【本資金調達の目的】
当行は、沖縄県を主な営業エリアとして、沖縄県内で 74 店舗、東京都で1店舗を展開しており、本年5月に創業 70 周年を迎えました。沖縄県は、全国で人口、世帯数がトップクラスの増加率となっており、個人の住宅投資並びに個人消費は好調が継続しております。また、県内入域観光客数の増加や、沖縄都市モノレールの延伸、那覇空港の第2滑走路建設といったインフラ整備も進み、経済成長が期待される環境にあります。(中略)
当行の平成 30 年3月末の自己資本比率は、連結 9.40%、単体 8.57%と、バーゼルⅢ国内基準行の最低基準である4%を上回っております。一方で、人口、世帯数の増加に伴う住宅関連貸出を中心に資金需要は旺盛で、平成25年3月期から平成 30 年3月期の5年間で貸出金残高は 1.3倍、377,857百万円増加しております。地域の旺盛な需要に積極的に応えることでリスクアセットは今後も拡大していく見通しです。このため、地域のニーズに永続的に応え、地域経済の発展に更に貢献するためには財務基盤を強化することが必要であると判断し、今回新株式の発行を決議しました。
これが、増資を発表した際のリリースです。
旺盛な資金需要を背景に2013年3月期から2
018年3月期の5年間で貸出金残高は 1.3倍となったことが分かります。
この資金需要の背景は、「人口、世帯数の増加に伴う住宅関連貸出を中心に資金需要は旺盛」と発表されています。
では、琉球銀行が地盤とする沖縄のデータを少し確認してみましょう。
沖縄のデータ
琉球銀行の資料から沖縄県のデータを簡単に確認しておきましょう。
<入域観光客数と観光収入の推移>
- 対象年:2014年/2015年/2016年/2017年
- 観光客数:7,058千人/7,763千人/8,613千人/9,396千人
- 観光収入:5,169億円/5,913億円/6,525億円/6,948億円
<時系列人口・世帯数推移(一部推計)>
- 対象年:2010年/2015年/2020年/2025年/2030年/2035年
- 人口:1,392千人/1,426千人/1,444千人/1,450千人/1,444千人/1,430千人
- 世帯:520千世帯/560千世帯/569千世帯/581千世帯/587千世帯/587千世帯
以上のデータは沖縄県の一部でしかありません。
しかし、人口は2025年までは増加し、世帯数は2030年まで増加していくという推計がなされています。
人口が増えていく地域というのは、住宅需要等個人の消費は増加します。琉球銀行の増資は、この流れの中にあるのです。
まとめ
琉球銀行は今回の増資で得た56億円の全額を2019年3月末までに貸出金に充当する予定と発表しています。
銀行は一般的に言えば自己資本の20倍(自己資本比率5%)まで貸出を行います。そのため、今回の増資金56億円の20倍=1,120億円程度の貸出が出来ることになります。
琉球銀行の貸出残高は、約1兆6,000億円(2018年3月末)ですから、単純に計算すれば今回の増資により7%の貸出残高の増加を見込んでいると言えるでしょう。
人口が増加し、需要が増えている地域に存在する地銀とは、このようなものなのです。地銀といっても一括りには出来ません。地盤によって大きく異なるのです。
今回の琉球銀行の増資は、人口の増加、域内の経済活性化が地銀に与える影響を確認する良い事例なのではないでしょうか。
地銀は地元の成長無しには成り立ちません。地元経済の活性化こそ地銀が目指すべき本質的な戦略なのでしょう。