銀行員のための教科書

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日本でロボアドが広がらないのはサービスの問題では?

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ロボット・アドバイザー(通称ロボアド)というサービスをお聞きになったことはあるでしょうか。

簡単に言えば、AIもしくはプログラムが個人投資家に投資運用を指南するサービスです。

このロボアドは米国では相応の人気があるようですが、日本では期待通りには拡大していないようです。

今回は、このロボアドがなぜ拡大しないのかについて簡単に考察します。

 

報道内容 

全体像を把握するには新聞記事が良いと思います。

以下で日経新聞の記事を抜粋・引用します。

ロボアドに成長の壁 資産1400億円で伸び悩み
2018/07/19 日経新聞

 米国発の新しい金融サービス「ロボット・アドバイザー(ロボアド)」をご存じだろうか。コンピューターのプログラムが個人投資家に資産運用を指南するもので、日本では過去2、3年でウェルスナビ(東京・渋谷)やマネックスグループなど約30社が参入し、話題を呼んだ。「すぐに兆円単位の市場に育つ」との関係者らの期待に反し、運用資産の伸び悩みが続いている。
 6月、ロボアド業界に驚きが広がった。大手のお金のデザイン(東京・港)が独立路線を転換する提携を発表したのだ。証券系の東海東京フィナンシャル・ホールディングス(FHD)に対して50億円の増資を実施、出資比率20%の筆頭株主として迎えた。東海東京FHD傘下の東海東京証券(名古屋市)や同証券が提携する地銀などの顧客にロボアドの利用を促していく狙いだ。
(中略)
 ロボアドはコンピュータープログラムが個々の投資家の志向に応じた資産運用を提案するサービス。「何歳か」「投資経験はあるか」といった簡単な質問に答えれば、投資信託などを組み合わせた国際分散投資のメニューを即座にはじき出す。スマートフォン(スマホ)やパソコンを通じ、気軽に利用できる。長期志向の積み立て投資が主流だ。
 運用成績は比較的順調だ。ウェルスナビの場合、16年1月にまず100万円を投じ、その後月3万円ずつ18年4月まで積み立てたとすると、株式を多めにした高リスクな運用メニューなら年1%の運用手数料控除後で21%のプラスとなった。
 しかし、大手4社(ウェルスナビ、お金のデザイン、マネックス、楽天証券)の運用残高は6月末時点で1400億円にとどまる。発祥の地である米国(約30兆円)の230分の1の規模だ。日本の公募投資信託(約110兆円)との比較では約1000分の1にすぎない。
 最大の理由は顧客の「懐具合」を見定め損ねたことだ。「資産運用に興味を持ちながらも、既存の証券会社などには近寄りづらいと感じている20~40歳代」をロボアド各社は主要顧客とみなす。こうした層が自由にできるお金は想定より少なく、月々の積立額を数千円程度に設定するケースも珍しくないという。ウェルスナビでは毎月の自動積立額が10億円に達するのに、サービス開始から1年かかった。
(以下略) 

以上がロボアドを取り巻く状況です。

では、ロボアドがターゲットとしている20~40歳代の「懐具合」はどのようなものなのでしょうか。

以下で確認していきましょう。

 

年代別の平均貯蓄額

まずは各年代別でどの程度の貯蓄があるのかについて確認してみましょう。

以下は二人以上の世帯を調査したもの(単身世帯が除かれている)ですので、日本全体を反映していることにはならないでしょうが、参考にはなるでしょう。

 

<世帯別平均貯蓄額>

全世帯の平均貯蓄額:1,812万円(うち負債517万円)

70歳代以上の平均貯蓄額:2,385万円(うち負債121万円)

60歳代の平均貯蓄額:2,382万円(うち負債205万円)

50歳代の平均貯蓄額:1,699万円(うち負債617万円)

40歳代の平均貯蓄額:1,074万円(うち負債1,055万円)

40歳未満の平均貯蓄額:602万円(うち負債1,123万円)

(出典 家計調査報告 貯蓄・負債編 平成29年(2017年)平均結果の概要
(二人以上の世帯)平成30年5月18日 総務省統計局)

 

読者の方の実感とは、ズレがあるかもしれません。

この全世帯の平均貯蓄額以下の貯蓄額の世帯が全体の3分の2程度を占めているとされていますので、一部の金持ち世帯が全体の平均額を押し上げていることは間違いないでしょう。

それでも、世代間の差は相応にあることは分かると思います。

 

年代別NISAの状況

先ほどは「ストック」について確認しました。

次に「フロー」について確認してみましょう。

各年代でNISA(Nippon Individual Savings Account、個人貯蓄口座、個人投資家のための税制優遇制度)にどのように取り組んでいるかについても参考となるでしょう。

 

<年代別NISA口座数(全証券会社対象、2017年9月末)>

80歳以上 10%

70歳代 21%

60歳代 23%

50歳代 16%

40歳代 15%

30歳代 11%

20歳代 4%

※20~40歳代の割合は合計で29.6%、192万口座

(出典 日本証券業協会 NISA口座開設・利用状況調査結果(平成29年9月30日現在)について) 

 

<NISAにおける年齢別買付額(割合)>

80歳以上 7%

70歳代 22%

60歳代 30%

50歳代 17%

40歳代 13%

30歳代 8%

20歳代 3%

※20~40歳代の割合は合計で23.8%

(出典 金融庁 NISA・ジュニアNISA口座の利用状況調査(平成29 年3月末時点))

 

この数値で分かるように NISAの利用状況を確認してもロボアドが対象とする20~40歳代は拠出割合が低いことが分かります。

 

個人型確定拠出年金の状況

NISAに加えて、iDeCo(個人型確定拠出年金)についても確認しましょう。

以下は、民間企業の会社員・公務員についてのiDeCoの加入者における「掛金(毎月の運用資金)拠出額の割合」です。

個人の懐具合、余裕度を確認するには良い数値かもしれません。

 

<iDeCo(個人型確定拠出年金) 年齢階層別掛金額別現存加入者数(第2号加入者、平成29年3月末)>

※第2号加入者=民間企業会社員・公務員

【50歳代】

掛金5,000~9,000円 13%

掛金10,000~14,000円 32%

掛金15,000~19,000円 7%

掛金20,000~23,000円 48%

【40歳代】

掛金5,000~9,000円 18%

掛金10,000~14,000円 37%

掛金15,000~19,000円 5%

掛金20,000~23,000円 40%

【30歳代】

掛金5,000~9,000円 26%

掛金10,000~14,000円 38%

掛金15,000~19,000円 4%

掛金20,000~23,000円 32%

【20歳代】

掛金5,000~9,000円 39%

掛金10,000~14,000円 41%

掛金15,000~19,000円 2%

掛金20,000~23,000円 18%

 (出典 国民年金基金連合会iDeCo(個人型確定拠出年金)の制度の概況確定拠出年金 年齢階層別掛金額別現存加入者数(第2号加入者、2017年3月末))

 

以上を見ると、今まで見てきた指標と少し異なる傾向があるように感じます。

すなわち、iDeCoでは30~40歳代で相対的に高い掛金を拠出しています。この割合は50歳代と差があるとはいえ、圧倒的な差とまではいえないでしょう。

 

所見

以上を踏まえると、一つの仮説が浮かび上がります。

<筆者の仮説>

  • ロボアドが対象としている20~40歳代はストック面(貯蓄額等)で余裕がない世代であることは間違いない
  • フロー面(所得のうち、資産運用に拠出可能な額)でも、高年齢世代よりも20~40歳代は余裕無し
  • ただし、iDeCoの掛金で示されているように、20~40歳代といえども必要な資金拠出は行う
  • すなわち、ロボアドが想定する対象世代の懐具合が厳しいのではなく、対象想定世代が間違っているのでもなく、サービスと費用(年1%程度の手数料)のバランスが日本においては見合わないのでサービスが広がらない

iDeCoは日本において最強の運用商品です(税金面を勘案)。

このiDeCoには相応の資金が流入しているのです。

低金利下の日本においては、高い運用利回りを期待できず、所得控除という形での税金面を勘案した総合的な運用利回りで考えた方が現段階では個人にとって有用です。

金利上昇傾向にある米国含めた他国とは状況が異なります。

米国であれば相応の手数料を取られたとしても、債券運用だけでも相応の利回り収益を確保できるため、運用結果が「プラス」となる可能性が高く、個人も手数料にシビアになりすぎないでしょう。

また、日本の20~40歳世代で、相応に投資を考えている人は、ロボアドに任せるのではなく、自分でアセットアロケーション(資産配分割合)、銘柄選択等を行う傾向にあるのではないでしょうか。

いずれにしろ、日本においてロボアドが普及していかないのは、20~40歳代の懐具合の問題ではないのではないかと筆者は考えています。