2018年7月6日にギャンブル依存症対策法が参議院本会議で可決・成立しました。
今後も統合リゾート法(IR法)は議論・話題となっていくでしょう。
ところで、カジノの誘致について前提になっていることがあります。
それはカジノを解禁したら、「カジノ業者が進出してくる」ということです。
カジノ業者は利益が獲得できるから進出してくるのでしょう。
しかし、確率の世界であるはずのカジノ業者は、どのように儲けているのでしょうか。カジノから莫大な金額を勝ち取る強運の持ち主が多数出現する時もあるのではないでしょうか。
今回は、カジノの基本的な仕組みについて、ルーレットを事例に見ていくことにしましょう。
ルーレットのルール
カジノには様々なゲームがありますが、王道の一つが「ルーレット」でしょう。カジノと聞いてルーレットをまず思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
ルーレットとは、赤と黒、および緑に色分けされたホイールの中にカジノディーラーが球を投げ込み、投げ込まれた球が「色・数字・グループ」のどこに落ちるかを予想して賭けて遊びます。
プレイヤーは、ディーラーが投げ込んだ球がどの箇所に落ちるかを事前に予想し、テーブルの数字が書かれているレイアウトにチップを置きます。
チップを置いた箇所に球が入ればプレイヤーの勝ちとなり、賭けた場所によって配当が付きます。
外れた場合は賭けたチップは全て撤収されます。
アメリカンタイプは、ホイールの中が1から36の数字に 0と00を加えたもの(回転盤を均等に38区分)、ヨーロピアンタイプは1から36の数字に0を加えたもの(回転盤を均等に37区分)となっています。
例えば、数字を的中させれば、賭けた金額の35倍が支払われ、賭けたチップも戻ってきます(=的中させれば36倍になって戻ってくる)。
これが簡単なルーレットのルールです。
ハウスエッジ(控除率)
Straight-Up(ストレート・アップ)=1点賭けとは、1つの数字に対して賭ける方法で、36個の数字と0を含んだ全てに対して賭けることができます。
ルーレットの賭け方の考え方は基本的に同じなので、今回はStraight-Upを前提に事例を考えます。
1点賭けは当たる確率が極めて低いため、当たると高配当が期待できます。
その配当率が上述の通り36倍となる訳です。
1から36の数字のうち1つを当てる確率は36分の1ですから、非常に公平なルールのように思えます。
しかし、ルーレット(アメリカンタイプ)の場合には、1から36の数字に「0」と「00」を加えた38個が母数になります。
すなわち、当たる確率は38分の1であるのに対して、配当(支払)は36倍なのです。
これはどのように考えれば良いのでしょうか。
以下、「プレイヤーがラッキーセブン(7)に1ドル」を賭ける事例(アメリカンタイプ)を考えてみましょう。
<事例>※小数点以下第3位四捨五入
- プレイヤーは、「7」が当たった場合、配当35ドル+賭け金返金1ドルの合計36ドルを獲得
- 7以外が出る確率は37/38(37÷38)であり、プレイヤーは賭け金1ドルを没収される
- 以上を計算式として表すと以下
- 7が出た場合は、1/38(当たる確率)×35(配当)=0.92
- 7以外が出た場合は、37/38(外れる確率)×▲1(賭け金没収)=▲0.97
- 0.92+(▲0.97)=▲0.05
- すなわち、1ドルを賭けると、賭け金の▲5%(▲0.05×100)の損失が発生し、0.95ドルが戻ってくる可能性が高い(期待値)といえる
以上のように、当たる確率と配当との間には約5%の差があるのです。
この「賭けるといくら損するか」、賭け金に対して期待される損失割合をハウスエッジ(控除率)と呼びます。
これが、カジノの利益の源泉なのです。
カジノは有利なルール(配当)を定めることによって利益を計上しているのです。
大数の法則
以上で試算したハウスエッジ(控除率)は、あくまで「理論上の確率」です。
しかし、サイコロを6回振って6回とも1が出ることがあるように(理論上はサイコロを6回振って1が出る回数=確率は1回)、理論上の確率通りに世の中は動きません。
よって、運の良い人はカジノで勝てるのです。
これは裏返すと、カジノ業者(胴元)も負けることがあるということです。
しかし、カジノ業者が「運が悪く倒産した」等の話題はあまり聞かないでしょう。むしろカジノ業者は「安定的に」利益を計上しているようです。
なぜ、カジノ業者は安定的に利益を計上できているのでしょうか。
それは、大数の法則によるのです。まずは定義を確認しましょう。
大数の法則
経験上の確率と数学的確率との関係を示す確率論の基本法則。観測回数に対するその事象の実現回数の割合(例えばさいころを n 回振って r 回一の目が出たなら n 分の r )は観測回数を多くすると計算上の確率(ここでは6分の1)に近づくという法則。
(出典 大辞林)
大数の法則とは、簡単に言えば「サイコロを何回も、無限に振っていけば、出る数字は理論上の確率に近づく」ということです。
カジノは、プレイヤー(賭ける人)単位で見ると負けたり、勝ったりしています。
しかし、多数のプレイヤーが多数の賭けを行うことによって、カジノが勝つ確率は理論上に近づいていくのです。
カジノが、巨大で、24時間営業、入場料無料、宿泊料金無料等のようにしているのは、このためです。
全ては、大数の法則を働かせるために、多数のプレイヤーと多数の賭け回数を生み出すためなのです。
これがカジノが利用している大数の法則です。
なお、大数の法則を利用しているのはカジノだけではありません。
金融業は大数の法則を利用してきた業界の筆頭でしょう。
例えば、生命保険会社が販売している死亡保険は、一定数の集団(被保険者の集団)が存在することが前提となっています。その集団のうちの「誰が死亡するか」ということは問題ではなく、その集団のうちの「何人が死亡するか」をある程度予測できれば、死亡保険は成立します。(出典 ライフネット生命ホームページ)
まとめ
アインシュタインは「そこから金を盗みでもしない限り、ルーレットテーブルで勝つことなど出来はしない(アルベルト・アインシュタイン)」との言葉を残したようです。
アインシュタインほどの天才であれば、プレイヤーがルーレットで長期的に勝てることはないと一瞬で見抜いたのでしょう。
以上見てきたように、カジノは高い確率で利益を計上できるビジネスモデルです。多数の人を集め、多数のプレイをしてもらえれば利益を上げることが可能なのです。
そして、カジノは多数の人を集める必要があるがゆえに、集客に工夫を凝らします。これは日本政府の戦略である海外からの旅行客数増加と利害が一致します。
統合リゾート法を成立させカジノを日本に進出させることは、日本にとって非常に重要な戦略と言えるでしょう。
なお、カジノの収益構造の基本について説明してきましたが、筆者はカジノで遊ぶことについては、そこまで否定的ではありません。
理由は、日本における他のギャンブル(パチンコ、競馬等)よりも、胴元(カジノ業者等)が「優しい」からです。
上記の通り、カジノにおけるルーレットの事例のようにカジノは5%程度しか胴元が持っていかないのに対して、競馬・競艇・競輪・オートレースは約25%が胴元の取り分となってしまっています。なお、宝くじ・TOTO(サッカーくじ)では約50%が胴元に取られます。パチンコは正確な数字が把握できませんが15%程度が胴元の利益と思われます。
カジノは薄利多売で収益を上げるビジネスとも言えるのです。他のギャンブルよりも、よほど「良心的」と言えるのではないでしょうか。
(ギャンブルについての詳細は以下の記事をご参照ください)