銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

最高裁判決(ハマキョウレックス、長澤運輸)の影響を考察する

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銀行員を含む会社員にとって、非常に影響のある最高裁の判決が出ました。

この判決は契約社員や定年後の再雇用者と正社員との待遇格差についてのものです。

特に銀行には契約社員も多く、再雇用の問題もあります。

今回は、この最高裁判決について考察します。

 

契約社員における判決

まず、契約社員についての待遇格差が争点となった最高裁判決を確認します。

以下、新聞記事を引用します。

 

一部手当の格差は不合理と認める 最高裁判決
毎日新聞 2018年6月1日

正社員だけに支給される手当があるのは労働契約法が禁じた「不合理な格差」に当たるとして、浜松市の物流会社「ハマキョウレックス」の契約社員が6種類の手当の差額分の支払いなどを求めた訴訟の上告審判決が1日、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)であった。小法廷は4種類の手当の格差を不合理とした2審・大阪高裁判決を支持した上で、高裁が「皆勤手当」の格差を合理的だとした部分を破棄し、審理を同高裁に差し戻した。
正社員と契約社員の格差是正は最高裁でさらに進んだ形だ。一方で「住宅手当」については、同社では正社員は転勤があり、契約社員にはないことから「労働条件の違いは不合理とは言えない」として高裁の結論を維持した。
2013年施行の改正労働契約法は20条で、正社員のような無期雇用労働者と嘱託社員や契約社員のような有期雇用労働者の労働条件の差について(1)仕事の内容(2)異動や配置変更の範囲(3)その他の事情--を考慮して「不合理と認められるものであってはならない」と規定している。
原告の運転手男性は、住宅、通勤など6種類の手当について「正社員にだけ支払うのは不合理だ」などと会社を訴えていた。1審・大津地裁彦根支部は15年、6種類の手当のうち通勤手当の差額のみを不合理と認定。大阪高裁は16年、無事故・作業・給食・通勤の4種類の手当について「不合理な格差だ」と認定して会社側に約77万円の支払いを命じていた。
(中略)
【ことば】労働契約法20条
2013年に施行された。正社員のような無期雇用労働者と、非正規の嘱託社員や契約社員のような有期雇用労働者の労働条件の差について(1)職務の内容(2)異動や配置変更の範囲(3)その他の事情--を考慮して「不合理と認められるものであってはならない」と規定する。現在、国会で審議されている働き方改革関連法案では労契法から削除され、パートタイム労働法に盛り込まれる方向で条文の表現も変更される。

もうひとつ記事を引用します。

「労契法違反の格差は無効」最高裁初判断 4手当の格差「不合理」判断が確定 ハマキョウレックス訴訟 2018.6.1 産経新聞

正社員と契約社員の手当に格差を設けることが労働契約法20条が禁じた「不合理な格差」にあたるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)は1日、「労契法20条に違反する不合理な格差を定めた有期労働契約は無効」との初判断を示した。その上で2審大阪高裁判決で皆勤手当について原告の請求を認めなかった部分を破棄し、審理を高裁に差し戻した。
同小法廷は手当ごとに合理性を検討。無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当の格差は、2審を支持し、「不合理」とする判断が確定した。住宅手当の格差は「正社員は転居を伴う配転が予定されており、契約社員と比べて住宅にかかる費用が多額となる」として、2審に続き「不合理とはいえない」とした。
差し戻された皆勤手当は、2審が「不合理とはいえない」と判断したが、同小法廷は「出勤者を確保する必要性は、職務の内容によって差異が生じるとはいえない」と指摘した。
労契法20条は有期労働者と正社員の待遇の格差について、「不合理であってはならない」と規定。判断要素として(1)業務の内容や責任の程度(2)職務の内容や配置変更の範囲(3)その他の事情-を挙げている。
原告男性は運送会社「ハマキョウレックス」(浜松市)の契約社員として配送業務を担当。正社員に支払われる手当と格差があるのは不当として、差額の支払いなどを求めている。
1審大津地裁彦根支部は、契約社員のみ通勤手当に3千円の上限が設けられているのは不合理と判断。1万円の支払いを命じた。
2審は、無事故手当など4種類は契約社員にも支払われるべきだとして認容額を77万円とした。

これが、正社員と比べた契約社員の格差にかかる最高裁判決の概要です。

 

嘱託社員に関する判決

次に定年退職となり再雇用された嘱託社員の待遇格差についての最高裁判決が出ました。

こちらについても分かりやすいので、新聞記事を引用します。

 

精勤手当支払い命令 運送会社の嘱託社員へ
毎日新聞 2018年6月1日

定年後の再雇用で賃金を減らされたのは労働契約法が禁じる「不合理な格差」に当たるとして、横浜市の運送会社「長沢運輸」で働く嘱託社員3人が正規社員との賃金差額を支払うよう求めた訴訟の上告審判決が1日、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)であった。
最高裁は「労働条件の差が不合理か否かの判断は賃金総額の比較のみではなく、賃金項目を個別に考慮すべきだ」との初判断を示した上で、賃金項目を個別に検討。全営業日に出勤した正社員に支給される月額5000円の「精勤手当」について、嘱託社員に支給されない点を「不合理」と判断し、この部分の2審・東京高裁判決(2016年11月)を破棄。会社に対し、相当額の5万~9万円を3人に支払うよう命じた。
その他の基本給や大半の手当については、3人が近く年金が支給される事情などを踏まえ、格差は「不合理ではない」として請求を退け、精勤手当に連動する超勤手当の再計算の審理のみを同高裁に差し戻した。裁判官4人全員一致の意見。
訴えていたのは、63~64歳の男性3人。正社員時代と仕事内容が全く同じなのに、定年後に年収が2~3割減らされたとして14年に提訴。1審・東京地裁判決(16年5月)は「仕事内容が同じなのに賃金格差を設けることは、特段の事情がない限り不合理だ」として会社側に計約415万円の支払いを命じた。これに対して高裁判決は「企業が賃金コスト増大を避けるために定年者の賃金を引き下げること自体は不合理とは言えない」と指摘し、請求棄却を言い渡していた。

こちらももうひとつの記事を引用します。

最高裁 定年後の再雇用、賃下げは「賃金項目ごとに判断を」 一部差し戻し〈長澤運輸〉2018年06月01日 弁護士ドットコムニュース

定年退職後に再雇用された非正社員の待遇格差をめぐる訴訟で、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)は6月1日、正社員と非正規社員の賃金格差が不合理かどうかは、「各賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」とする初判断を示した。
その上で、精勤手当については「労働条件の相違は不合理である」と支払いを命じたが、能率給や職務給など給与や賞与、住宅手当や家族手当などの諸手当は認められなかった。また、精勤手当を入れた時間外労働手当(超勤手当)の具体的な計算については、東京高裁に差し戻しを命じた。
原告側代理人の宮里邦雄弁護士は「精勤手当が認められた点は東京高裁判決よりもましだが、非常に残念な判決だ」、原告の男性3人は「非常に残念」「どうしても受け入れられない」「悔しいの一言」と話した。
●これまでの経緯
この裁判は、横浜市にある運送会社「長澤運輸」の男性社員3人の上告審。3人は2014年にそれぞれ定年退職した後、同社に有期雇用の嘱託社員として再雇用された。セメントをトラックで運ぶという正社員時代と同じ仕事内容にもかかわらず、賃金を3割近く引き下げられたとして、同年提訴した。
労働契約法20条は正社員(無期契約労働者)と非正社員(有期契約労働者)との間で、不合理な労働条件の違いを禁止している。格差の合理性については、(1)業務の内容や責任の程度(2)内容や配置の変更の範囲(3)その他の事情ーーの3要素を考慮して判断する。ただ、具体的にどのような格差が不合理かは解釈の問題となっていた。
この規定をめぐり、男性側は「熟練の乗務員を新入りより安く働かせることが不合理であることは明らか」と主張。会社側は「不合理な格差を解消しようとするものであって、雇用形態の異なる無期労働契約と有期労働契約の同一待遇を保障しようとするものではない」などと反論していた。
一審の東京地裁は、「仕事の内容は正社員と同一と認められる。特別な理由もなく、賃金格差があるのは違法だ」と判断し、会社側に対して正社員と同じ賃金を支払うよう命じた。
二審の東京高裁も、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁じた「労働契約法20条」が、定年後の再雇用にも適用されると判断。一方で、「定年後の再雇用において、一定程度賃金を引き下げることは広く行われており、社会的にも容認されていると考えられる」などとして、同法に違反しないと判断。原告が逆転敗訴していた。

 

最高裁判決とは

最高裁判所(最高裁)は、日本において司法権を担当する国の最高機関です。

最高裁は、日本国内の裁判事件の、上告及び訴訟法が定めている抗告について、最終的な判断を下し、法令解釈の統一を図る権限を持っています。

裁判は、その内容によって、主に簡易裁判所か地方裁判所あるいは家庭裁判所のいずれかから始まりますが、第一審の裁判に納得がいかないときには、上級の裁判所に不服を申し立てること(控訴等)ができます。そしてその裁判所に憲法の違反があるときなどには、さらに上級の裁判所に不服を申し立てること(上告等)ができます。

最高裁判所は、終審の裁判所ですから、その裁判は最終のものとなります。

すなわち、法律が変わらなければ、最高裁の判決が判例として、法律と同じような効力を持つことになります。

 

判決の影響

以上確認した二つの判決は、銀行員を含む会社員にとって非常に重要な意味を持ちます。

銀行を例に挙げれば、銀行には多数の契約社員が働いています。

この契約社員の待遇は正社員とは異なっていることが多いものと思われます。

今回の最高裁判決では、ドライバーの事案でしたが、無事故・作業・給食・通勤・皆勤の手当を正社員がもらっているのに、契約社員がもらえないのは認められないとしました。

格差が認められたのは住宅手当のみであり、正社員のみに転勤があるためとされています。

すなわち、手当の面では、契約社員と正社員に格差を設けることは、合理的な理由がない限り、かなりの確率で認められないということになるのです。

近時は銀行でも一般の企業でも手当は廃止されたり少なくなっているところが多いでしょう。

しかし、もし何らかの手当が正社員にのみ残っているのであれば、企業側は契約社員にも同じ手当を支給するか、手当自体を廃止するかを選択していくことなるということなのです。

例えば、家族手当はどうでしょうか。

近時は、能力や働いた成果に応じた給料・役職を用意し、能力・成果に関係ない手当を企業が廃止する流れにはあります。

しかし、家族がいる従業員に手当を支給している企業は相応に残っているのではないでしょうか。

このような家族手当は、家族を持つ契約社員に支給されていないのであれば、合理的な格差と認められるでしょうか。

企業側は、これを機に家族手当のような手当を無くす動きに出るのではないかと筆者は予想しています。

いずれにしろ、正社員と契約社員、無期雇用と有期雇用、正規と非正規、このような雇用形態の違いで手当に差をつけるのは非常に難しくなったということになります。

これは、日本政府が進める同一労働同一賃金の概念にも沿ったものということになるのです。

もう一つの判決は、関係者を安堵させたり、落胆させたりしたものとなりました。

すなわち、定年退職後の嘱託社員は、正社員と同じ仕事をしていても、給料の格差を設けても違法ではないと判断されたのです。

これは企業側にとっては非常に良い判決といえます。

現状に則しているからです。

通常の企業は、定年を60歳とし、定年後は65歳まで嘱託社員等として再雇用をしています。そして再雇用時の給料は正社員時代に比べて格段に低くなっている事例が多いでしょう。

この取り扱いが問題ないとお墨付きを得たのです。

企業経営者にとっては一安心というところでしょう。

一方で、従業員側にとっては厳しいものとなりました。

今後も年金の支給年齢は上昇していくことが想定されますし、貯蓄がない世帯の増加、年金額の実質的な低下等が想定される以上、できる限り長く働かざるを得ない国民は増えていくものと思われます。

その際に、定年後であったとしても同一の仕事をしていれば、同一の賃金が払われるのであれば生活への不安は改善されるでしょう。

しかし、この判決では、その不安改善は叶いませんでした。

一方で、この判決は現状を追認したことにより、高齢者の雇用を「守る」効果はあるともいえるかもしれません。

あくまで現状追認ではありますが、60歳以上の労働者を低い賃金で雇用できるため、企業側にとってはコストアップとはなりませんでした。

なお、銀行員は50歳を過ぎると出向となる可能性が多い職種です。

また、55歳では通常だと役職定年となり、銀行本体に残っていても給料は大幅に減額されます。

今回の判決は定年後の再雇用者を対象とした判決ではありますが、判決の主旨を鑑みると、銀行のこのような給与制度も問題ないとされそうに筆者は感じます。

昨今のメガバンクのリストラ報道等を勘案すると年齢の高い銀行員にとっては厳しい時代が続くのでしょう。