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RIZAPは投資家にコミットしていけるのか(2018年3月期決算分析)

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(※画像は本文とは関係ありません)

RIZAPグループの拡大が続いています。

表面上好調な決算に加え、カルビーの会長だった松本氏を代表取締役COOに迎えることを発表し、さらに350億円強の増資も実施することになりました。

RIZAPグループは、2012年3月期決算では売上高134億円でしたが、2018年3月期決算では売上高1,362億円と6年で10倍の売上高となっており、急激に成長を続けています。

同様に営業利益も2012年3月期決算の9億円から、2018年3月期では135億円と、約14倍になっています。

この急激な成長は経営者の能力が優れているからであることは間違いないのかもしれません。しかし、その成長の内容はどのようなものなのでしょうか。

RIZAPの成長について今回は考察します。

 

RIZAPグループ決算概要

RIZAPグループの2018年3月決算について最初に概要を確認しておきましょう。

以下は株探ニュースの抜粋です。 

RIZAPーG---好決算を受け4月戻り高値を目指す展開 

2018年05月18日 株探ニュース

RIZAPグループ<2928>は、2019年3月期は売上収益2500億円(前期比+83.6%)、営業利益230億円(同+69.2%)と大幅な増収増益を計画している。配当は12.51円(前期7.30円・配当性向20.0%)に増配予定。300点以上のグループ商品から自由に選択可能な株主優待も継続する。

RIZAP関連事業の高成長に加え、新たに舵を切ったスポーツ・フード分野の本格展開、またM&Aにも引き続き注目が向かう。
決算期が異なるイデアインターナショナル<3140>を除いた上場子会社8社の営業利益は、前期16.49億円→今期41.20億円へと急拡大する見通しだ。

 もう一つ、フィスコが公表しているレポートも引用しておきます。

【本決算レポート】RIZAPグループは今期1.7倍の大幅増益予想!高成長を続ける理由とは?(フィスコ飯村真由)

(中略)

★【前期2018年3月期業績】

★◇売上収益:1362.01億円(前期比+42.9%)。6期連続増収、過去最高を達成!◇営業利益:135.90億円(同+33.1%)。5期連続増益、過去最高を達成!今後の飛躍的な成長のために91.5億円の先行投資を行ったうえで、利益面は計画を上振れて着地しています。

それに伴い、配当を従来予想6.29円→7.30円(配当性向20.1%)に引き上げることを発表しました。

★【今期2019年3月期業績予想】★◇売上収益:2500億円(前期比+83.6%)◇営業利益:230億円(同+69.2%)と、大幅な増収増益を計画しており、配当は12.51円(配当性向20.0%)に増配予定です!同社の成長は、主にRIZAPボディメイク事業、新規事業、M&Aの3つに分けられます。★【RIZAPの高成長が続く】★2012年2月にスタートしたRIZAPボディメイクの累計会員は今年2月、ついに10万人を突破しました。

シニア層の会員獲得に力を入れていますが、梅沢富美男さんのCM効果は大きく、中高年(55~64歳)の方からの問い合わせが2.64倍になったそうです。

また、短期的なサービス(2ヶ月で実現するボディメイク)に留まらず、生涯寄り添うサービスへとビジネスモデルの進化を遂げたことで、収益構造が大きく変わりました。

理想の体型になった後の継続的なサービスである生活習慣改善プログラム「BMP(ボディマネジメントプログラム・月額29,800円)」の申し込み率は8割を超えており、広告宣伝費を伴わない売上が増加しているのです。

RIZAP関連事業の店舗計画(国内外)は前期末149→今期末200店舗以上に拡大予定。同関連事業は今期、売上収益1.5倍・営業利益2倍を見込んでいます。

(中略) 

★【M&A】★今年3月末、新たにワンダーコーポレーション<3344>を子会社化し、上場子会社は9社となりました。

子会社は事業軸・機能軸の2つに分かれており、その連携によりグループ全体を成長させていくというご説明が非常にわかりやすかったです。

◇事業軸:「自己投資産業」の事業領域拡大(過去2年間にM&Aを行った上場子会社では・・・マルコ<9980>、パスポート<7577>、ジーンズメイト<7448>、堀田丸正<8105>等)◇機能軸:「バリューチェーン」別のグループ経営基盤強化(過去2年間にM&Aを行った上場子会社では・・・「素材開発・調達」として堀田丸正。

「企画・生産・マーケティング」を担う1社として、プロモーション機能を内製化できる地域密着メディアのぱど<4833>等。「販売・サービス等」を担う役割として、好立地でありながら不採算となっていた店舗をグループ企業の別店舗へと転換することでグループ全体の店舗基盤強化をもたらすワンダーコーポレーション等)決算期が異なるイデアインターナショナル<3140>を除いた上場子会社8社の営業利益は、前期16.49億円→今期41.20億円へと大幅に拡大する見込みとなっています。★【中期経営計画「COMMIT2020」】★2021年3月期に売上収益3000億円、営業利益350億円の達成を目標としています。中期経営計画の発表から3年が経ち、中間振り返りとして基本戦略の進捗状況と今後の重点方針が伝えられました。

 (以下略)

いずれにしろ、急激な成長について説明がなされているというところでしょう。 

 

RIZAPの更なる戦略

RIZAPは2018年5月28日にカルビーの松本会長を代表取締役COO(最高執行責任者)に招聘しました。

https://www.rizapgroup.com/pdf/ir/doc/2928/tdnet/0000006/00.pdf

日本における有名なプロ経営者がRIZAP入りしたということで大きなニュースにもなりました。

そして松本氏の入社発表当日に新たな増資の発表も実施しました。

増資の概要は以下の通りです。 

 

<2018年6月に実施する増資による投資先>

増資による手取概算額35,541百万円

① RIZAP 関連事業への成長投資

  • 投資額 23,100百万円
  • 支出予定時期 2018 年7月~2021 年3月

② グループシナジー強化のための共通経営基盤への戦略的投資

  • 投資額 6,100百万円
  • 支出予定時期 2018 年7月~2020 年3月

③ 財務体質強化のための借入金返済

  • 投資額 6,341百万円
  • 支出予定時期 2018 年7月~2020 年3月

(出典 RIZAPグループホームページ)

http://ssl.eir-parts.net/doc/2928/tdnet/1598397/00.pdf

 

RIZAPは松本氏という経営者を迎えると同時に大型増資も成功させ、次の成長のステージを開始することになりました。

 

RIZAPの2018年3月期決算分析

上記にRIZAPグループの業績についての報道等を掲載していますので、グループの決算概要には本項目ではあまり触れません。

しかし、重要なポイントがありますので、その点について以下確認しておきます。

連結決算ハイラト

1. 売上収益 6期連続増収、過去最高を達成(前期比 143 %)
2. 営業利益 5期連続増益、過去最高を達成(前期比 133 %)
3. 前期の先行投資効果により、 2019 年3月期は大幅増収益へ

・売上収益 2,500億円(対前期 +1,137億円、前期比 184% )

・営業利益 230 億円(対前期 +94 億円 、前期比 169% )

(出典 RIZAPグループIR資料)

成長に苦しんでいる企業が多い中で凄まじいスピードで成長を続けています。売上高の成長に利益の成長も伴っていますので、表面的にみれば問題ない決算といえます。

RIZAPグループは小型・中型のM&Aを繰り返してきた企業です。このM&Aで発生した「のれん」はRIZAPの財務安定性を脅かす可能性がありましたが、2018年3月期には子会社の増資の影響もあり、のれん=7,820百万円、資本合計=42,883百万円、のれん/資本=18.2%(前年同期は29.3%)となり、財務の安定性も増しています。

そして、M&Aにより膨らんでいた有利子負債についても、今回の新たな増資により一部返済を行うことを表明し、財務体質の問題は現時点では問題視されなくなったと言って良いでしょう。

しかし、RIZAPグループの近年の業績伸長には、新しい手法ともいうべきものを利用しているという裏があります。

その手法とは、M&Aに伴う「割安購入益」の計上です。

RIZAPグループはIFRS(国際会計基準)を導入しており、国内基準で言えば「割安購入益」は「負ののれん」のことを指します。

同社は今まで、一株当たりの純資産額以下という割安価格で企業を買収してきましたので、「負ののれん」が計上されていました。

<負ののれん>
のれんは、企業を買収した際に、取得原価が、資産と引き受けた負債の純額を上回る際に資産の部に無形固定資産として計上されます。
逆に、取得原価が、資産と引き受けた負債の純額を下回る際には、「負ののれん」として負債の部に計上されます。
出典 第一生命ホームページ
http://www.dai-ichi-life.co.jp/support/glossary/term0153.html

割安購入益とは、読んで字のごとく、企業を割安で購入した利益です。

イメージとしては、安い価格で知り合いから譲り受けた自動車が、ネットでは購入価格以上で売買されているとします。この場合、自分が保有する自動車がネットの売買金額で売れるという想定のもと、実際には売買していなくとも利益を獲得したとみなしておくようなものです。

この割安購入益を、具体的数値で見ていくと以下の通りとなります。

  • 2016年3月期 営業利益31億円 うち、割安購入益0億円
  • 2017年3月期 営業利益102億円 うち、割安購入益59億円
  • 2018年3月期 営業利益136億円 うち、割安購入益74億円

これは何を意味しているのでしょうか。

すなわち、2017年3月期からはRIZAPは投資家の受けが良いように決算の作り方、誤解を恐れずに言えば「合法的な粉飾の仕方」を学んだのです。

RIZAPは業績が悪くても財務内容自体は良い割安な企業を次々と買収、その買収によって一時的(買収の決算期のみ計上)に営業利益をかさ上げしています。

この業績を、投資家や企業経営者(M&Aで買収される側)、証券会社、銀行等に見せることによって「M&A案件が次々と持ち込まれるようになり」「借入も円滑に行われ」「財務内容が悪化しつつある場合には増資も可能」となったのです。

この流れは、RIZAPグループに勢いがある時は問題が表面化しません。投資家はRIZAPグループのM&Aの上手さ、およびグループ入りした企業へのマネジメントの巧みさを信用しているからです。

しかし、一度でも投資家等からRIZAPが信用を失うことが起きれば、この流れは逆転します。

特にポイントとなるのはキャッシュフローを確保することと、M&Aで手に入れた企業の業績改善です。

これが上手くいかなければ、M&Aは持ち込まれなくなり、会計上の利益がかさ上げ出来なくなる(毎年、割安の企業を買収しないと割安購入益が計上できない)ので、銀行からは借入がしづらくなり、当然のように投資家からの増資も難しくなるという連鎖に陥ります。

このような事態はしばらくは起きないかもしれません。

大物経営者を迎え入れ、RIZAPグループはさらに飛躍するかもしれません。

こればかりは筆者には分かりません。

しかし、筆者は一つの数値が気になっています。

  • 2017年3月期 営業CF 1.8億円
  • 2018年3月期 営業CF 0.9億円 

これがRIZAPグループの決算における営業キャッシュフロー(CF)です。

営業利益が100億円超の企業で、営業CFが2億円未満というのは、どう考えれば良いでしょうか。

事業は結果としては現金が入ってこなければ成り立ちません。

しかし、RIZAPは現金を稼ぐ力が弱いようなのです。

現在は、成長途上なので営業(売掛)債権や棚卸資産の増加により営業CFが少ない(=先行投資)という説明を、おそらく会社側はするでしょう。

フィットネスジムのような業態では、先に契約を行い(=営業債権発生)、これに伴い利益を計上することもあり得るでしょう。ただし、会員からの入金は後払い(分割等)なのです。途中での解約も可能となっていることもあり得ます。

筆者はRIZAPは上記のように利益だけが先に計上されている状態であろうと想定しています。

すなわち、RIZAPはとにかく会計制度を巧みに活用して、「自身を大きく見せている」可能性が高いと考えています。

いつかこの問題がRIZAPに何らかの営業を及ぼさないか、今後も注視していく予定です。

 

なお、2017年12月にRIZAPの中間決算をベースに分析を行っています。

こちらも併せてご参照ください。

www.financepensionrealestate.work