銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

「現金取扱」こそ地銀にとっての強み~間違えてはいけないもの~

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銀行の店舗閉鎖、ATM他社委託、各種手数料の引上等のニュースが相次いでいます。

この動きは、銀行が預貸(預金金利と貸出金利の差額で儲ける)業務では利益が確保できなくなってきている影響です。

銀行は、人手がかかる現金の取り扱いを少しでも減らしていこうとしています。

確かに、今後の世の中はキャッシュレス化していくことは間違いありません。中央銀行(日本でいえば日本銀行)ですらデジタル通貨の議論をしているほどです。

中国ではキャッシュレス化が急激に起こり、今やキャッシュは日常生活にほとんど不要となったとまでいわれています。

しかし、店舗やATM網を銀行が削減して本当に問題はないのでしょうか。

今回は、この銀行の相次ぐコスト削減策が、銀行自身にどのような影響を及ぼすのか、特に地方銀行(地銀)について簡単に考えてみたいと思います。

最近の報道 

最近相次いでいるニュースを以下確認しておきましょう。

NHKニュース 4月29日 4時29分

長引く低金利などで収益が低下する中、大手銀行では両替や住宅ローンの繰り上げ返済の手数料を引き上げる動きが相次いでいます。

「三菱UFJ銀行」は、これまで、紙幣や硬貨の両替手数料を50枚まで無料、500枚までを324円としてきましたが、4月から原則として500枚まで540円に引き上げました。両替の手数料は、「三井住友銀行」が去年5月、「みずほ銀行」もことし1月にそれぞれ引き上げました。

また「みずほ銀行」は4月から変動型の住宅ローンを借りている利用者などを対象に、ローンの繰り上げ返済を店舗や電話で手続きする際の手数料を引き上げました。これは、長引く低金利などの影響で収益が低下しているためで、大手銀行にとどまらず地方銀行の間でも、振込や両替にかかる手数料を引き上げる動きが相次いでいます。

アメリカやヨーロッパの銀行では預金口座の維持にかかる費用を手数料として取るところもありますが、日本の大手銀行は、「利用者の理解が得られにくい」などとして口座維持手数料の導入には慎重な姿勢です。

大手銀行で手数料の引き上げ相次ぐ | NHKニュース

両替手数料の引き上げは、銀行窓口等へ顧客が訪れる数を間違いなく減らすでしょう。 

三菱UFJ、窓口店舗半減 23年度までに 有人の「従来店」を「セルフ型」へ 2018/4/28 日経新聞

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は店舗網を抜本的に見直す。2023年度までに、傘下の銀行では窓口で行員が接客する店舗を現状の約515店から半減させる。店舗を大きく従来型、銀行や信託銀行、証券会社との共同店舗、セルフ型の3つに分ける。人口減やデジタル技術の進展を踏まえ、銀行の「顔」だった店舗の位置づけを大きく変える。

(以下略)

窓口店舗半減という戦略もキャッシュレス化の進展が前提にある戦略です。

あおぞら銀 ゆうちょATMに全て転換 自前は廃止 毎日新聞

ゆうちょ銀行は28日、あおぞら銀行の全店舗にゆうちょ銀の現金自動受払機(ATM)を導入すると発表した。あおぞら銀は自前のATMを廃止する。ゆうちょ銀は低金利の長期化で手数料ビジネスの強化を掲げており、ATMの管理コスト削減を目指すあおぞら銀と利害が一致した。8月27日から順次実施する。

(以下略)

あおぞら銀行の自行ATM廃止はあくまでアウトソースということですが、あおぞら銀行のような店舗網が少ない銀行はともかく、地銀で同様の動きが出てくる可能性も当然にあり得ます。

店舗内店舗 増えてます 地銀・信金 経営合理化、客の不便は最小限

北陸経済ニュース 2018年4月6日

一つの店 実は複数店併設 

 北陸三県の地方銀行や信用金庫で、一つの店に複数店を併設する「店舗内店舗」の導入が広がっている。二日には、のと共栄信金(石川県七尾市)が同県内の信金で初めて、ともに金沢市の金沢南支店を久安支店内に移した。日銀のマイナス金利政策などで金融機関の経営が厳しさを増す中、経費削減や人員捻出を図る手法として今後も増えそうだ。 (平野誠也)

 店舗内店舗はメガバンクから普及し始めたとされる。信金中央金庫地域・中小企業研究所(東京)が二〇一六年にまとめたリポートによると、銀行合併で膨らんだ店舗網を効率化するため約二十年前に導入した。

 金融機関は低金利や人口減少で収益が低迷。インターネットバンキングや現金自動預払機(ATM)網の拡充で来店者も減少傾向にある。ただ、店舗の統廃合は顧客への影響が大きい。これに対し、店舗内店舗は既存店を存続させたまま一カ所に集約するため、顧客は通帳やキャッシュカードをそのまま使える。

 北陸銀行(富山市)は一~二月に順次、市内の本支店三カ所に三つの出張所を店舗内店舗として移した。効率化のため同行が〇六年に始めた店舗内店舗は、全百八十七店のうち出張所を中心に十六店に増えた。担当者は「ハードの(経費削減の)観点で効果は出ている。人員を有効に配置するメリットもある」と語る。

北国銀行(金沢市)は、ピーク時から現在までの約二十年間で三分の二の百五店に統廃合してコスト体質を強化してきた。ただ、統廃合で「店名や口座番号の変更が必要となり、法人客を中心に不便を掛けた反省」(担当者)もあり、最近は店舗内店舗も導入。三月下旬には市内の犀川中央支店内に増泉支店を移した。富山銀行(富山県高岡市)や福井銀行(福井市)などでも導入が相次ぐ。

 信金では、一七年九月に富山信金(富山市)が丸の内支店内に五福支店を移転。のと共栄信金はこれも参考にしており、担当者は「限られた人員と資源の中で経営基盤を拡大させなければならない。店舗内店舗の利用価値はある」と話す。

影響 慎重な見極め必須

 店舗内店舗の導入には、顧客への影響を最小限に抑えて理解を得ることが欠かせない。店の移転で利便性が大きく低下したり、接点が薄れたりしないよう慎重に対応することが重要だ。

 移転した店の跡地では建物やATMを当面の間、継続して利用できるようにする例が多い。北陸銀によると、顧客から「なぜ移転するのか」との声が寄せられることもあり、担当者は「お客に十分配慮する必要がある」と話す。

 信金中金地域・中小企業研究所のリポートでは「地域密着を経営の柱に据える信金は経済合理性だけで店舗を廃止しにくい」とし、非営利の協同組織の信金にとって、店舗内店舗は効率化の「手法の一つとして有効」と指摘する。

 ただ、実際はそう簡単ではないとの見方もある。北陸のある信金幹部は「信金は高齢のお客が多く、窓口でお金を下ろすお客も多い」と強調。拙速に導入すれば主要な顧客の反発を招きかねないとみて、対応を注意深く検討する構えだ。

 店の規模や立地状況次第では、対象となる店の組み合わせが限られることも課題とされる。

店舗内店舗 増えてます 地銀・信金 経営合理化、客の不便は最小限:北陸経済ニュース:北陸中日新聞から:中日新聞(CHUNICHI Web)

 メガバンクの店舗削減と同様に店舗内店舗方式等で地銀等も店舗削減をしていく可能性は高くなってきています。
顧客利便性をある程度確保しながら、店舗を減らしていく方策として、店舗内店舗方式は今後も増加していくでしょう。
以上が直近の報道記事です。

銀行はどのような理由で選ばれるのか

今までは銀行側の事情によるリストラの事例・報道をみてきました。
しかし、銀行には利用者=預金者が存在します。
預金者がどのように銀行を選択しているのかが、実は最も大事なのです。
ここでポイントとなるのが金融広報中央委員会における調査です。
以下で確認してみましょう。

金融機関の選択理由:「二人以上」世帯

調査で、回答=「近所に店舗やATMがあるから」を選択した人の割合が以下。なお、3つまでの複数回答可。 
1992年  76.0%
1993年  73.4%
1994年  76.4%  

1995年  78.1%  

1996年  72.8%  

1997年  73.2%  

1998年  73.8%  

1999年  78.5%  

2000年  78.3%  

2001年  78.0%  

2002年  80.4% 

2003年  78.7%  

2004年  76.9%  

2005年  75.6%  

2006年  78.7%            

2007年  76.8%  

2008年  78.7%  

2009年  80.0%  

2010年  79.3%  

2011年  80.5%  

2012年  79.9%  

2013年  77.9%  

2014年  79.9%  

2015年  78.5%  

2016年  79.0%  

2017年  79.2% 

これで見る限り、金融機関を選択するのは「近所に店舗やATMがあるから」という回答が多く、しかもその理由の割合は長年変わっていません。

なお、他選択肢は以下となっています(2017年単年)。

  • 店舗網が全国的に展開されている=27.3%
  • インターネットによるサービス・取引などが充実している=9.7%
  • 金融商品の品揃えが豊富で選択の幅が広いから=2.0%
  • より収益性の高い金融商品を販売しているから=2.7%
  • 各種手数料が他の金融機関より割安だから=9.8%
  • 金融アドバイザーとしての相談窓口が充実しているから=3.6%
  • 経営が健全で信用できるから=26.5%
  • 勧誘員が熱心で印象が良いから=2.9%
  • テレビCM、ポスター、キャラクター商品などの引用が良いから=1.1%
  • 営業時間が長かったり、土日に営業しているから=6.8%
  • 個人向けローンが充実しているから=1.7%
  • その他=12.2%

すなわち二人以上の世帯では、この調査を見る限り、預金者にとって近所に店舗・ATMが存在することが最も重要なのです。

金融機関の選択理由:単身世帯

調査で、回答=「近所に店舗やATMがあるから」を選択した人の割合が以下。なお、3つまでの複数回答可。

2007年  73.8%     

2008年  74.1%     

2009年  73.2%     

2010年  73.2%     

2011年  69.0%     

2012年  67.6%     

2013年  62.5%     

2014年  60.2%     

2015年  63.7%     

2016年  59.0%     

2017年  61.0%      

この通り単身世帯の金融機関の選択割合は、 この10年程度の間に10ポイント以上低下しています。

一方、他選択肢は以下となっています(2017年単年)。

  • 店舗網が全国的に展開されている=26.7%
  • インターネットによるサービス・取引などが充実している=28.2%
  • 金融商品の品揃えが豊富で選択の幅が広いから=3.4%
  • より収益性の高い金融商品を販売しているから=4.2%
  • 各種手数料が他の金融機関より割安だから=13.4%
  • 金融アドバイザーとしての相談窓口が充実しているから=2.3%
  • 経営が健全で信用できるから=13.0%
  • 勧誘員が熱心で印象が良いから=0.8%
  • テレビCM、ポスター、キャラクター商品などの引用が良いから=0.9%
  • 営業時間が長かったり、土日に営業しているから=3.3%
  • 個人向けローンが充実しているから=1.4%
  • その他=17.9%

単身世帯は、二人以上の世帯ほどには「近所に店舗・ATMがあること」を重視していませんが、それでも過半数は「近所に店舗・ATMがあるから」金融機関を選んでいるのです。

単身世帯は、インターネットでのサービスを重視する割合は高いですが、それでも現時点では3割弱なのです。

 

出典 金融広報中央委員会調査 家計の金融行動に関する世論調査「知るぽると」

家計の金融行動に関する世論調査|知るぽると

 

以上が金融機関が利用者から選択される理由です。これは厳然たる事実と言わざるを得ません。

日本における現金の重要性

次に日本における現金の重要性についてみていきましょう。

いくら利用者が近所に店舗・ATMがあることを金融機関(銀行)の選択理由としたとしても、現金が重要でなければ(使われなければ)、店舗やATM網の充実は意味がないからです。

以下はニッセイ基礎研究所のレポートです。キャッシュによる決済比率がまとめられていますので引用します。

一般的に日本人は現金決済を好む傾向があると指摘されることが多いが、2016年の現金決済の割合は約49%で、個人消費の半分以上が現金を用いない方法で行われるようになっている(図表1)。2011年との比較で見ると、現金決済の割合が7%減少しているが、この背景としてクレジットカード(+4.6%)、プリペイド・電子マネー(+4.3%)、ペイジー(+2.7%)の利用が増えたことが寄与している。キャッシュレス決済(クレジットカード、デビットカード、電子マネー)に着目すると、クレジットカードと電子マネーの利用が一般的で、デビットカードがほとんど利用されていないのが特徴的である。キャッシュレス決済比率は過去5年間で14.5%から23.5%へ拡大しており、徐々に日本においてキャッシュレス化が進んでいる状況にある。

日本のキャッシュレス化の進展状況について海外のデータと比較してみよう。図表2は、2015年の民間消費におけるカード決済(クレジットカードとデビットカード)の割合を示したものである。図表2における国々をサンプルとした場合、平均的に約40%である。日本におけるカード決済の割合は17%程度であり、世界的に見ると日本はまだ「キャッシュレス化」が進んでいない状況にあるといえる。日本銀行の調査では、日本における電子マネー決済の占める割合が世界と比較して高いことが指摘されているが、電子マネーを加えたキャッシュレス決済比率と比較しても、図表2のカード決済の平均値よりも低い。

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 出典 ニッセイ基礎研究所 日本におけるキャッシュレス化の進展状況について-日本のキャッシュレス化について考える(1)
以上をみていくと、日本においては現金を用いる場面が多いことは否定できない事実です。

所見 

上記のデータは何を語っているでしょうか。

筆者は以下の通りと想定しています。

  • メガバンクはある程度店舗数を削減しても特段の問題ない
  • 利用者が期待する全国展開の店舗網、インターネットサービスの充実はメガバンクが提供することが期待されているため
  • 現金の利用率は今後低下していくことが想定されるが、急激な低下は想定しづらい(日本は高齢者が多く技術の普及・転換が遅い可能性がある)
  • 日本で預金を持っているのは年齢が相対的に高い個人(国内金融資産1,800兆円の6割を60歳以上が保有)
  • 特にスマホ決済等に対応する可能性が相対的に低く、一方で現預金を相対的に多く保有しており、加齢の影響等により行動範囲が狭くなる高齢者は、住居の近くの銀行店舗・ATMの利用を重視する可能性が高い
  • 預金者の近くに拠点網を構えるのは、間違いなく地銀である
  • 拠点・ATMを削減していけば地銀から預金は流出する(現時点では利用者の近くに存在する以外に差異化が図れていない)
  • 地銀から預金が流出した場合、当然ながら貸出業務は規模を縮小せざるを得ない(現在は預金額が貸出額を大幅に上回っているため、すぐに影響はないが、大都市に人口が集中する傾向が高く、これからの大量相続時代には地方から都市に預金も流出する)

筆者は、地銀の強みは「現金を扱うこと」「利用者の近くに存在すること」と考えています。

現金を扱っているからこそ、利用者の近くにいることが強みになるのです。

現金を扱わなければ、利便性の高いネット銀行やメガバンクに預金は集中してしまいます。

当然、地銀の強みには「地域企業を知っていること」もあるのですが、地域から集めた預金があるからこそ地域の企業に融資ができるのです。

したがって、地銀は現金を扱うことをできる限り手放してはいけません。

近時の報道等から伺える地銀のリストラの動きは、間違いなく自らの強みを手放す可能性が高いものです。

この点については、筆者の見識が浅いだけかもしれませんが、筆者としては非常に懸念をしています。

何とか現金を扱いながら、コストを削減していく道(もしくは、収入を高める道)を求めることこそ、地銀が生き残っていく道なのではないでしょうか。