銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

RIZAPの事例に学ぶ、決算分析は究極的にはキャッシュフローを見るべき

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先日、久しぶりに再会した知人がげっそりと痩せておりました。

頬がこけており、大病をしたのかと考えていましたら、「RIZAPに通って痩せたのであって、病気ではない」と知人から言われました。久しぶりに会う人が、「同情したような、でも聞けないような、複雑な顔つきになる」ので、最近は先に説明しているそうです。

そこで筆者が興味を持ったのがRIZAPという企業でした。

ほとんどテレビを見ない筆者でもCMは知っています。

この企業についてはM&Aや新規事業の取り組みがすさまじいとは小耳にはさんでおりましたので、決算を軽く読んでみました。

筆者の感覚では、この企業の決算書は銀行員のみならず、投資家の皆さんにとって分析をしておく価値のあるものです。

RIZAPの行く末がどのようになるかは筆者には分かりませんが、現状の数値について押さえるべきポイントを挙げることはできます。

今回はRIZAPの決算をみていきましょう。

必ず、銀行員にとっても、株式投資家にとっても役に立つはずです。

RIZAPとは

「結果にコミットする」をうたう、ダイエットを主目的とするトレーニングジム、及びその運営会社であるRIZAP株式会社を参加にもつグループです。

CMで有名になり、多数の企業をもM&Aすることで、急激に規模を拡大している新興企業です。

 

RIZAPホームページにおける会社概要

RIZAPグループ株式会社(RIZAP GROUP,Inc.)

  • 所在地 〒169-0074
    東京都新宿区北新宿2-21-1 新宿フロントタワー31F
  • 設立日 2003年4月10日(2016年7月1日 健康コーポレーション株式会社より商号変更)
  • 資本金 14億75万円
  • 代表取締役社長 瀬戸 健
  • 従業員数 連結 5, 047名(2017年3月31日現在)
  • 取引銀行 みずほ銀行/りそな銀行/横浜銀行/三井住友銀行/北洋銀行

RIZAPの業績

まずはRIZAPの業績についてみていきましょう。

2017年9月中間期の業績は表面的には絶好調です。

 

<RIZAP連結中間業績>
売上収益 625億円(前年同期比+50.8%
営業利益 50億円(同▲20.6%)
純利益 29億円(同▲31.0%)

 

利益は減益となっていますが、6期連続増収、第2四半期のみであれば過去最高の営業利益となっています。

以下の図表をみれば売上が非常に伸びているのがわかるでしょう。

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(出典 RIZAPホームページ)

営業利益についても四半期ベースでは過去最高益を達成しています。

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(出典 RIZAPホームページ)

同社は今まで、一株当たりの純資産額以下という割安価格で企業を買収してきましたので、「負ののれん」が計上されていました。

<負ののれん>
のれんは、企業を買収した際に、取得原価が、資産と引き受けた負債の純額を上回る際に資産の部に無形固定資産として計上されます。
逆に、取得原価が、資産と引き受けた負債の純額を下回る際には、「負ののれん」として負債の部に計上されます。
出典 第一生命ホームページ
http://www.dai-ichi-life.co.jp/support/glossary/term0153.html

この「負ののれん」が発生するということは資産額に比べて企業を割安で買収したということになります。そのため、割安で購入した分について同社は営業利益に計上してきました。
以下の図表をみると、同社の利益のうち「負ののれん」=すなわちM&Aによる割安購入益が占める割合がいかに大きかったかがわかるでしょう。

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(出典 RIZAPホームページ)

その「負ののれん」の影響を除いても四半期ベースで過去最高益を更新しているということです。

しかも同社の説明では先行投資を上期で約46億円実施しているため、下期はこの投資が利益に貢献してくるとしています。

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(出典 RIZAPホームページ)

この先行投資等は同社の資料によると営業利益の減益要因となります。通常の設備投資というよりはマーケティング(広告宣伝費等)、新規事業やグループ会社の減益・赤字を指しているので一般的な概念とは少し違うかもしれません。

とにかく同社は上期の先行投資を下期で回収するビジネスモデルということであり、過去には実績が出ているようです。

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(出典 RIZAPホームページ)

また、利益に比して投資が先行しているが財務基盤に問題がないかという疑問にたいしては、以下の図表のように資本増強によって財務基盤を強化しているとしています。

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(出典 RIZAPホームページ)

 

以上をみてきた限りでは、急成長をしている投資先行型の典型的な会社の決算内容であるといえるかもしれません。
(ただし、負ののれん計上については典型的とはいえないでしょう。)

同社のCMの知名度、傘下に納めた企業の業績を回復させるマネジメント力等を勘案すれば、このまま同社は更に規模を拡大していけるようにも思えます。

同社の決算内容に留意すべき事項はないのでしょうか。

今までは「会計上の利益」についてみてきましたが、次に「キャッシュフロー」すなわち現金の流れについてみていきましょう。

RIZAPのキャッシュフロー

同社の2017年9月中間期における営業キャッシュフロー(=企業本業の営業活動から獲得した資金)を確認しましょう。

同社の営業キャッシュフローは上期では前年まで常に赤字です。

これは「本業では現金収入よりも支出の方が多い」ことを示しているといって良いでしょう。

2017年9月中間期ではこの営業キャッシュフローが10億円の黒字になっていますが、これは同社の過去の傾向からするとめずらしいことになるようです。

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 (出典 RIZAPホームページ)

同社からすると、同社は投資先行型であり営業キャッシュフローがマイナスのは当たり前といった認識なのかもしれません。

しかしながら、企業活動は営業で現金を稼げないのであれば、違うところで現金の収支を合わせないといけません。そうしなければ、債権者にお金を払えず倒産してしまうのです。

では、営業キャッシュフローが赤字の同社はどのように現金の帳尻を合わせているのでしょうか。

同社の決算説明会資料には掲載がないため、同社の有価証券報告書を元に内容を確認していきましょう。

RIZAPのキャッシュフロー全体像

同社の営業キャッシュフローの推移は先ほどお示ししましたが、同社のキャッシュフロー(以下CF)全体は以下の通りとなっています。

<2016年3月期>
営業CF 648百万円
投資CF ▲3,922百万円
財務CF 5,204百万円
現預金 10,311百万円
※この場合、数字の読み方としては、次のようになります。

本業で稼いだお金(=営業CF)が648百万円あり、投資に3,922百万円を使っています(=投資CF)。本業で稼いだお金だけでは足りないので、借入等を使って5,204百万円を調達(=財務CF)しています。将来のために多めに借りたということなのでしょう本業収入+借入から投資を引いてもプラスになりますので、その分は現預金が増加しています。

<2017年3月期>
営業CF 562百万円
投資CF 2,046百万円
財務CF 11,189百万円
現預金 23,990百万円
※2017年3月期は、財務CFがプラスとなっており、投資した以上に投資からの回収(不動産を売却する等)を行っており、投資CFがプラスになっています。また、今後に備えてでしょうか、112億円程度の資金調達を行い大幅に現預金が増加しています。

以上をみると問題は無いようにみえるかもしれません。

強いて言うならば、業績の割りに本業で入ってくる現金(営業CF)が少ないといった程度でしょうか。

ちなみに中間期時点のキャッシュフローも確認しておきましょう。

<2016年9月中間>
営業CF ▲625百万円
投資CF 1,505百万円
財務CF 11,822百万円
現預金 23,102百万円

<2017年9月中間>
営業CF 1,028百万円
投資CF ▲5,370百万円
財務CF 11,174百万円
現預金 31,164百万円

この二つの中間決算期を比べると営業CFの水準が低いこと(特に2016年9月は営業CFが赤字)、両期とも100億円を超える資金調達していることが目を引きます。
それでも投資先行の企業であれば問題があるとまではいえません。
では、もう少し細かい中身について確認していきましょう。

RIZAPキャッシュフロー計算書 

以下、キャッシュフローの詳細を確認していきます。

会計上の利益が出ていて、例え黒字企業であっても、資金繰りが回らなくなれば倒産します。

キャッシュフロー=現金収入を確認することが、企業の存続を見る上でのポイントです。

 

<2017年9月中間キャッシュフロー計算書詳細(単位千円)>

営業活動によるキャッシュ・フロー
税引前四半期利益 4,394,084
減価償却費及び償却費 924,073
減損損失 12,887
金融収益及び金融費用 226,733
棚卸資産の増減 △1,867,198
営業債権及びその他の債権の増減 △1,176,705
営業債務及びその他の債務の増減 721,691
退職給付に係る負債の増減 △331,602
引当金の増減 △145,427
その他 △1,258,941
小計 1,499,595
利息及び配当金の受取額 8,230
利息の支払額 △236,804
法人所得税の支払額 △685,937
法人所得税の還付額 443,108
営業活動によるキャッシュ・フロー 1,028,192

 

投資活動によるキャッシュ・フロー

定期預金の預入による支出 △58,303
定期預金の払戻による収入 149,714
有形固定資産の取得による支出 △2,568,220
有形固定資産の売却による収入 127,283
子会社の取得による支出 △1,070,111
敷金及び保証金の差入れによる支出 △215,874
敷金及び保証金の回収による収入 256,133
事業譲受による支出 △1,492,300
その他 △498,795
投資活動によるキャッシュ・フロー △5,370,474

 

財務活動によるキャッシュ・フロー

短期借入金の純増減額 △2,312,153
長期借入れによる収入 10,737,000
長期借入金の返済による支出 △5,036,756
社債の発行による収入 2,137,551
社債の償還による支出 △1,213,290
リース債務の返済による支出 △397,810
非支配持分からの払込みによる収入 8,982,449
配当金の支払額 △1,538,694
非支配持分への配当金の支払額 △19,676
その他 △165,030
財務活動によるキャッシュ・フロー 11,173,589

 

このキャッシュフロー計算書をみて何か気になるところがあるでしょうか。

まず、最終利益=44億円+減価償却費=9億円の53億円が営業CFのベースとなりますが、この数値から棚卸資産の増加=▲19億円、営業債権の増加=▲12億円が差し引かれています。それに利息の支払いや税金の支払いがあり、53億円あった営業CFのベースが約10億円まで縮小してしまっているのです。

これは問題ではありますが、急成長している企業であれば状況としては理解できます。

次に、投資CFです。

有形固定資産の取得による支出=▲26億円、子会社の取得による支出(M&A)=▲11億円、事業譲受(M&A)による支出=▲15億円と多額の投資を行っています。

この項目も急成長している企業であれば特段問題はないでしょう。

なお、成長が鈍化している企業は営業CFの範囲内に投資CFをおさめますので、財務CFにたよる必要がなく、結果として借入等が増えません。(これが日本企業の典型的なパターンです。)

以上の通り、営業CFでは投資CFを賄えないため、同社は何らかの対応をとる必要があります。

といっても何ら難しいことはありません。選択肢は大きく二つしかありません。足りない現金を外部から調達してくるか、内部の預貯金を取り崩すか、だけです。

月々の給料収入以上に支出がかさむため、銀行から借入を行って不動産投資を行っている家計と同じようなものです。

では、財務CFも確認しましょう。

短期借入金の返済=▲23億円、長期借入金の返済=▲50億円にたいして、新規の長期借入=107億円としており、返済額以上に新規の借入を行っています。

同様に社債の償還による支出=▲12億円にたいして、社債の発行額=21億円となっており、こちらも社債の償還(=返済)以上に、社債によって資金を借りています。

ここでポイントになってくるのが、「非支配持分からの払込による収入」=90億円です。
同社の現預金が増加したのは、この払込が大きな影響を及ぼしています。
同社は、通常の財務CFだったならば営業CFと財務CFでは投資CFのマイナスをカバーできませんでした。ところが「非支配持分からの払込による収入」=90億円があったために、大幅な手元現預金増加となったのです。

では、「非支配持分からの払込による収入」とはなんでしょうか。

これは、子会社の増資による収入です。

子会社のマルコやイデアインターナショナルが増資を行ったのです。両社はRIZAPの子会社ではありますが、上場もしています(すべての株式を握られている訳ではありません)。

<参考 マルコ増資>
増資による手取り概算は79億7900万円。いずれも、今後3年間の合計で新規店舗の開発に15億6000万円、マーケティング・広告宣伝に36億7500万円、マルコクレジット資金に14億4000万円を充当する計画だ。残りはシステム開発投資、資金事業開発、人材採用・育成などに充てる。

以上の通り、RIZAPの財務CFが大幅にプラスとなったのは、子会社の増資によるものであり、それが「非支配持分からの払込による収入」としてRIZAPグループの財務CFの収入になったのです。

この資金は子会社の調達した資金ですから、RIZAP本体としては勝手には使えない資金といえるでしょう。

以上がキャッシュフロー計算書の詳細項目のポイントです。

RIZAPの決算まとめ

RIZAPという企業が急激に規模を拡大していることは上記の通りです。

そして会計上の利益は出ています。これもみてきた通りです。

会計上は大幅増収増益となっており、勢いのある新興・優良企業にみえるでしょう。

ところが、キャッシュの流れに目を転じると、RIZAPの見た目は変わってきます。

確認できるデータでは、筆者はRIZAPを以下のように評価しました。

  • RIZAPは本業で現金を稼ぐ力は現時点では、少々弱い
  • おそらく、トレーニングジム事業で分割払い(2ヶ月のレッスン代を最長5年で回収)をしていることが影響しているものと想定
  • この分割対応は、将来的に資金回収ができなくなる怖れあり
  • 加えて棚卸資産の増加も著しく、これはトレーニングジム事業におけるサプリ等の商品のみならずアパレルの在庫等が含まれており、在庫の評価損がでる可能性は否定できず
  • これがRIZAPの本業における現金獲得面での懸念点
  • 加えて、先行投資ということで本業で稼ぐ現金以上にM&A等で支出
  • これはM&Aがうまくいっている間は何ら問題なし
  • もしM&Aで買収した企業の業績が悪化した場合には、RIZAPの業績の足を引っ張る可能性あり
  • そしてRIZAPの最大の問題点は、銀行や社債投資家等からの資金調達に頼っており、本業で現金を生み出す力に比して借入額が多い点
  • 有利子負債318億円を営業CF10億円で割ると返済に30年かかる計算
  • 本業のトレーニングジム事業で資金が思うように稼げなくなり、分割での回収が焦げ付き、大量に仕入れた商品在庫の売れ行きが鈍くなった場合には、同社の資金繰りは厳しくなることが想定される
  • 現在は銀行からの借入が比較的容易であるため問題無いと思われるが、留意が必要

以上が冷静にみたRIZAPの決算ですが、それ以外にも心に留めておくべきポイントがあります。

筆者にとってはこちらが本当のリスクと評価します。

  • RIZAPは決算を良く見せることに長けており、資金調達が上手い
  • 具体的には、前述の「負ののれん」の使い方、強いていえば「負ののれんを使ったファイナンス」を生み出したことが同社の強み
  • 同社は、「業績が良くないが、資産は相応にある企業」を割安で買収し、それにより負ののれんを発生させることにより、業績をかさ上げ
  • このかさ上げした利益を背景に新規資金を調達し、新たな設備投資、新規事業進出、M&Aを実施
  • 2017年9月中間期では、子会社の増資を使いキャッシュフローの帳尻を合わせにいくというパターンも獲得
  • 本業が堅調で、買収した事業がリストラで利益が計上されている間は問題ないが、本業や子会社業績に陰りがみえると、銀行等からの資金調達が難しくなり、資金繰り懸念が発生する可能性あり

将来のことは筆者には分かりません。

上述のリスクは、RIZAPのような業績急拡大の新興企業には当然に存在するリスクではあるものの、表面の業績だけをみると判断を誤る事例といえるのではないでしょうか。

 企業への投融資は会計上の売上、利益のみならず、将来のキャッシュフローを想定することが大事ということです。